5.
悪い予感は当たった。
当たってほしくなかった。
俺のバイクは無くなっていた。
油断してた。せめてチェーンで鍵をかけておくべきだった。
誰のしわざだ。あの、写真家が俺をからかっているのか。
それとも子供らのイタズラか。
ともかく、バイクがなきゃどうにもならない。この山から出ることすらできない。
バイクごと、テントもコンロも、食料も、着替えも全部なくなった。
まずいな。これって遭難じゃないか。
「ええ、そうなんです」って自分が駄洒落を言う時が来るとは思わなかった。
ええい、ともかく、明らかに俺は今、遭難している。
落ち着け。
Don't Panic。
深呼吸しよう。
よし。俺は冷静だ。たぶんまだ狂ってない。正常なはずだ。
パニックを起こして、ほんとに狂ってはダメだ。
自分が狂ってないか確かめる方法ってなかったっけ。
よくわからない。
でもなんとなく、自分が狂ってないかどうか確かめようと努力している俺はまだ狂ってない気がする。少なくとも、狂ってるかどうか確かめようとすることさえできないほどには狂ってない。ま、ともかく狂ってないっぽい。
とりあえず、持ち物を確認しよう。財布。お金。スマホはまだ充電たっぷり。うん。落ち着いてきたぞ。
うん、俺は、理性のある、まっとうな大人だ。大丈夫大丈夫。とにかく今は自分がまともだってことを信じるしかない。まともじゃなきゃどのみち俺は終わりだ。この山からどうやって下りるか。そのことに気持ちを集中しよう。
やっぱり、あの村に戻って泊めてもらうしかない。
というかそれ以外選択の余地がなさそうだ。気味が悪いがしかたない。
きっと明日の朝すぐに出発して、尾根を越えれば温泉宿にたどり着けるだろう。
うん。なんてことはないさ。
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