第2話(西牙side)隣り合わせの「非日常」

 真夏の日差しが照りつける都会の公園に西牙は一人散策していた。あまりの暑さで気が滅入りそうになりながら走り回る子供たちを横目に1人日陰で一息入れる。


 スポーツドリンクを飲み干し、暑くなった体を冷やすため保冷性の高いタオルを首元に巻く。


「それにしても……この暑さきついな」


 周囲に日影があるものの、コンクリートジャングルである都会では照り返しによってより暑く感じる。


 そんな中、周囲を見渡しながら精神を研ぎ澄ます。わずかに違和感は感じるものの、その違和感の気配に悪意は感じない。


 感じた違和感の視線にいたのは自分と歳の変わらない少女で何かを考えている。ただ、左手につけている腕輪は年不相応のようにも見える。


 更に集中してみるとその少女のすぐ近くに年配の女性がいるのが。小さく息を吐いて集中を解くとそこにはもう年配の女性はいない。それをヒントに西牙は少女の守護霊だと結論付ける。


 彼は生まれ持ってそういった感性が高く、一族揃ってその能力をうまく使っている。世間一般で言う悪霊から妖怪まで悪しきものを祓ってきたのだ。


 「非日常」を幼いころから見ている彼にとって、さっきの光景もなのだ。もちろん、現代では異質なものであるため、何年か前は見えない方がいいと考えたこともあった。


「これは……出直しかな?」


 容赦ない日差しから避けているとはいえ、体の方が重く感じるようになってきている。熱中症に備えていても酷暑ともいえる異常気象では長く動こうなどと考えたくもない。


 最後にもう一度問題がないか確認しておくだけしようと一度深呼吸し、そっと目を伏せ意識を集中する。そこに先ほど感じなかった違和感を「捉えた」。


「当たりを引いてしまったな……」


 そうつぶやくと周囲に目を配りながら違和感を感じた方へ意識を向ける。そこには一人の子供が違和感の正体――悪霊に体をむさぼられていた。


 急いだ方がいいと判断した西牙は素早く結界の印を結ぶ。結界が構築される直前、悪霊にむさぼられ倒れた少年に気づいた少女が駆け寄り木陰へ避難させているのが見えた。


「まあ、見えなけりゃ熱中症か何かで倒れたようにしか思わないか」


 そう結論づけると同時に問題なく結界が張れたことを確認する。結界が張られている間は普通の人の認識がそこだけなかったように切り取られる。


 ほかのグループで走り回っている子たちはそこをよけるように過ぎていくのが見えた。


 そしてそのまま指先に感覚すべてを注ぎ込み素早く小さな円を描く。すると、西牙の目の前が結界に閉じ込めた悪霊がみえる。


「さっさと終わらせて帰るとするか」


 ホルスターに入れているものを確認するとそのまま結界の中に入っていった。非日常を日常に戻すために。

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