PART:4

 8人は浮上を始める漣市に次々と不時着した。戦いによるダメージは残っているが、休んでいる時間は無かった。


 「あいつら、一体どうするつもりなんだろう?」

 「どんどん上昇していってるな……」


 空中に浮かぶ街はすでに地上が小さく見えるほど上昇していた。このままいけば大気圏外にまで飛び出してしまいそうだ。街に人の気配がないが、みんな無事に避難したのだろうか、それともやられてしまったのだろうか。


 「あの装置を壊せば、上昇は止まるはずだ」

 「そのためには、シビュレンジャーも倒さなければならないわ」

 「……もうここに到着してるみたいですけどね」


 ブラックサレナの言う通り、8人のいる場所に光線が飛んできた。散開して回避する8人の前に、ドレスのような、装甲のような強化服を身に着けた6人が現れる。

 魔法少女の衣装とスーパー戦隊のスーツを合わせたような、どこかアンバランスな印象を受ける強化服を身に着けているそれらがシビュレンジャーであると各員すべてが気付いた。


 「来たわね。私たちの邪魔する人」

 「それに私たちを生み出してくれた人」

 「でも今はもう敵」

 「私たちの邪魔をする人」

 「だから」

 「潰す」


 臨戦態勢になったシビュレンジャー。迎え撃つザウレンジャー、チェリーブロッサム、ドリームホワイト、ブラックサレナが対峙する。




 ザウレンジャー達とバットレンジャー達が起こした戦闘の事後処理に追われていた魔法界と戦隊協会の上層部は、漣市がシビュレンジャーによって浮かび上がった事態の対処にも追われる事となった。


 「あの街を空に飛ばした装置の動力源には、魔法の力と現地の廃材などが使用されていると報告されています」

 「それは解っているんだが、一体何故街を空に飛ばしたんだ?」

 「932通りの可能性がありますが、最も有力なのはあの街を隕石として地球にぶつける、というものです。あの街だけでも十分質量がありますから地球にぶつけることで土砂を舞い上がらせて太陽を奪い、津波で沿岸部を破壊しようというのでしょう」


 次々と報告が入る中、シャーベットはナンバーツーに一番気になる事を聞いた。


 「それで、現在の状況は?どう対応を取るべきです?」

 「勿論一般人の救助に当たるべきだが、このままでは大気圏に飛び出してしまいそうな勢いだからな。宇宙空間活動用の装備の配備にも時間が必要になるだろうし、ザウレンジャーやチェリーブロッサムに装置の無効化を期待するしかない」

 「事情聴取を行っていた魔法少女や戦隊も、ダメージが回復した者から向かわせていますが、いかんせん間に合うかどうか……」

 「良かれと思って考案した登録法が、こんな事態を招くとはな……」

 『こちら整備班です!ザウレンジャー用のマシンの最終チェックが終わりました!いつでも出せます!』


 不幸中の幸いか、通信機からメカ部門の報告が入る。それを聞いてシャーベットの表情は明るくなった。


 「それを使えば、救助や事態終息が飛躍的に向上する。勝機はあるな」

 「うむ。我々もすぐに対応に入ろう」




 シビュラレッドはザウレッドの斬撃を二発、三発と受け止めると逆に跳ね返していく。だがザウレッドはひるまずにすかさず次の太刀を繰り出していた。

 疲労しているドリームホワイトの代わりにブラックサレナが教えたシビュレンジャーの体にあるバイオチップの場所、それは魔法少女達の変身アイテムであるマジカルブローチの中央にある光る石の中だった。

 胸の石を破壊すれば活動は停止する。しかしそのことはシビュレンジャー達もわかっているらしく、こちらを寄せ付けない程攻撃の手を緩めなかった。


 スーツのパワーと訓練の成果も相まって、なりたての頃と比べて大きく進歩した剣さばきに、シビュラレッドは徐々に追い詰められていった。そしてティラノアームズでシビュラレッドの刃を吹き飛ばすと、自身の剣を鋭く突き刺した。

 手ごたえはあった。だが剣先はブローチではなく、彼女の首をかすめていた。傷口から黒い血が噴き出し、首が傾いた。だがシビュラレッドは手で頭を掴むと強引に首を元の位置に戻す。それと同時に傷口も塞がる。その間もまた、シビュラレッドは一切表情を変えなかった。


 ザウルブラックはシビュラブラック相手にボクシングスタイルで闘っていた。だがシビュラブラックはある程度格闘慣れしているはずのザウルブラックを圧倒的なパワーで弾き飛ばし、倒れこんだザウルブラックにじわじわと近づいてくる。

 

 「そうはさせん!」


 背後からドリームバットを持ってドリームホワイトが殴りかかるも、力任せな大振りはあっけなく避けられ、逆にキックが背中を捕らえる。だがその隙に立ち上がったザウルブラックは必死にシビュラブラックの腰にしがみついた。しかしシビュラブラックはザウルブラックの肩をひっつかむと、後方へ投げ飛ばした。


 「俺達の動きが完全に読まれているな……」

 「バイオチップはそこまで成長してしまったという事か……」


 ザウルブルーとザウルイエローはシビュラブルーとシビュライエローの背後からステゴソードとホーンランサーで背後から飛びかかる。しかし彼らの斬撃はまるで見えているかのように両腕を掲げてガードされる。刃が腕に鋭く食い込むが、二人は痛がる素振りすら見せない。二人がどれだけ力を込めようが、刃は腕に食い込むだけで前進すらできない。

 二人がさらに力を込めた瞬間、シビュラブルーとシビュライエローは腕を刃から強引に引き抜き、前方にジャンプして一回転した。支えを失ったザウルブルーとザウルイエローはその場でよろけてしまい、飛んできた電撃をまともに受けることになった。


 「こいつら、加減ってもんをしらねーのか?」

 「一瞬でも隙を見せたら、やられるね……」


 ザウルピンク、チェリーブロッサム、ブラックサレナの三人はシビュラピンクとシビュラシルバー相手に三人がかりで闘っていた。シビュラシルバーはバレエの様に身軽な動きでザウルピンクに着実な一撃を浴びせ、シビュラピンクはチェリーブロッサムの魔法を片腕で受け止めながら歩み寄ってきた。


 「これじゃ埒が明かないわ……」

 「何とかして、動きを止めないと!」

 「……私が、盾になりますので、お二人は左右に散開して攻撃してください」


 言うが早いか、ブラックサレナはシビュラピンクとシビュラシルバーに、まるで踊っているかのような動きで接近した。滑降の的になったブラックサレナが二人の攻撃を受け続ける盾になっている間、ザウルピンクとチェリーブロッサムは左右に散開し、合図と同時に飛び出し、アンキロボンバーの銃撃と桜の魔法を打ち込む。とっさの事態にさしものシビュレンジャーも対応が遅れ、直撃した。

 着地した二人はそのまま止まることなく突進し、ピンクとシルバーにキックを見舞う。それを避けようと後方へと飛びのいた二人を、鉄パイプを剣の様に左右の手に持ったブラックサレナが待ち構える。素早い斬撃で二人のスーツの背中が裂けた。



 シビュラレッドの回転斬撃を喰らい、大きく転がるザウレッド。だが手にティラノアームズを握りしめ、全速力で走り出した。電撃の魔法を避けながら、リボルバーモードで応戦していく。片足を軸にして空中で回転し、強烈なキックを見舞った。キックは肩を捕らえ、シビュラレッドは吹き飛び壁に激突した。


 ザウルブルーとザウルイエローは魔法の直撃を受けても諦めることなくシビュラブルーとシビュライエローと戦った。そしてザウルブルーがシビュラブルーの両腕を掴み、大きく体をよじらせて空中に投げ飛ばした。周りながら飛ばされていくシビュラブルーにホーンランサーが飛んでいき、マジカルブローチを貫いた。バイオチップを壊されたシビュラブルーは途端に一切の活動を停止した。


 「どーだい、これが裏技ってやつだよ。とっさの事で声も出ないか?」

 

 ザウルブルーは動かなくなったシビュラブルーに毒づくと、増援に向かった。

 ようやく一体撃破に全員が活気づいた。勢いづいたザウレンジャーの攻撃に、シビュレンジャー達は僅かながら焦りを見せ始めた。


 ザウルピンクはアンキロボンバーに次弾を装填し、慎重に狙いを定める。チェリーブロッサムとブラックサレナがターゲットを引きつけていた。


 「あなたはトリガーを引くとき一瞬だけ手元が乱れてしまう。それでは真っ直ぐ弾は飛ばないわ。落ち着いて、自分の体と武器を信頼してあげて」


 バーチャルピンクの教えを思い出しながら、慎重に狙いを定める


 「大丈夫。私は出来る。私は自分と、


 照準のマークが合わさり、事前に打ち合わせをした通り、ブラックサレナがシビュラピンクの肩を掴んでジャンプし、後方へ着地すると引き金を引いた。

 銃弾は着実にシビュラピンクのマジカルブローチを貫通していた。


 チェリーブロッサムもまた大量の桜の花びらで包み込み、その中に特殊な光を出す魔法を発射した。花びらの嵐の中に入った魔法は、シビュラシルバーの脇を掠めて飛んでいく。だが光は花びらにぶつかると別の方向へと反射した。光は花びらにぶつかるたびに別の方向へ反射されていき、花の嵐の中をランダムに飛び交った。

 脱出しようと剣を振り回すシビュラシルバーは飛び交う魔法をあちこちに直撃していく。そして光は胸にあるマジカルブローチを破壊した。


 花が散ったとき、シビュラピンクとシビュラシルバーはもんどりうって倒れた。



 「やった!」

 「これで半分減りましたね」

 「でもまだ半分いるわ。急ぎましょう」」


 三人は他のザウレンジャー達の増援の為に散っていった。


 

 シビュレンジャーの中でも、シビュラレッドはリーダーなだけあってか規格外の強さを誇っていた。相手のパワーに押され、ザウレッドは街の端、地面がない場所にまで追い詰められていた。一歩踏み外せば落下は免れない。ザウレッドは強く踏ん張り、つばぜり合いの状態を維持していた。

 シビュラレッドもザウレッドを落っことそうと間合いを詰めつつ、片手を離して電気の魔法を発動し始めた。それを見たザウレッドも片手を離して相手の手首を掴み、軌道を逸らそうとした。一触即発の状態になる両者だが突如シビュラレッドの腕が爆発した。シビュラレッドは腕に魔法を逆流させることで爆発を起こし、強引にザウレッドの手を離させたのだった。

 至近距離からの爆発によってバランスを崩したザウレッドは、背中から落下していった。


 「リーダー!!」

 「レッド!」

 「修ちゃん!」


 救援に向かっていたザウルブルー、ザウルピンク、チェリーブロッサムが口々に叫び、未だ戦闘中のザウルブラックとザウルイエローも驚愕するが、すでにザウレッドの姿は下に消えていた。


 肩で息をしながらも勝ち誇ったようにふるまうシビュラレッド。だが次の瞬間。その表情は驚愕に染まった。

 街の下からザウルスファイターが浮上してきて、その上にザウレッドが乗っかっていたのだ。


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