第15話 アスカのツキのない1日④―幕間―

 翌日、何気なくつけていたニュースから西牙達も家族と共にアスカの家の事故を知ることになる。

 未成年であるため名前は伏せられているものの、その惨状や撮影班の取材模様に昨日瑞希への報告の途中で彼女が慌てて退出した時刻から西牙はなんとなくではあるが結びつけていた。


「…あれ?」

「どうした、可奈?」

「いや、今なんか敷地内になんか黒いのが入っていくのが見えたような…」


 偶々テレビの方を見ていた可奈が声を上げる。こういった映像でも西牙達には『見えて』しまうことがある。

 それを見てしまった可奈だが、こういった場合は目の疲れなどでそう見える場合もあるため誰かが一緒に見て答え合わせのようにしないと誤認ということもある。今の状況がまさにそうだった。

 テレビのその映像を見ていたのは可奈のみで、西牙達は普通に食事をしていた。


「それより可奈、早く食べてちょうだい」

「はーい」


 この時の可奈の見たものは正しかった。それは瑞希ですらいくつもの対応のためそこに気づくことは出来なかった。

 静かに、非日常の扉が開きつつあった。



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 お昼を過ぎた頃、瑞希は所轄の警察署に訪れていた。

 現場検証の内容を同職のよしみとして詳しく教えてもらうことが出来たことも踏まえアスカが取り押さえた男と面会を希望することにした。

 留置所の一角ではその男が床に横になっていた。


「貴方がうちの壁を壊した人間の一人ね」


 ちらりと男は瑞希を一瞥するとそのまま目線をそらす。


「相手が悪かったわね。警察関係者の家にあそこまで派手にするなんて」


 その関係者が私だけどね、と付け足し警察手帳を提示する。

 それを見た男は慌てて飛び起きる。


「もっとも、身内の関係した事件で私情を挟まないよう捜査には関われないけど、貴方を取り押さえた子の親として相応の請求はさせてもらうからそのつもりで。ああそれと…」


 そう言った後瑞希はにっこり笑ってこう残りの言葉を口にした。


「留置所出ても周防組から何かしらの罰があるのは決まってるからそっちは警察は一切対処できないわよ」


 その言葉に真っ青になる男は何かを叫んでいるが瑞希と立ち会いの警察官はその場を後にした。

 留置所を出て男の声が聞こえない状況になったことで改めて事前に話していた内容の確認とこの後の捜査についてのお願いをする瑞希。

 瑞希が立てた作戦は昨日見せてもらったアスカのスマートフォンの映像からの推測であれど、ある種の誘導尋問といってもよかった。

 警察も現在禁止されているのだが、今回は周防組が実際に起こる内容をほのめかす注意喚起という形で自白に持っていこうというものだ。

 勿論詭弁ではあるが時にはこういった方法をとらないといけないのは瑞希が一番分かっている。


「あとは、これでうまく同乗者について自供してくれるといいんだけど…元会長とはプライベートで良好な近所づきあいしているから、組そのものは当面私刑を取るようなことは出来ないわ」


 事実、アスカの入院手続きのため離れた際に老人には話をしており実際に周防組の役員をしている息子の家族からも車の所在については正式に周防組のものである確認が取れていた。


「何日かしたら弁護士と共に来るかもしれない。その時は被疑者への損害賠償請求に伴う情報提示に来ると思うわ」


 今後のことについて話をし、瑞希は警察署を後にした。

 その後、アスカの入院中に逃亡した残りの男達は捕まった男の自供により無事全員逮捕された。

 周防組からも一般的な損害賠償請求として当時使用した車が特別仕様だったこともあり、かなり高額の損害賠償とアスカ達への慰謝料を一括請求されることになったがそれはまた別の話。

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