第2話  災難

「おい、おい、起きろーケイン。晩飯の時間が消えちまうぞー!!」


「起きたよ起きたからもう怒鳴るのはやめてくれカーチス」


自室のそれよりはまだ柔らかい医務室のベッドで目覚めた俺は、目の前の暑苦しい顔を押し除けながら起き上がった。


「ケインが団長に気絶させられた回数分かってるか?毎度毎度甲斐甲斐しく迎えに来る俺の優しさにそろそろ気付く頃だと思うんだけどなー」


「それは団長にお前から言ってくれ。あのゴリラは壊しても治るからいいと思ってるんだよ」


どこか面白そうな表情をしている友人の言葉はもっともだが、俺だって好き好んで気絶してるわけじゃない。当の本人に聞かれるともう一度意識を刈り取られそうだと思いながらも俺は愚痴を溢した。


神性降臨の儀からそろそろ3ヶ月が経つ。無事覚醒者として目覚め、教会騎士団に徴用された俺だが、俺の訓練兵としての生活はかなり危険な状態にある。


最初の1ヶ月は騎士団の仕組みや施設の案内などで、訓練といえば走り込みや筋肉トレーニングなどの基礎体力作りだけだったのだが、その間に俺は教会騎士団長の一人娘と仲良くなってしまったのだ。


完璧な容姿と穏やかな物腰を備え『医務室の聖女』と謳われている彼女に、まさか泣く子も黙らす鬼教官の父親がいるとは思いもしなかったのだ。他の騎士たちがなぜ彼女に声をかけないのか疑問に思うこともなく医務室に何度も足を運んだ結果、俺は午後の模擬試合で団長直々の指導を受ける毎日を送ることになった。しかし後悔しているかと言われればそうでもない。


太陽の光を集めて束ねたかのような輝く金の髪に、同じ光を宿す大きな瞳。きめ細やかで真白な肌に、稀代の彫刻家が手がけたと説明されれば頷くほどの完璧な微笑を浮かべる彼女は、容姿だけでなく正しく聖女と呼ばれるにふさわしい人格と能力を有している。訓練課程を卒業し正式な任務が受けられるようになれば、彼女をヒーラーとしてパーティに迎え入れるのが俺の当分の目標となった。


おそらく彼女が医務室勤務なのは父親である団長の意向でもあるのだろう。彼女をパーティに迎えるなら彼女の意思は勿論、団長に俺の実力を認めてもらう必要も出てくる。


唯一の友人であるカーチスの肩を借りながら医務室を出た俺は、またひとつ決意を固めた。


「あのゴリラを絶対黙らせてやる」

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