見習い騎士修行編

第1話  演説

「では神性降臨の儀を行う前にもう一度おさらいする。

 約300年前までこのサプタイト神聖王国を守護してくださっていた創生神カルカン様は、ご自分の死期を悟られていた。

 自分が居なくなった後のこの国の未来をうれいていたカルカン様は、残された力のほとんどを使ってこの世界のことわりを変える大規模な魔法を使い、お隠れになられた。

 我ら人間はカルカン様の庇護ひごを失ったわけだが、それと同時に人の力では決してありえないことを実現する者が表れ始めた。これが『覚醒者』と呼ばれるもので、カルカン様が行った魔法によって人の成長限界を超えた者たちだ。

 カルカン様の庇護無きこの地をその後守り続けたのは多くの覚醒者たちの尽力によるものだ。ここに集められたお前たちもそうだが、ここには呼ばれていない覚醒者もいる。何故かわかる者はいるか?」


 サプタイト神聖王国において、もっとも大きな中央協会の広場の前には、約30人の若い男女が集められている。その集団に向かって、教会騎士団長のバルドール・グランツマンは問いを投げた。


「覚醒者は生まれた時に既にその力を持っていますが、私たちは覚醒者の中でもその力がまだ発現していないからです。」


「その通りだ。カルカン様はお隠れになられたが、それはカルカン様の全ての存在の消滅を意味するものではない。」


 おずおずと即席の演説台まで近づいて答えた若い女性に、バルドールは応じる。


「カルカン様はその魔法によって魂の力をこの世界に放出された。これらの力を取り込んだのが覚醒者だ。覚醒者の特徴は常人にはありえない能力に目覚めていることだが、特筆すべきは覚醒者だけが神に至ることができるとされる点だ。

 ここまでがおさらいだ。では次に神性降臨の儀の説明に入ろうと思う。

 お前たちが受け継ぐとされるカルカン様の力の欠片は、不活性な状態では普通の人間と変わらない。そこで神性降臨の儀だ。

 お前たちはこれを行うことで、覚醒者としての力を解放することができる。生前のカルカン様が振るった奇跡の一部の体現者になるのだ。といっても、この儀式を経たところで力がすぐに使えるようになるわけではない。心身しんしんたましいを磨きあげなければ、大いなる力の一端を発現させることもできはしない。

 この儀式はその力にほんの少し目覚めやすくするためだけのものだ。

 ではお前からこの祭壇の中央に進みなさい」


 長々と話したバルドールは演説台のそばにやってきて言葉を交わした女性を手招きした。


 演説台の真後ろ、広場中央の台形に盛り上がった祭壇に女性が足を踏み入れると、祭壇に刻まれていた古代文字や幾何学模様きかがくもようが白色の発光を繰り返し始めた。


 煌々とその輝きを強めていく祭壇の中に、女性の姿が一瞬霞むと次の瞬間には祭壇は何事もなかったかのようにその光を失っていた。祭壇は続く人々にも同じような反応を示し続け、ついには最後の一人の順番が回ってきた。俺の番だ。


「では確認の為、名前と年齢を教えてください」


 祭壇の前に立った俺に記録官が尋ねてきた。


「俺の名前は—————」

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