第3話



 僕の言葉にえー、と口を尖らせたまま、不満げな表情を浮かべたリーダーはするすると僕の首に両腕を回し、抱き付くような体制になった。


「だって、レイちゃん可愛いんだもん。」


 何だ、その理由は。心の中でつっこみを入れながら、中身のない理由を特に反応を示さずにいると、それに更に不満に感じたらしく、抱き付く力を更に強くした。


「・・・苦しいです、リーダー。」


 素直に今の気持ちを声に出すと、クスクスと楽しげな笑みを零すリーダーの腕を掴んだ。


「相変わらず、レイちゃんは表情が全くと言っていいほど出ないよね。」


 僕の手を掴まれていない方の手で取り、何故か手を繋がれてしまった。先ほどまで不満たらたらであったリーダーはご機嫌な様子へ変わり、そのまま持ち場へ足を進めた。


「あ、あとレイちゃん。いい加減、俺のこと、リーダーじゃなくてカトレアって呼んでって、言ってるじゃん?」


 リーダーはふふっと綺麗な笑みを口元に浮かべつつ、こちらに顔を寄せた。

そう、このリーダーであるカトレア様は何故だが僕に好意を持っているらしく、時折こういった様な言葉を投げてくる為、毎回どう返そうかと悩みを増やしつつある。なかなか返さない僕に少し困ったような表情に変えるとレーイちゃん、と名前を呼んだ。


「・・・リーダー、毎回お伝えしていると思うのですが、上司を呼び捨てにする部下がいると思いますか?」


 正論というか、自分の中での線引きをしっかりしたい為にその様に伝えた。すると、どうだろう。先ほどまでご機嫌だった雰囲気が一気に不機嫌の色に変わった。それと同時に繋がれていた手がギュっと強くなった。


「ジェイドはカランの事を呼び捨てにしてるけど?」


 ニッコリ、という感じの笑みを浮かべるリーダーから冷たい空気が流れてきているようだ。


 ジェイドというのはサボり癖のある師匠のことである。更にカランというのは師匠の上司で、東塔のリーダーである。厳つい顔、コーラル様よりがっちりとした体格で密かに憧れている。


 だが、コーラル様のように厳しい方でもなく、リーダーの様にカリスマ性がある感じでもない。カラン様は3人のリーダーの中でもすごく優しくて新入りで別塔の僕の事も気にかけてくれる様な人だ。


 そんなカラン様に迷惑が掛かっているので、師匠の迎えなんか、本当は行きたくないけれど、カラン様の為だと思ってやっているのである。


「・・・・・・分かりました。カトレアさん、が限界です。」


 これ以上、リーダー・・・カトレアさんの不機嫌という面倒なものを重ねても良いことはない為、仕方なく名前で呼ぶことにした。


「カトレア。」 


「・・・カトレアさん、で我慢してください。」


「カトレア。」


「・・・カトレアさん。」


 カトレアさんは不満そうに何度かこのやり取りを繰り返していたものの、ちょうど僕の担当エリアに着いた為、しょうがないな、と言ってさん付けで我慢してもらい、繋いでいた手を離した。



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