6.

「おじさん、戻ってきたのかい?」

「ああ。」早くも日が暮れてきた。「バイクが無くなってた。」

「お兄さんのバイクが?」

「そうだ。君たち知らないか?」みんな首を横にふった。知っててもほんとのことを言うとは思えない。

ダメもとで聞いてみる。「電話はあるか。公衆電話とか。家庭用の固定電話。」

「無いよ。」やっぱり。あったら警察に助けを求めたのに。

「今晩、どこか軒下を貸してくれないか。泊めてほしいんだ。明日の朝、早くつ。迷惑はかけない。」

子供たちは顔を見合わせた。

一番年長者らしい子が言った。

「神社に泊まりなよ。」

「良いのか。」

「悪さしなきゃな。中に入ると祟りがある。絶対入るな。中を覗いてもいけない。目が潰れる。ヤブ蚊が出るけど、縁側の、廂の下なら、夜露に濡れることもない。」

「そうか。」

「おじさん、腹が減ってるだろ。ふかし芋ならあるよ。」

俺はさほど腹は空いてなかったが、明日の山越えのことを考えて、食べられるものは食べておこうと思った。

「ありがたい。もらうよ。金は払う。」

子供たちは笑った。「金なんか、らない。」

女の子が俺に、竹の皮で包んだサツマイモと、竹筒に入ったお茶を渡してくれた。

石段を登ると、シダやクマザサが茂り放題の境内に、ちんまりと祠が建っている。

俺は千円ばかり奮発してお賽銭を格子の隙間からねじ込んだ。そのとき一瞬、中に何か人型の偶像のようなものが見えた気がしたが、見なかったことにした。目をつむり、無事を祈って、

「一晩軒下をお貸し下さい。」とお願いして、縁側に寝そべった。

女の子がくれたお茶はドクダミ茶だった。

そのお茶でサツマイモを無理矢理喉に流し込み腹を満たしたら、猛烈に睡魔が襲ってきて、俺は眠りに落ちた。

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