第4話  走る噂

「歩く砦」「不屈の人」等の異名を取る教会騎士団長バルドール・グランツマンは、毎年新米騎士の中から数人選んで、特別に訓練をつけることでも知られている。


 弟子を取るような形で新入団員を教育する者は他の上位騎士や部隊長の中にも居るが、なぜ団長の訓練は騎士団内で注目されるのか。それは訓練のあまりの苛烈さにある。模擬戦による立ち会いのみを唯一の訓練とし、それも手心の一つもなく完璧に打ちのめすのだ。


その圧倒的な剣技、体術、そして単純な膂力の前には、新米騎士達は骨の一本や二本は勿論、騎士剣すら容易に叩き折られてしまう。


「ヒーラーがいる。死ななければ壊しても直る」と言っては新人達を立てなくなるまで痛めつける様は、教会騎士ながらまるで悪魔だ。


 しかし、評判が悪いかといえばそうではない。理不尽を体現したような暴力を耐え凌ぎ、戦いの基礎を叩き込まれた騎士達は、その後の活躍がすさまじいのだ。どれほどかと言うと、団長の訓練を受けた騎士たちの武功だけで新たな英雄譚がいくつも書けると言われるほど。


 そのため、団長に訓練される新米騎士は、同期からは憐みの目を、先輩の騎士たちからは好奇と期待の目を向けられる。それは俺も例外ではなかったのだが、「訓練開始からたった2ヶ月少々で団長に勝った」という箔がついた俺の噂は、火が燃え広がるように騎士団内を駆け巡った。


それからは、何でもない訓練の度にギャラリーが押し寄せ、機嫌を一層悪くした団長の訓練は苛烈さをさらに増すことになった。


勘弁してくれ...

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