エピローグ『ラブコメに涙は似合わないから』

ワナビ卒業とハッピーエンド

 ――ぐきゅうううううう……!


 お腹の音が聞こえた。


「は……?」


 抱きしめていた来未から、俺は身体を離した。そして、顔を見る。


「…………んにゃ……?」


 来未の瞳がゆっくりと見開かれていく――。


「あれ……? なんであたし……生きてるの?」


 来未は不思議そうな表情で自分の体を見ていた。

 動かなくなった来未が、また動いてくれた。


「来未……大丈夫なのか?」

「わかんない……でも、なんで……? あの天才科学者のお母さんが余命半年っていってたのに……それに……なんだか身体に力がみなぎってくる……頭もなんかスッキリしてる……」


 来未は不思議そうにしながら、立ち上がった。


「……奇跡が起こったってことなのか?」

「……奇跡?」

「万年一次落ちの俺が受賞できたんだ。……俺の子孫の天才科学者の予想を越えたことだってが起こりうるんじゃないか?」


 あるいは……まさか、冗談で余命半年とか言うようなキャラじゃないよな、俺の子孫の科学者。それだとしたら、滅茶苦茶タチが悪くて冗談にならないんだが……。


 と、そこで――。

 ピンボーン♪ というインターホン。こんな夜遅くに誰かというと。


 携帯電話が震える。着信は蔵前から。

 通話モードに切り替えると、蔵前の弾んだ声が聞こえてきた。


「先輩! 早く玄関開けてください! 妻恋先輩もいますよ!」

「ああ、そうか、みんなにも電話がいってたんだな! ちょっと待て、いま行くから!」

「あたしも行くっ!」

「お前、本当に大丈夫なのか?」


「うんっ……! なんだか知らないけど、胸がぐわーって熱くなってきて、元気が出てきちゃった……! ……もしかすると……あんたとキスしたからかな?」

「え、あっ……まさか、そんなことが」


 キスをすることで、死の眠りについた女の子が目を覚ます。そんなファンタジーみたいな話がありうるのだろうか。


 それとも胸がぐわーっと熱くなったってことは、身体の中にあるバッテリー的なものが稼働し始めたのか? 数学赤点の俺にはよくわからんのだが……。


 だが、もう、なんでもいい。奇跡だろうと、ファンタジーだろうと、来未の体の中で未知の動力源が稼働し始めたのだとしても――今こうして来未が元気で生きているのなら、それに勝る喜びなんてない。


 俺と来未は玄関まで行って、ドアを開けた。

 そこには、泣きながら笑っている蔵前と妻恋先輩。


「先輩! ワナビ卒業おめでとうございます!」

「新次くん、おめでとうっ! 本当におめでとうっ!」


 ふたりは俺に抱きついてきた。


「あ、もうっ! あたしもーっ!」


 そして、来未からは背中に抱きつかれる――。


「新次、責任とってこれからもあたしにいいごはん食べさせなさいよねっ♪」


 そして、来未は最後に――、


「あい、わな、びー……新次のお嫁さんになりたいっ……なんてねっ♪」


 そんな夢みたいなことを口にしたのだった――。


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あい、わな、びーっ!~ラノベ作家を目指すワナビたちと未来からやってきた子孫の送る文芸部のおかしな日常~ 秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家 @natsukiakiha

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