PART:5

 「それで、君たちはどうするつもりっすか?」


 グリーンベンジャーはいつも通りにザウルブルーの武器の訓練をしながら尋ねてきた。


 「どうするって、どういうことですか?」

 「そりゃあもう一つしかないっすよ。登録法、賛成か反対かってことっす」

 「ああ……」


 ザウルブルーはホーンランサーを下げる。他のザウレンジャー達も訓練の手を止めた。

 登録法施行の発表から4日が立った。賛成派と反対派の対立は日増しに強くなっており、武力衝突こそ未だ起こっていないものの、言い争いの声は大きくなってくる一方だった。賛成派は反対派に登録法への理解を求めたが、反対派は自分たちの決定権を上に取り上げられてたまるかと譲らなかった。

 そういった状況なので賛成派も反対派もあちらこちらに移動して不在という場合が多く、たまたまいたグリーンベンジャーとバーチャルピンク、カスタードとオキザリスの4人が訓練に付き合っていたのだった。

 そんな中でも、どちらの派閥にも属さない「中間」と呼ばれる魔法少女と戦隊がいた。彼らはどちらの味方をするでもなく、ただただ自分たちの正しいと思う事を行っていた。

 

 「うーん、俺達は何が正しくて、何が間違ってるのかは解りません。だからどっちの味方をするっていうわけでもないんです」


 ザウレッドが代表して答える。ザウレンジャーとチェリーブロッサムはその中間に位置しており、日々の訓練を続けていた。

 

 「あー、そういうパターンっすか。まあ着任したばっかりでいきなりこんな騒動が起こっちゃったもんだから、無理もないっすよ」

 「そうだよなー。オレは一応は反対って立ち位置にいるんだけど、まだちょっと迷ってるかなー。なんて」

 「早々決められる問題じゃないって事は解るけど、あと三日もたてば承認式だよ。自分の立ち位置ははっきりさせておいた方がいいとおもうな」

 「そうですよね……このままどっちつかずっていうのも何だかずるい気がしてきましたよ」


 ザウルブラックの声に珍しく力が入っていなかった。今度はチェリーブロッサムが聞いた。


 「あの、このまま賛成してる人と反対してる人との間で戦になるって事になりませんよね?」

 「どちらの派閥もそうならないように努力してるでしょうから、可能性は低いでしょうね」

 「でも解らないよ。どっちもかなりピリピリしてるし、ついに我慢の限界迎えて大喧嘩になっちゃったりしたら……」

 「警戒だけはしておいた方がいいわね」


 ザウルピンクがそこまで言った時、爆発音が響いた。

 突然の音に全員は完全に虚を突かれてしまっていた。その内にまた爆発が起こる。


 「一体何の音だ?!凄い音がしたぞ?」

 「研究室がある方向だ。きっとあそこで何かがあったに違いない!」

 「行ってみるっす!」



 

 爆発は6回続いて起こった。

研究室の中は地獄絵図と化していた。何人もの研究員が体から血を流して倒れており、周辺の装置からは煙と炎が吹きあがっていた。ザウレンジャー達が到着したころはすでに全員が手遅れになっていた。


 「酷いなこれは……」

 「何かの実験が失敗して、こうなったんすかね?」

 「いや、ここって確かあなた達が持ってきた水槽があった部屋よね?」

 「じゃああの水槽に何かが?」


 そこまで言った時、その場にいた全員が邪悪な視線を感じた。その視線がする方を向くと、完全に壊れた水槽が固定してある台座の上に立つ6人の人間と目が合った。

 赤、青、黒、黄色、ピンク、銀色の魔法少女のコスチューム、またはアイドルの衣装のような服を来た6人の女性だった。あの水槽の中から出て来たらしく手や足からは水滴が滴り落ちていた。衣装は外に出ると同時に装着されたようだ。

 同じく救援に来た魔法少女だろうかとザウレッドが近づこうとした途端、彼女たちは両手を機械的に突き出して、電撃を発射した。

 電撃は部屋に再び爆発を巻き起こしたが、その爆発の中からザウレンジャーが飛び出してきた。


 「どうやらこいつらは味方じゃないみたいだ。応戦するぞ!」


 ザウレッドの言葉を合図にザウレンジャー達はそれぞれの武器を装備する。遅れてグリーンベンジャーとバーチャルピンク、そしてチェリーブロッサム、オキザリス、カスタードも駆け付けた。

 

 先制を仕掛けたのは少女達の方だった。赤の少女が水槽のある台座から飛び降りると同時に前方にいたザウレッドに飛び蹴りを見舞った。彼が体勢を立て直す前に青の少女が赤の少女の両肩を掴んで馬跳びの要領で飛んで空中で一回転し、さらに飛び蹴りを当てる。横からは緑の少女がグリーンベンジャーに飛び蹴りを食らわせ、黄色とピンクの少女は左右から後ろにいるメンバーたちを電撃で攻撃した。

 銀の少女は単身剣を召喚して接近してきた。出鼻を挫かれたのはほんの少しの間だけで、戦隊と魔法少女は即座に戦闘を開始した。


 しかし少女達の戦闘能力はその場にいる全員を上回っていた。

 二本の剣を召喚した赤の少女はザウレッドを連続で切り付け、瞬時に二本同時に切り裂く。ザウルブラックのパキケファロヘッダーを使ったパンチとグリーンベンジャーの槍さばきを黒い少女はフリスビーのような武器で次々と受け流していき、仰向けに倒れたザウルブルーに青い少女のひじ打ちが見舞われる。

 黄色の少女は嵐のような剣さばきでザウルイエローのステゴソードとオキザリスが出した大剣による攻撃を許さず、ザウルピンクとバーチャルピンクの銃撃をピンクの少女は取り出した拳銃から発射したレーザー光線で跳ね返した。

 最後の銀の少女はカスタードとチェリーブロッサムの「風を起こす魔法」の合わせ技を刀で受け止めて跳ね返した。風の威力は大きく、カスタードだけでなく他の戦隊や魔法少女達も研究室の入り口付近にまで吹き飛ばされた。


 「あいつら滅茶苦茶強いぜ!」

 

 こちらに迫ってくる少女たちを見たザウルブラックに、ザウルブルーが続ける。


 「ああ。とても一筋縄ではいかないな」


  グリーンベンジャーとオキザリスがすぐそばに折り重なるように倒れていた。


 「ちょっと重い。どけよ」

 「あんたがやられないように庇ったんすよ」


 ザウレッドはティラノアームズをリボルバーモードに変形させる。


 「こうなったらアクティブラスターだ!」


 ザウレッドは完成させたシューティングフォーメーションのアクティブラスターを構える。グリーンベンジャーとバーチャルピンクもそれぞれ光線銃を向け、チェリーブロッサムたちも攻撃魔法の態勢に入った。6人の少女達もまたそれぞれの武器を組み合わせてアクティブラスターのような武器を全員で構える。

 発射のタイミングは同時だった。光線と魔法はまるでつばぜり合いの様に交錯し、爆発を起こした。

 爆風は双方を襲い、部屋の壁が一瞬にして吹き飛ばされた。

 ザウルブラックが身を乗り出す。


 「やったか?」


 だが煙が晴れた時、6人の少女の姿が無くなっていた。ザウレッドが反対側の壁の穴に駆け寄ると、遥か彼方に六つの影が飛んでいるのが見えた。

 

 「やっつけたのか?」

 「いいえ。さっき空を飛ぶ魔法を使った痕跡があったから、飛んで逃げたと思うわ」

 

 カスタードが怪訝な声で言ったザウルブルーに目をやって答えた。ザウレッドも頷きながら合流する。


 「うん、やっぱり魔法を使って逃げたみたいだな」


 その時、完全武装した数人の魔法少女と戦隊たちが遅れて到着した。



 「魔術戦隊シビュレンジャー?」

 

 戦いで受けた傷の手当てを、看護師タイプの魔法少女スキミアから受けていたザウレッド達は、クマとラヴィアン・ローズ、そしてドリームホワイトから詳細を聞かされていた。

 

 「じゃああの子たちって戦隊なんですか?」

 「戦隊でもあり魔法少女、魔法少女でもあり戦隊、といったところかな」

 「そして、その両方を敵として認識している存在でもあります」


 ラヴィアン・ローズは古くて分厚い書物を机の上に広げた。呪文の書、少なくともチェリーブロッサムにはそう見えた。知らない人間が見れば本当に呪文が書かれているかのように難しい数式やら言葉やらが書き記されていた。


 「これによると、あの少女達は魔法界と戦隊協会のタカ派によって生み出された人造人間であり、魔法の力と戦隊の力の両方を併せ持っているようです」

 「さらには特殊な暗示をかけることにより、自分たちと同じ魔法少女と戦隊を敵と認識するように仕組まれているんです」

 「何故そんなことを?」

 「当時の魔法界及び戦隊協会上層部にクーデターを起こすために、だそうです。他にも数体が作られていたようですが幸いクーデターは事前に情報が洩れて失敗し、タカ派は一掃され人造人間は全て廃棄されました」

 「しかし今になって、発見されていなかった者たちが見つかったのです。しかもそれが逃げてしまったという事は……」

 「また襲ってくるかもしれない、って事ですよね」


 戦いに参加した全員は、あの少女達の刺すような視線と機械のような動きを思い出し、言い表しようのない恐怖を感じていた。

 

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