第15話 案ずるより産むが易し

 誰が見ても、身重の身体がすぐわかる。

鏡川の岸を,少しだけ歩く時も、山内家の関係先を避けて

2人で静かに歩く。


予定日を過ぎても一向に産気づかない幸を

家族が、臓をもんで,心配する。


「これだけは、天からの授かりものであるから

人智の及ばぬところである」

と、宮地のおんちゃんは、気楽に言うが

家族の心配は、日に日に募る。


 小春日和の縁側で、チビを膝に置いて

幸が日向ぼっこをしている。


その横顔は、まるで、悟りの境地に達した

観音様のようでもある。


「どんなん?」

親戚や近所の人も心配して、寄ってくれる。

有難いことである。


 落ち着かないのは、長兵衛である。


なにやら足が地に着かぬような顔をしている。

本人は、普段通りと自負しているが

これだけは、どうにもこうにも

男としてのやるべき仕事が見えて来ないのだ。


 しかしながら、まさに案ずるより、産むが易し、予定日を

10日ほど過ぎた15日早朝に

幸が思っていた通り、男の子が産まれた。


体重が1貫を超えており、まさに珠のような

きれいな男子の誕生であった。


直陰(なおかげ)と名付けられた。


 坂本家次男の目出度い誕生である。

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