第5話


――― ふぅ、まったく最近、息子が厳しい。前までは師匠、師匠と後をついて来てくれていて可愛かったのに、最近は扱いが雑な上に師匠、いい加減に真面目に仕事してください、が一言目に出てくる、更に呆れ気味の溜息がおまけについてくる。

 

 まぁ、仕事をしない俺が悪いのだけれど、最近寂しい。


「おいおい、ジェイド。そういうのは心の中で言ってくれないか。」


 東塔のリーダーであり、俺の上司兼相棒であるカラン=クンツァイト。厳つい顔ながら実際は見た目以上に優しい男である。


「別にいいじゃねぇか。誰にも迷惑はかけてねェだろ?」


 実際に思ったことを素直に言うと心底呆れた、といった感じに深い溜息をつかれてしまった。


 その通りじゃねェか、俺以外にカランしか居ねェし・・・、嗚呼、カランにとっては迷惑、なのか?・・・っていうか聞かれてる俺が一番恥ずかしくねェか?まぁ、そんなことはどうでもいいが、俺的はもう少しゆっくりと昼寝したかったなァ。


 昼間の俺たち・・・西塔メンバーの仕事は何かあった時の戦闘要員である。

カランは公認司書を抜いた一般司書の中では武術では秀でている、公認司書では今では俺とレイ以外には現役は居ないものの、8年、か・・・?それぐらい前からこの西塔に所属している俺もいる。俺たちが揃っていれば隣国から攻められようとも一時的にはここを守ることぐらいは出来るだろう。


 それに今は国王公認司書試験を特例で受け、更に一発で合格し、そのまま公認司書となった自慢の弟子でもあり息子であるレイもいる為、特に心配もしていないのである。


「・・・い、おい!ジェイド聞いているのか?いい加減、息子に迷惑かけるのをやめないか。レイは昼間もしっかり仕事をして本業も頑張ってやっているんだ。少しは見習ったらどうだ。」


 珍しくお怒りのカランはいかつい顔が更に人でも殺しそうなぐらいの表情を浮かべ、先ほど褒めちぎったのにそれが帳消しといった感じだ。 


「嗚呼、可愛い息子に迷惑かけられないからな。もうそろそろ真面目に仕事しますかね~。」


 背伸びをしながら寝転がっていたソファから起き上がると、「監視部屋に行ってくる。」とだけカランに告げると、自分も行く予定だったのか、「嗚呼。」とだけ答えると、監視部屋へ向かった。


 監視部屋は帝国図書館内に設置してある監視カメラすべての映像を見ることができる唯一の部屋である。この部屋へカギを持つのは西塔に所属している俺とカラン、そして各塔のリーダーの4人である。


 一足先に監視部屋に入ったカランは何か異常を見つけたらしい。問題のあるモニターへ近づき、ある一点を見つめている。そのモニターに映し出されているのはどうやら正門のようだ。カランは一人の人物をじっと見つめている。


「どうした、何が見えたんだ?」


 俺も同じようにモニターを見つめる、今のところ違和感はない。


 何を見たというのだろうか?さすがに目に留まるような侵入者がいれば他の者から報告があるだろう、などと考えながら何も言わないカランが口を開くのを待った。何度か同じ映像を繰り返し見ては納得したのだろうか、現在の映像へと戻した。


「・・・いや、気のせいだったようだ。違う・・・紋章が見えた気がしたんだが、いや、俺の見間違いだろう、多分・・・。」


「何が、見えた気がしたんだ?」


 どうも歯切れの悪い相棒にそう声を掛けると、少し困ったように「・・・隣国の国章だった。」と小さく告げた。それを聞くとどうも重い雰囲気になった気がした、それを紛らわせようと小さく息を吐いた。



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