1月2日  初夢

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 さて、諸君らは昨晩どんな夢を見たであろうか。

 本日2017年1月2日に語るは『初夢はつゆめ』である。

 なに? 何も見ていない? ん? 寝ていない?

 安心したまえ諸君。初夢は元日の夜に見るものとするところがあれば、2日の夜に見るものとするところもある。つまりは、これから寝ればまだそれが初夢として成立する。……はずだ。


 初夢とは新年が開けて早々に見る夢の内容で、一年の吉凶を占う風習である。

 一般的に一富士二鷹三茄子いちふじにたかさんなすび、続いて四扇しおうぎ五煙草ごたばこ六座頭ろくざとうと続く。

 つまりは富士山、鷹、茄子の夢、ひいては扇、煙草、マッサージ師の夢を見れば、その一年は安泰に過ごせるとされた風習である。


 寝る前に枕の下に物を置けば、その置いた物の夢を見られると言う話を聞いたことがある。私が純真無垢な小学生の頃、エッチな本を枕元に敷き、朝起こしに来た母上に見つかった事件は、諸君らと私だけの内緒の話である。富士山や鷹を枕元に敷くことは難儀ではあるが、茄子や扇、煙草程度だったら試す価値もあるのではなかろうか。

 それにしても、富士山や鷹、あるいは扇は縁起が良いものと感じるが、この禁煙の流れに押される現代に煙草の夢など、非喫煙者からしてみれば煙たいだけで堪ったものではないだろうに。


 なぜこれらが縁起が良いとされるのか、その理由は以下のとおりである。


富士山 末広がり(将来)

鷹   鷹が空高く舞い上がる(運気)

茄子  毛が無い(ケガが無い)

扇   末広がり(将来)

煙草  煙が空高く舞い上がる(運気)

座頭  毛が無い(ケガが無い)


 お分かりいただけたであろうか。

 一富士二鷹三茄子いちふじにたかさんなすびと、四扇五煙草六座頭しおうぎごたばころくざとうは完全に意味が被っているのである。ポーカーで例えるなら3ペアであり、麻雀で例えるなら三対子だ。

 この事から、これは私の持論なのだが、意味が同じものなら縁起物として成立させても良いのではないだろうか。

 例えば三角定規だって末広がりであるし、ドローンだって空高く舞い上がる。そして、私の父上の頭部にも毛らしきものは見当たらぬ。

 大体マッサージ師の夢なんか私の生きてきた人生の中で一度も見た事など無い! 見る筈がないだろう! いい加減にしろ!!


 と、言うわけで、諸君。

 諸君らの初夢に末広がりな物、空高く舞い上がる物、毛が無い物が現れたなら――安心したまえ。これから過ごす1年は安泰であると、私が太鼓判を押そう。




 今日は初夢、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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