第16話 一足早い新春

 土佐藩の改革は、まだ表面化に至っていない。

江戸幕府の衰退は、誰の目にもあきらかであったが

ここ四国土佐では、いつものような賑やかなお客が

開かれた。


長兵衛の上司、同僚、後輩、ご近所の面々

他の兄弟の友人達で夜の更けるまで

土佐の酒を酌み交わす宴が続いた。


 母子ともに元気で、長兵衛にとっては

まさに、肩の荷が降りる心地であった。


「めでたいのう、これで坂本家も安泰じゃ」

宮地のおんちゃんや、小西先生が

あまり飲めない酒を飲んで

赤い顔をしながら楽しんでいる。


 直陰は、次男であるが長男とは20歳以上の

年齢差があり、まるで親子のようである。

女の子が3人続いたので

今度も又、女であるまいかと長兵衛も

思案していたが、男で良かった。


 とは言うものの、総領は長男であるから

次男は、あくまでも次男である。

長男を超えることは出来ない。

直陰の陰という字にはその思いも含まれている。


 離れで眠る直陰は、元気な泣き声を

家中に響かせる。

3歳上の乙女が、なにやらかにやら

動き回り「うちの弟ぜ」と、小さな顔を上げて

大人に向け、話しかけている。



坂本家に一足早い、お正月が来たようである。

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