第7話 朝昼夜の転

起。


俺の名前は、光リエ(ヒカル・リエ)。女の名前だが、れっきとした男である。


「女の子が欲しかった!? 男の子が生まれたら、男の子の名前をつけやがれ! 小さい頃から、「リエちゃん? え!? 女の子と思った!」とか、好きな女の子に告白をしては、「私、女の子の名前の人とは付き合えません!」とか、そんなことばかりだ!? 俺の人生で楽しいことなんて、やって来ないんだ!」


と、思いつめ、学校の屋上から飛び降り自殺を図ったのだが、不幸な俺は死ぬことすら許されなかった。そんな俺の前に、レンタル福の神という、偉そうなでキチガイな女が現れ、不幸を幸福に変えるという。俺は、福の神に憑りつかれてしまった。


承。


「あのお風呂に入りたいんですが・・・。」

「私のことは気にするな、福の神だから。」


俺は脱衣所でパンツに手をかけながら、福の神の女に確認のお伺いをたてた。返事は予想通りだった。


「ジッ~。」

「見ないで下さいよ!」

「いいじゃないか、減るもんでも無いし。」

「そういう問題じゃない!」

「いいのか? 私がいないと、石鹸で足を滑らして、頭を打ったり、湯船に入り過ぎて、のぼせちゃうかもしれないぞ?」

「それでもいいですから、お風呂にもついてこないで下さいよ。」

「気にするな、トイレも一緒に入った仲じゃないか。」

「クソッ、勝手にしろ!」


話がかみ合わないので、俺はパンツを脱いで、お風呂に入った。


「私が背中を洗ってやろう。」

「いいんですか?」

「いいぞ、これも福の神の仕事だ。」


たまに優しいと思うこともある福の神の女は、俺の背中を洗ってくれる。


転。


俺は、福の神の女に体を洗ってもらいながら、尋ねてみた。


「あの福の神さん。」

「なんだ?」

「おまえは、ありがたみが分かると失礼ですし、福の神さんって、呼びにくいんですが、ニックネームとかないんですか?」

「ない。」

「じゃあ、新しくニックネームを決めましょうよ。」

「別にいいけど、貴様、変わってるな?」

「え?」

「貴様みたいに不幸過ぎる奴も初めてだが、福の神にニックネームをつけようという奴も、貴様が初めてだ。」


やった! 俺は初めての男なんだ! 女みたいな名前でも、初めての男と言われると普通にうれしい。


結。


「福の神だから、福ちゃんでどうです?」

「ダサイな、もっと、こう、ロイヤル・クリスタル・ハイパー福の神みたいな、グレートな名前は思いつかないのか?」

「長すぎます。」

「仕方がない。貴様も男のくせに、リエという女みたいな名前を受け入れてるんだ、福ちゃんの方がよっぽどマシだからな。」

「福ちゃん。」

「なんだ?」

「福ちゃん。」

「だから、なんだ?」

「ただ、読んでみただけです。」

「人の名前を気安く何度も呼ぶな、安い物みたいだ。」

「うわぁ!?」


少し機嫌を悪くした福ちゃんは、俺の頭にシャワーの水をザアーとかけた。髪はビショビショなり、水浸しになってしまった。


「おい、ニックネームは許してやるが、貴様の不幸を幸福に変えることが、福の神である私の仕事だ。」

「はい。」

「あるとは思わないが、私のことを好きになるなよ。」

「え・・・。」


そういうと福ちゃんは、お風呂場から去って行った。福の神が去った不幸の塊の俺は、クシュン!とクシャミをし、見事に風邪をひいてしまった。悪寒もするので、いつもより早く布団に入り横になった。


「zzz。」


福ちゃんは、同じ布団で添い寝をしてくれている。手を伸ばせば届く距離にいるのだが、彼女の寝顔を見ているだけで、俺のスケベ心は抑えられ、幸せな気持ちになれた。彼女が側にいてくれるだけで風邪も治っていくみたいだ。


俺は、もう福ちゃんのことが好きになっていた。


つづく。









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