第3話 西之島3

ライの家は海のすぐ近くにある。ライのコロシアムの賞金のおかげで、木造の立派な家が建っている。ライの家は大金持ちであった。


ライの家族は母と妹の3人で暮らしていた。父は誰かに暗殺された。ライの父の素性は誰も知らない。ペットに犬も飼っていたが、父と一緒に殺されていた。


「母さん、ただいま。」


ライは自宅に帰って来た。


「おかえり。」


母はご飯の支度をしていた。


「あれ? チイは?」


チイは妹の名前である。


「海辺で遊んでいるから、読んできておくれ。」

「わかった。」


母に言われて、ライは海辺に向かった。


ライは外では表情を一切変えない不愛想だが、家族の前では少しだが柔らかさを見せている。ライにとって、家族といる時だけが心に血が通うのだろう。大切な家族であった。


「・・・。」


海辺に着いたライだが、砂浜に妹の姿はなかった。ライは周囲を見渡しチイを探した。


「チイ!?」


ライが見つけたチイは、海の沖合に気を失って浮かんで流されていた。バシャン。ライは悩むことなく、海の沖に泳いでいく。


「チイ、チイ。」


ライはチイの所までたどり着いた。名前を呼ぶがチイは目を覚まさない。


ドバー!!!


その時だった。突然、大津波が発生し、ライとチイを飲み込んだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ライは海に沈んでいきながら、声にならない大声をあげた。ライは海の底に沈みながら意識を失った。



「起きろ。」


ライの心に声が聞こえてくる。


「起きろ、人間。」


ライはゆっくりとだが瞳を開ける。


「ん・・・んん・・・。」


ライは意識を取り戻した。


「ここは・・・どこだ・・・。」


ライの体は浮かんでいるようだった。


「海の中だ。」


ライを読んでいた、海竜がライの前にいる。


「は!? チイは、チイはどこだ!?」


ライは妹がいないことに取り乱す。


「人間の少女は津波に砂浜まで運ばせた。」


海竜は妹は無事だという。


「よかった。」


ライは少し安心してホッとする。


「人間、おまえがここにいることは運命だ。」


海竜はライがここに来たのは必然だという。


「運命?」


ライはいきなり言われても受け入れられない。


「おまえは剣の神、タケミカヅチの生まれ変わりだ。」


ライは子供の頃から剣の達人だった。


「おまえの中には、神がいる。」


ライは自分が神の生まれ変わりで、


「剣の神?」


自分の中に神がいると言われても実感はない。


「霊剣、布都御魂剣(ふつみたまのつるぎ)を見つけよ。」


ライでも海竜でも無い声が、


「声?」


ライに聞こえてくる。


「さすれば、我の力を与えよう。」


声は消えていった。


「タケミカヅチ神の声だ。」


海竜は声の主をライに教える。


「タケミカヅチ?」


タケミカヅチは剣の神、雷神である。


「今の日本国は不吉な闇に覆われようとしている。」


海竜は説明を続ける。


「闇を振り払えるのは、神を宿した人間、おまえだけなのだ。」


ライの運命が少しづつ進み始める。


「おまえは神と竜に選ばれた人間だ。この世の邪悪と戦わなければいけない。」


それがライの運命である。


「命令ですか?」


ライは自分より強い者の命令に従って生きてきた。


「運命だ。」


海竜は運命とは言わない。


「・・・。」


ライは開き直ったように決心する。


「よくわからないけど、妹が無事ならいい。」


ライは運命を受け入れる。


「島での暮らしは、壊れそうなほど、狂いそうにほど、苦しかったから。」


ライは、まだ15歳で戦ってばかりの生活を送っていた。


「それに比べれば、自由になれそうだし。」


強くなりすぎて、なんのために戦っているのかも分からない生活だった。


「闇でも邪悪でも、斬ります。」


初めての自分で選んだ道、自由意思による選択だった。


「自分で選んだ道が運命なら。」


命令で生きてきた人間が運命で生きることを選んだ。ピカ。ライの目の前が神々しく輝き、光の中から剣が現れる。


「我が竜族から一龍雷剣を与えよう。」


一竜とは、海竜を指し、雷剣はタケミカヅチを指す。


「一龍雷剣。」


ライは戸惑いながらも剣を手に取る。剣の鞘には竜の絵が書いてある。


「天之尾羽張を使いこなせたなら、使いこなすことができるだろう。」


海竜は何でも知っている。シャキーン。剣を鞘から抜いて見つめた。


「きれいだ。」


刀身は龍が天に昇るように輝いていた。


「あれ?」


柄には竜玉が一つ埋まっていた。


「それは私の竜玉だ。」


海竜らしく、玉は青かった。


「竜に出会い、己の力を認めさせれば、竜玉を手に入れることができるだろう。」


親切に竜玉の入手方法も教えてくれた。


「わかった。」


ライは不愛想に返事をする。


「人間、おまえは神を宿しているのに、心が穢れ過ぎている。」


ライは幼い頃から西之島のコロシアムで戦い続けてきた。そのたま精神が不安定で心が壊れていた。


「私の海流で、おまえの穢れも清めてやろう。」


海竜が言うと、ライの周りの水が流れ込み、


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ライは海流に流され、渦潮の中に消えていった。


つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る