パティシエ、初仕事。

「ここで、作業をします。」

夢船さんが、ドアを開けながら言った。

「わあ。」

私は思わず声を上げた。

そこは、作業をする厨房なのだが、その厨房がとてもかわいいのだ。

赤と白のタイル。それと木材で作られているのかな。

とにかく、かわいらしい。

他の皆さんは、黙々と作業を進めている。

「新人のあなた達には、オーブン担当、生地を焼く工程をやってもらうわ。」

生地を焼くのかぁ。焦がさないように頑張らないと。

「はい!」

私たちは元気よく返事をし、作業を始めた。

「新人さーん。」

早速うしろから声をかけられた。

「はい!」

私は返事をし、振り返った。

茶髪の女の人で、長い髪を後ろにまとめていた。

まつ毛は長く、瞳はキラキラ光っている。

「設楽と言います。宜しく。」

そういって設楽さんは手を伸ばした。

私はその手を握り、握手をした。

そして、ここで働いている仲間について、詳しく教えてくれた。

生地担当が、シェフの衣笠さん、あと、神城さん、草薙さん、深山さん、設楽さん。

仕上げ担当のシェフが、葛城さん、あと、天羽さん、瀬賀さん、野々原さん、夢船さん。

私と同じオーブン担当が、シェフ、夢野さん、ほかには、赤石さん、山木さん、あと、私たち二人、らしい。

「さっそくお仕事お願いするわぁ。」

そういって設楽さんは生地を私に差し出した。

「これ、ケーキのスポンジの生地。焼いたら仕上げ担当に回しといてねー。」

そういって設楽さんはくるっと回って後ろを向き、手を振って帰った。

私は生地を抱えて、オーブンの所へ行った。

オーブンペーパーを敷いた型に一気に生地を流し込む。

良し、全部入った。

それで、180度を45分、と。

焼き色を見ながらやらないと焦げちゃう。


約40分後


よし、いい焼き色!もうそろそろ出そう。

私はオーブンを止めて、スポンジケーキを取り出した。

ナイス!いい香り!

私はスポンジを仕上げ担当の夢船さんに渡した。

「ありがとう。いい香り。ばっちりじゃない。」

そういって夢船さんはOKマークを作って笑って見せた。

私はお辞儀をして戻った。


そのあと生地をもらっては焼いて、もらっては焼いてを繰り返した。



そして九時五十分、回転十分前。


皆でできたケーキやお菓子などをショーケースに並べた。

外では常連さんたちが焼きたてのケーキを食べようと並んでいる。

私の作ったケーキでみんな喜んでくれるかな?



10時、開店!


少ししかいないけれど、並んでいたお客さんたちが、一気に入ってきた。

このお店には、買ったケーキを食べれるスペースがある。

学生時代、私はここで学校帰りにケーキを食べていた。

あの楽しさは忘れられない。


ここからは売れ行きを確認していく。

私と東郷は接客の仕事をする。


「すみません。」

早速お客さんが寄ってきた。

「ケーキの注文、していいですか?」

そのお客さんは、3,40代くらいのおばさんで、綺麗な服装をしていた。

「はい、どのようなケーキでしょうか。」

私がそのお客さんに聞く。

「えっと、娘の誕生日ケーキなんですが。」

私は‟誕生日ケーキ”とメモをした。

「ケーキに娘さんの名前と年齢を入れることができますが、しますか?」

私はお客さんに聞いた。

お客さんは、「お願いします。」と小さくいってうなずいた。

「では、娘さんの名前と年齢を教えていただけますでしょうか。」

私はメモの用意をしながら聞いた。

「えっと、真奈美って言います。7歳になります。」

‟名前 真奈美 七歳”

私はそうメモして、メモを閉じた。

「では、どのようなケーキにしましょうか。」

私はさっき閉じたメモをもう一度開けてボールペンを手に持った。

「チョコレートケーキのホールサイズが5号で。」

私はうなずきながら条件をメモした。

「ありがとうございました。受け取りはいつ頃で?」

お客さんは一瞬考えたような仕草をして言った。

「明日の、お昼過ぎに向かいます。」

明日かー。OK

「はい、ありがとうございました。お待ちしております。」

私は深くお辞儀をして顔を上げた。

早速報告しなきゃ。

私はとりあえず夢船さんに報告した。

「わかった。ありがと。」

わたしの書いたメモをもって、夢船さんは男性のもとへ行った。

店長、さんかな。

あの人、どっかで見たことがあるような…。

あれ

もしかして

あの人

「雨宮先輩!?」

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