古豪 2

「もう悔しい!」

「そんなことよりも早くプロテクター付けて行きなよ」

「辛辣!私の凡退が悔しくないんですか!?」

今も地団駄を踏みそうなくらい不機嫌な光。そんなにさっきの打席が納得行かなかったのか。


「兄さん、水無瀬さんものすごく不機嫌だったよ?」

光の変わりに投球練習を受けていた真琴が苦笑しながら戻ってきた。

「よっぽどさっきの打席が悔しかったみたいだよ」

「あー、あれ。確かに勿体無かったかな」

ベンチからだと分かりずらいが、あの感じだと打者の手元で変化しているから打つ気でいた光はまんまと術中にハマったんだろう。

「それよりも今は相手の攻撃だよ」

さっきの守備を見ても早くも相手チームを起こしてしまったようだ。


「こう舐められっぱなしも気分が悪いよな」

打者が一巡し、この回は先頭の姉崎あねさき 久美子くみこが打席に立つ。

(前回は簡単に四球をあげたからあんまり分からないんですよね)

スタンスを広めに取る独特な構えだが、如何せん先ほどはスイングをしたところ見ていない。


一球目、インコース高めの直球。

上体を少し逸らしてボールを見送る。

(相変わらず見えねー)

インコースの際どいコースに来ると余計にそれを感じてしまう。


二球目、真ん中に甘く入ったチェンジアップを捉えた。

「通しません!」

二遊間を抜けるという当たりにショートの夏夜がグラブをめいいっぱい伸ばして送球する。

(げっ、あれに届くのか!)

ランナーは懸命に走るも一塁審判の手が上がりアウトとなった。


「あー、くそ。あいつやべーな」

しかし、確実に打球を捉えていることを実感した打席にもなった。そして二番のセンター篠原しのはら ともが打席に立つ。


(……完全に劣勢)

守備に流れが来つつあるも未だに主導権を確保出来ていない状況なのは確かである。

(まだノーヒット中という現状はしっかり受け止めませんと)

自分に出来る仕事というのを再確認して構える。


「ファール」

カットで粘りながらこの打席で六球目を迎えている。最初に空振りを奪われながらも球数を重ねる毎に打球は鋭さを増してきている。

(ここで横や縦に曲がる変化球でもあればすんなり抑えたりも出来るんですが)

ないものねだりをしても仕方ないし、それを一番実感しているのはマウンドに立つ美智瑠さん自身のはず。


七球目、アウトコース低めにチェンジアップ。

(あっ、やば)

ボールが抜けていく瞬間に悟り、棒球がアウトコースの甘いところにいく。

(これを待ってました)

踏み込み快音を響かせると今度こそ三遊間を破り、この試合初ヒットとなった。


(また左打者。あー、辛いなこの流れ)

美智瑠は続く左打者にうんざりしていた。

(ようやく初安打か。球数も充分投げさせていたから一気に決めたいな)


一球目、三番の相田あいだ じゅんは一塁線にきっちりと送りバントを決める。

(併殺の可能性がある中で打つよりも後ろの託した方がいいだろう)

相田 潤、客観的に物事を見れる女性であった。


(一塁ベースが空いてますけど……やっぱり勝負行きますよね)

ベンチの宗輝からのサインは敬遠ではなく、四番との勝負を選択してきた。

(際どいコースで最悪歩かせる)

「おぉ、勝負をしてもらえるのか」

四番の鵜久森うぐもり 京子きょうこは立ち上がらない捕手を見て関心していた。

「練習試合ですからね。どんどん経験値積まさせてもらいますよ」

「それは期待に応える打席にしないとな」

とは言うものの本音を言うと一塁を埋めて守りやすい形で次の打者と勝負したかった。


一球目、アウトコースのストレートに反応するがライト線を切れてファール。

(ひぇぇ、もう小手先の握りを変えたストレートが意味無さそうです)

コースに逆らわずに弾き返す打球を見て、この打席に小手先の投球は通用しなさそうだ。


(試合で投げるのってこんなに疲れたかな?)

カウント1-2になり、美智瑠さんはふと思った。

練習で投げるときは楽しくて仕方なかったはずが、試合になると一球一球が自身の身体を重くしていく。

(ふぅ、忘れかけてたけど、これが試合なんだよね)

相手は点を取ろうと一球毎にチーム全員に投手に襲いかかり、後ろを見るとそれを支えようとしてくれる仲間がいる。

(前にボクの拙い投球を必死にリードしてくれる友達がいたよ)

大丈夫まだ点を取られていないし、気力は充分ある。


「と思っていたのに。逆転された!」

四番の京子には甘く入ったチェンジアップをセンターの頭を越える二塁打で同点にされたすぐに五番の久辺くべにはストレートを痛打されて一気に勝ち越しを許してしまった。

「よく2点で止まったって褒めておくよ」

「いらないよ!むしろ厳しくてもいいぐらいだから」

ずるずる引きずらずに六番を三振に抑えて来たのはそれなり評価したつもりなんだけどな。

「ピンチになって腕が触れてないから少し意識しないとな」

「鬼!そこは慰めてよ!」

……俺に何を期待しているんだよ。まあ、ただ美智瑠さんがまだまだ元気そうだから良しとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白球少女 週末びーる @yoshis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ