第3話 日常と非日常が交わるとき

 倒れた少年を介抱しながらアスカは言葉では言い表せない不安を感じていた。あの夢からここに至るまであり得ないことがかなり起こっている。


 普通ではない状況に軽いめまいをおこしそうな状況だ。そんな中でどうしたらよいのか全く分からないからだ。


「とりあえず、応急処置としてあとは・・・体を冷やすものね」


 頭の片隅で何かが違うと告げているが、分からない以上熱中症対応を続けざるを得ない。幸いにも遊んでいた子たちの親が気づいてくれたため、ほぼ対応処置は終わっている。


「あたし、氷用意してきますので!」


 そう話し、アスカは近くの店に駆け込むことにした。西牙の張った結界の位置の先にある方へ。


 そして駆け出してすぐ、彼女の視界は一変した。


「・・・なに、これ」


 猛暑の暑さはあるのに、周囲がいきなり霧のような濁った視界。さっきまでの喧噪が嘘のように静まっている。よく見れば濁った先の人たちは静止画のようにピクリとも動いていない。


 呆気にとられていたが、耳を塞ぎたくなるような金切り声が響き渡る。その方を見ると西牙が複数の得体の知れないものと対峙していた。

 得体の知れないと言っても、ホラー映画などで見るような悪霊ではあるが。しかし、それでもアスカの思考が停止するには十分な状況だった。


 そして一体ずつ悪霊を処理していた西牙もその最中でアスカに気がつく。

「どうやって入ってきた!?」


 西牙も本来起こりえない状況に驚く。結界術はまず普通の人は認識できないし認識できるのは西牙と同じ特異体質の人だけだ。そして認識できたとしても入り方が分からなければ入ることはできない。


 そのため西牙は焦りを隠せずにいた。とはいえ出来ることは限られている。焦りで鈍る思考を振り払うように一度大きく深呼吸する。そして今どうしなければいけないか自身に問いかける。


 そう、することは変わらない。

 深呼吸して冷静になった思考で悪霊たちの動きを把握し、手にした拳銃らしきものをむける。そして感覚を研ぎ澄まし拳銃らしきものに意識を集中させる。

 この状況で無防備なアスカを認識した3体の悪霊が彼女に襲いかかるものへ向かって引き金を引く。かちり、と乾いた音とともにアスカに向かっていた悪霊の1体の体が爆ぜる。


 そのまま一気に駆け出し、さらに銃口部分へあるイメージを集中させる。すると透きとおったような刀身が形成される。そのままアスカに向かっていたもう1体を切り伏せると、


「しゃがめ!!」


 そうアスカに向かって叫んだ。その言葉で我に返ったアスカは眼前に迫っていた悪霊を冷静に悪霊の背中へ掌底をたたき込んだ。


 そのまま悪霊は地面に叩きつけられて数メートル転がる。無意識とはいえ、武術を習熟しているからこそ運良く動くことが出来た。


 そんな光景にに今度は西牙が呆気にとられ思考が完全に停止した。


「今、一撃を当てた?」

「……いやいや!いくら何でも都合良すぎるでしょ!?」


 さっきの自分の行動に対し、冷静に思い返しながら思わずアスカはセルフツッコミを入れてしまう。確かに無意識で体が動いたとはいえ、このような形になるとは思いもしなかった。普通に考えればまず触れないだろう。それなのに掌底の一撃をお見舞いしたのだ。当然そう思いたくもなる。しかし――


「………もし、夢が本物だとしたら……」


 ゆっくりと起き上がる悪霊を見据え、さっきの夢を思い出す。


(腕輪の前で何を描いていた?もしそれがこれと同じなら……)


 そう考えつつ目を伏せ、深呼吸をする。それと同時にぼんやりとだが、夢の中で描いたものが思い起こされる。


「これも……現実になる!」


 宝石の部分を中心に素早く空中に五芒星を描き、つけた腕輪を弾き飛ばさんばかりの勢いで描いた五芒星に触れるように動かす。次の瞬間、腕輪が光り輝きつけていた感覚がなくなる。光が消えるといつの間にかアスカの手にはずしりとした感覚とともに鞘に収められた太刀が握られていた。


「……本当に現実になった」

(でも、なんとなくだけど……)


 慣れた動作で半身だけ刀身を出し観察する。摸造刀とは違う本物の刀の鈍い輝き、持った今の感覚それが現実であることを物語っている。


「なら……」


 悪霊がアスカに再び向かうと同時に帯刀する位置に鞘から抜かず鍔に親指をかけ太刀を構える。


 眼前に悪霊が近づいた瞬間、目にもとまらぬ早さで太刀を鞘から抜き水平切りし、さらに鞘をくるりと返し悪霊に突き立てる。


 大きく悪霊が吹っ飛びながらその体は地面に触れる直前にすべて跡形もなく消えていた。


 慣れた手つきで太刀を納刀するにアスカの一連の動きを見ていた西牙は我に返る。それと同時にアスカはあることに気がついた。


「そういえばこれ……元にどうやって戻すの!?」


 手にした太刀を前にして困惑の表情に変わった。

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