第2話 西之島2

西之島のコロシアム。


基本は1対1で戦う。賞金・賞品は勝者のモノ。年齢・性別・人種は関係ない。西之島では強さが全てである。敗者を生かすも殺すも勝者の自由である。


コロシアムに観客はいる。見物料を払って見に来る。島民・船でやって来た肌が白い者・黒い者、宗教関係者、コロシアムの参加者など多種多様な人間がいる。しかし、お金は賭けない。西之島にはカジノ・賭博場があるからだ。それとやらせ・いかさまを防止するためでもある。



コロシアムで試合が始まろうとしていた。


ライは十束剣(とつかのつるぎ)を持ってコロシアムに立っている。10束(束は長さの単位で、拳1つ分の幅)の長さの剣」という意味の名前であることから、一つの剣の固有の名称ではなく、長剣の一般名詞と考えられている。


剣の名前は天之尾羽張(あめのおはばり)。別名 伊都之尾羽張(いつのおはばり)。また稜威雄走神(いつのおはしりのかみ)神の名前という説もある。


「尾羽張」は「尾刃張」で、鋒の両方の刃が張り出した剣の意味である。「天」は高天原に関係のあるものであることを示す。「伊都」「稜威」は威力のことである。「雄走」は「鞘走る」(さおはしる)の意で、鋭利な刃であることを示す。


コロシアムの大会の優勝賞品として、ライは手に入れた。



対戦相手の2メートルを超える大男が大きな斧を持って立っている。


「おいおい! ガキが相手かよ? 俺はなんて運がいいんだ! こんなガキを殺し たら、千両箱がもらえるなんて! ハハハハハッ!」


大男は相手が子供と知って、余裕そうに馬鹿笑いをしている。


「・・・。」


ライは表情を変えず、何もしゃべらなかった。ドーン! 戦いの開始のドラが鳴り響いた。


「すぐに殺してやるぜ!」


大男は大きな斧を振り上げる。


「・・・。」


ライは微動だにしない。


「死ね!」


斧を振り下ろした。グチャ。斧は地面に突き刺さった。


「・・・。」


ライは大男に背を向け、歩いて離れていく。


「クソガキ! どこに行きやが・・・る?」


大男は攻撃がかわされて怒っているが、なんだか様子が変だ。ブシャ。大男の体から血が飛び散る。


「ギャア!」


大男は悲鳴をあげて、地面に倒れた。


「・・・。」


ライには見飽きた光景であった。


「ご苦労さん。」


コロシアムから去ろうとするライに、声をかける男がいた。


「ギュウさん。」


ライの足が止まり、ギュウという男の目を見る。


「姉貴が会いたがっていたぞ、顔を見せてやってくれ。」


ギュウという男は、コロシアムの責任者。西之島でも3本の指に入る強者である。


「命令ですか?」


ライは表情を変えずに無表情のまま聞く。


「命令だ、そう言わないと、おまえは行かない奴だからな。」


西之島では強さが上下関係の基準だった。


「承知。」


ライはギュウの姉のいる舞台小屋に向かうことにした。



西之島の劇場。


世界各地からやってくるお客さんから観劇料を取っている。全員のお目当ては舞台女優のアマという女性が目当てである。その女性は楊貴妃やクレオパトラよりも美しく太陽の様に輝いていた。


彼女も島のコロシアムで最強と言われ、神とも呼ばれていた。その強さと美しさから自ら希望した劇場で主演女優として、お客様に愛と戦いのお芝居を演じている。

歌あり踊りありのショーもあり、劇場は連日の満員御礼で潤っていた。



「アマさん。」


ライは劇場の控室にギュウさんの命令として、アマさんに会いに来た。


「ライ。」


アマという女性はライを見ると笑顔で迎え入れる。


「よく来てくれたね。」


アマは久しぶりに見たライに喜んでいる。


「ギュウさんの命令だから。」


ライは表情を一切変えない。


「・・・。」


そんなライを見て、アマはライを心配する。


「ライ、おいで。」


アマは両手を広げライを受け入れ、抱きしめる。


「ライ、ごめんね。幼い頃から戦ってばかりで、心が壊れてしまってるんだね。」


ライの境遇に、アマは目を閉じながら涙を流す。


「・・・。」


ライはアマに抱きしめられても、表情を一切変えなかった。


「ギュウさんとアマさんの命令は果たしたから。」


そういうとライはアマの手を振り解き、アマの前から去って行く。


「ライ・・・。」


アマはライの去りゆく背中を寂しそうに眺めている。なんと声をかけたらいいのか分からないのである。



西之島のカジノ・賭博場。


ここも世界からお客さんが来る。コロシアムでお客に勝敗を賭けさせないのは、ここのためと言ってもいいだろう。サイコロあり花札あり麻雀あり、西之島には外国からトランプやチェスというゲームも伝来しており、多種多様な賭け事がされていた。


このカジノ・賭場場を管理しているのが、ゲツという男だった。ゲツもコロシアムでは最強と言われ、夜の神といわれるぐらいに瞬殺や暗殺が得意だった。賭場でも誰にも分からずにイカサマをするのが得意だった。



「よう、ライ。」


ライが賭場の前を通っていると、ゲツに声をかけられた。


「ゲツさん、こんにちわ。」


ライは表情を一切変えることはなかった。


「いいね、おまえは俺好みだ。俺と同じ血の匂いがする。」


ゲツはライに自分と同種な残虐性を感じている。


「コロシアムを卒業したら、おまえは賭場で働け。」


ゲツもライの性格をよく知っている。


「わかりました。」


ライは意味が分かっているのかは分からない。


「いいディーラーになるぞ。ハハハハハッ!」


ゲツは下品な笑い声を高々とあげた。


「・・・。」


ライはゲツを相手にせずに去って行く。


「相変わらず愛想の悪いガキだ。」


ゲツはライの態度を良く思っていない。



ライは西之島の島長、ナギの所にやってきた。奥さんのナミはいなかったが、息子のカーはいた。カーの歳はライと同じくらいである。


「ナギさん、今日も勝ちましたよ。」


ライは島長にコロシアムの結果を伝える。


「だろうな。もう今のコロシアムにライと戦える奴はいないな。」


ナギもライの強さを認めていた。


「死んだ父親も、成長したおまえの姿を見たら喜ぶだろうよ。」


ライに剣の稽古をつけてくれた父親は死んでいた。


「おまえの稼ぎで母親と妹は安心してくらせるな。」


ライには母親と妹がいる。


「・・・。」


ライは島長のナギが相手でも表情をまったく変えない。


「おやじ!」


ナギの息子のカーがイライラして声をあげた。


「ライが強いんじゃねぇ! 剣が神刀だから、たまたま勝っているだけだ!」


カーは声を荒げ、剣のおかげでライが勝っているという。


「・・・。」


ライは表情を一切変えない。


「やい! ライ! 俺と勝負しろ!」


カーはライに戦いを挑むが、


「いやだ。弱い者の言うことは聞かない。」


ライは島の規則、強さが全てという教えに従っている。


「バカにするな!!!」


カーは激怒する。


「は・・・、ライ。バカ息子の相手をしてやってくれ。」


ナギはため息をつく、呆れながらライにお願いする。


「命令ですか?」


ライは自分より強いナギの命令には従う。


「おお、命令だ。すまないな。」


ナギも余計なことをさせて、ライに申し訳ないと思っている。


「承知。」


ライは剣を手に取り、


「剣を献上します。」


ライはナギに天之尾羽張を差し出す。


「え!? いいのか?」


さすがの島長も高価な剣をくれるというので驚く。


「カーの相手は、竹刀で十分です。刃がついてると殺してしまいますから。」


ライは表情は一切変えないが、饒舌だった。


「なめやがって! てめえなんか殺してやる。」


ライは竹刀を持ち、


「死ねえ!!!」


襲い掛かって来る、日本刀を振りかざしたカーを、


バチ!


ライは竹刀一振りでカーを宙に吹き飛ばす。


「ギャア!」


カーは地面に叩きつけられ気絶している。


「ナギさん、失礼します。」

「おお、またな。」


ライは挨拶をすると去って行った。


つづく。

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