PART:4

 バットトレーラーから降ろされたドリームホワイトは装備品を取り上げられ、取調室へと運び込まれた。後ろからはブラックサレナが続く。

 二人が部屋に入ると、レッドバットが執務官に何かを告げ、扉を閉めた。


 「少し無理を言ってね、君たちの尋問官は急遽私が勤めることにしたよ。君だって私の方が話しやすいと思う。今はレッドバットではなく、君の友人、羽森栄一郎として君と話したい。ブラックサレナさんにもぜひ協力してほしい」


 レッドバットはそう告げたが、ドリームホワイトとブラックサレナは俯いて何一つ返してこなかった。


 「さてドリームホワイト、いや海堂毅君。これを覚えているかな?初めてここに来た時の写真だよ」


 レッドバットは一枚の写真を差し出した。それは今とは衣装が異なるがヘルメットを外し、肩を組んで笑いあう栄一郎と尚一の写真だった。ドリームホワイトはそれを一瞥したが、すぐに俯いた。


 「君と私は同じ時期に戦隊に選ばれて、ここで結成式を行った。共に困っている人を助け、弱き者たちの力になろうと誓ったんだ」

 「過ぎ去った栄光の日々だな」

 「君がクーデターを企てていた者たちの一員だったと知ったときも、嘘であってほしいと思っていた……一体君は何が気に入らないんだ?今からでも遅くはない、登録法に参加しろ。そうすれば仕事は全て公務として扱えるし、戦隊と魔法少女の活動も幅広く認知してもらえ、悲劇も少なくできる。悪い事なんて一つもないだろう」


 私はもう悲劇は繰り返したくないと栄一郎は俯いて呟いた。実に彼らしいなと思いながら、尚一は言った。


 「私だって君とは友人のつもりだった。だが君と私の思想は全く違う所にあった。私とブラックサレナがクーデターに参加したのはそれだけの理由だ」

 「思想?」

 「私たちの仕事……つまり人助けなんですけど、それっていつまで続くんですか?いくら頑張っても困っている人は一向に減らないし、それどころか余計な行いで仕事を増やす輩までいるし、中には私たち魔法少女に邪な考えを抱くものまでいる始末。私たち、こんなやつらを助けるために魔法少女や戦隊になったんじゃないんですけど」


 いままで無言だったブラックサレナが尚一に続いて言う。


 「さらには悪人を捕まえても殺さず生かさなければならないという。たとえどんな非道を行い、我々の足を引っ張り、多くの人を傷つけ酷い時には殺そうともな。だが上はそう言った連中に対し何の対策も立てなかった」

 「当然だ。助ける者を選ぶわけにはいかない」

 「我々はそう思わなかったからクーデターを始めようとした。まあ結果は君の知っての通りだったがな。私が出所したとき、出所前と戦隊・魔法少女の活動方針が全く変わっていない事に愕然としつつも、新しい戦隊の指導者として第二の人生を歩んでいた」

 「それのどこに問題があるんだ?」

 「それでも私と彼は思想を曲げず、内に秘めながら活動を続けていたのよ。いつの日にか、再びクーデターを起こすことを」

 「ところがかつて思想を共にした仲間達は、生ぬるい現在の体制にすっかりなじんでしまい、私の話に耳を貸さなかった。そんな時に私が新たに指導したザウレンジャー達が、私たちの開発したシビュレンジャーの生き残りを発見したという知らせを聞いた」

 「まさか君はシビュレンジャーを使って、またクーデターを起こそうというのか?」

 「そう思ったのだが、彼女たちは今や私の言う事はもう聞いてはくれないだろう。式典会場」

 「何故だ?」


 ドリームホワイトとブラックサレナは一呼吸おいてから、今度は慎重な雰囲気で答えた。二人の口からは恐ろしい事実が飛び出した。


 「シビュレンジャーたちの脳の中には自己進化しすることで的確に情報を判断し、与えられた命令を絶対に厳守するようプログラミングされたバイオチップが埋め込んであるの」

 「そのバイオチップの自己進化の速度はチップの機能を破損させるほどにまで高速だった。暴走と言ってもいい」

 「それでもう君の命令を受け付けなくなっていると?」

 「今やシビュレンジャーの敵は全ての戦隊と魔法少女。この世界からこの二つが永遠になくなるまで破壊を続けるでしょうね」

 「そんな危険なものを生み出してまで、君たちは現状を打破したいのか?その後は自分たちの邪魔をする者たちを次々と断罪するのか?そんなことをして本当に人々が笑顔で暮らせる世界が来るのか?希望は、夢は、光は、可能性はどうなる?君たちのやっていることは単なる恐怖支配だぞ!」


 それまで冷静だったレッドバットは声を荒らげ、最後は完全に叫んでいた。

 しかしブラックサレナはため息をつき、少し呆れたような表情で言った。


 「笑顔か……その言葉、もう聞き飽きちゃったな。今まで一体何を根拠にそんな他人事のまやかし……綺麗事を言って来たんだろうと。それで少しでも現状が良くなるならそうしてるわ」

 「登録法の発想は悪くはないが、改善する余地はある。今のままでは戦隊も魔法少女も混沌とするだけだ。それが解決できないうちは、登録法に参加は出来ない」



 尋問の様子は、部屋の壁に擬態した魔法の鏡を通してザウレンジャーとチェリーブロッサムたちも見ていた。

 彼の証言を聞いたザウルイエローが呟く。


 「やっぱりあの人、悪い人だったのかな?」

 「それはこっちの都合で、あの人からしてみれば自分の行いが正しいと思っているだろうから、一概に悪とするのはどうかと思う」

 「最もあまり褒められた話じゃないけどね」


 ザウルブルーとザウルピンクが自分の意見を言う中、ザウレッドは隣にいるチェリーブロッサムを見た。賛成派と反対派の戦いを、特に憧れていた魔法少女が死力を尽くし、全力で潰しあっているのを実際にこの眼で目撃した、そして彼女もまた身を守るためとはいえ戦闘を行った彼女の顔は不安で曇っていた。

 チェリーブロッサムは手探りでザウレッドの手を捜して掴んできた。彼女の不安を少しでも和らげるためにそのままにしておいたが、彼自身もまた不安を抱えているが故、握り返すことは出来なかった。


 「もう行こう。もう知りたいことは全部解ったからさ」


 ザウレッドの促しによってザウレンジャー達が引き揚げようとしたとき、前方に一組の戦隊と魔法少女達がいた。


 「あ、君たち……」

 「あなた達は……」


 重力戦隊グラビレンジャーのグラビレッド、分身戦隊カゲレンジャーのカゲブラック、防衛戦隊ガードマンのイエローガード、飛翔戦隊バードマンホワイトバード、生物戦隊ジオレンジャーのジオブルー、レッドバット以外のバットレンジャー、そしてウォーターリリー、ランタナ、キャンディ、アルストロメリア、アイビー。この登録法の発端となったテロ事件妨害に向かった戦隊と魔法少女達だった。


 「レッドバットの付き添いですか?」

 「まあそんなところさ。君たちは?やっぱりドリームホワイトがらみかい?」


 ブルーバットの問いにザウレンジャー達は肯定した。奥の方にいたウォーターリリーが前に出てきて言った。


 「少し話さない?今後について、ドリームホワイトの教え子たちの一人であるあなた達と話す必要があると思うの」

 「俺達もそう思っています。皆もいいよな?」


 ザウレッドの提案に誰も反対するものはいなかった。





 

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