第3話 能力発覚

 俺は幸運なのか、それとも悪運が強いのか、疑問に思った。


 やぁ皆、神条かみじょう 神鵺しんやだ。

 いきなりだが、ここで前回までのおさらいをしようか。


 俺は極平凡な専門学生だったが、親の倒産報告を受けてどうしようか途方に暮れていた。そこに現れたのが、可愛い可愛い悪魔の美少女ネームレスデヴィル。悪魔は俺に、異世界へ出張して魂を狩る仕事アルバイトを勧めてきたんだ。一回の狩猟ソウルハンティングで得る報酬は、何と20万円以上! しかも人生で中々遭遇する事の無い異世界へ、仕事の為に何度も赴く事が出来るって言うじゃないか!


 何と素晴らしいシステムだろうか!

 俺は快く承諾し、彼女と契約を交わして狩猟者プレデターになった。


 黒金剛石の指輪ブラックダイアモンド・リング狩猟者プレデターになった俺は、早速異世界へ出発する事にした。


 最初のターゲットは、”魔王”クロム・ロード。


 オカシイよね、初の仕事で扱う獲物がまさかのいきなり魔王だよ?

 でも俺は信じる事にしたよ。

 この黒金剛石の指輪ブラックダイアモンド・リングが強者の証であると信じて、意気揚々と異世界へのゲートを潜ったんだ。


 だが、俺が出向いた異世界、剣と魔法の世界で早速不確定要素イレギュラーに遭遇してしまった。

 そう、魔王と言えば必ず付いてくるおまけのような存在―――”勇者”レオンの率いる魔王討伐隊だ。

 丁度狙いは俺とずれてるようだし、うまく協力出来れば楽も出来たかなーと思ったんだけどね。

 奴ら、相当傲慢でかなーり強欲でさ。

 俺の話を無視して襲い掛かって来るから、焦ったよ。



 まぁ、奴らは強かった。

 十分強かったんだ、魔王を倒せるほど。

 しかし、奴らは ”運が無かった”。

 それだけの話なんだ。


 事の全容は魔王を倒しながら説明するとしようか。

 なぁに心配要らない。

 片手間に魔王を葬りながら説明するのも、今の俺には造作も無いって事なんだよ。










 ====== 愚かな魔王 ======


(何だ、これは?)


 俺は確か、魔王後継者であるレオンにこの世界がどのような形で均衡を保たれているかを説き、無理強いしてでも自分の役職、”魔王”を継がせるはずだった。


 だが何だこれは。

 魔王後継者が……俺の後継ぎが……!


 ―――死んでしまった。


 いや、そんな事あるわけが無い。


 レオン、俺だ! 魔王だ!

 お前の倒すべき相手の、魔王だぞ!


 何故白目を向いている?

 何故口から血を流している?

 何故お前は―――死んでいる?

 何故お前は―――その男に顔を踏み躙られる事を許している?


(そうだ、この男は誰だ。その横に立っているのは、確かレオンの仲間の魔法使い、ミレアだ)


 ――全てがおかしい、一体何がどうなっている。 


 目の前の現実を理解こそすれど、受け止めきれない魔王は、自分の思考を強引に都合の良い方向へ捻じ曲げる。

 自分の理解を否定して。


(………そうか……転生したのか、レオン)


 それはあまりにも確立の低い事であり、そしてそうであるからこそ、魔王に希望を促すたった一つの可能性だった。

 いや、そんなことは実際は無いのだ。

 転生したらまた0歳から成長し直さなければならない、転生していきなり成人域の身体まで成長させる魔法も技術も今は無いのだ。

 しかし、クロムはその基本的な前提を忘れていた。

 心にヒビの入った彼は、その前提を否定して可能性の無い仮定に縋った。

 もしくは魂を他者に移す術などもあったかも知れないが、残念なことにクロムはその存在に気付く事は無かった。

 今まで勇者が倒れた事は無かった、それも影響しただろう。

 何にせよ、このクロムと言う男は心に瀕死のダメージを負った事を認めまいと必死だった。



(そうだな、強欲なお前の事だ。一度死を経験し、更に強くなる為転生を図ったんだな。流石は大欲望のレオンだ。そのズル賢さなら、俺とは違う新しい手法で世を収めることも……)



「初めまして、魔王様」


 男が口を開いた、初めましてだ。


 そうだな、俺とお前は血こそ繋がっているが一度も会った事は無いな。


「異世界何処でも出張します」


 ……は?


 異世界?

 何だそれは、こことは違う世界の事か?


「魂狩る者、狩猟者プレデターです」


 プレデター?

 何の冗談だレオン、お前は勇者であり、次期魔王候補だぞ。


「貴方の魂、奪いに来ました」


 ……そうか、お前は俺の魂を刈り取って自分のものとするわけだな。

 中々狡い手を考えるものだ。


「そうだったのか……フッ 賢いな、レオンは」


「ぇ」


 おいおい、今更とぼけるものじゃないぞ。


「俺の魂すらも自分のものにして、更に強くなろうって魂胆なんだろう? 確かに、レオン程の業の者なら転生してクラスの追加をする事も―――」




「俺レオンじゃないよ?」




「………」



 俺は何も聞いていない。

 これは重要な事なんだ、話を続ける必要がある。


「さて、改めて自己紹介しようか。我が名はクロム・ロード、前魔王を打ち倒して5第目魔王となった者だ」


 突然の事に頭が追い付かないだろうか、それとも直ぐに理解して驚くだろうか。

 ふふ、今からレオンの反応が楽しみだな。


「あ、へー……魔王って襲名出来るんだ。」


 つれない反応だな、もっと驚いても―――。


「じゃぁアンタを殺せば、俺は魔王シンヤになるってわけか?」


 お前の名はレオンだ!

 シンヤなどと言う東国のものでは無い!


「ふざけるのは止めろ。お前は俺と力を見せ合って、魔王レオンとして君臨する義務があるんだ。己の真名を隠すなどする必要は無い、お前にはレオンと言う誇り高き名があるではないか! それでも尚名を隠すと言うのならば、剣を取れ! 認めさせてやろう、己が運命を!」


 それがこの、魔王クロム・ロードの、最後の使命だ―――!!



 …………

 ………

 ……

 …





「……はぁ……」


 いやいや、ため息も出るってこれは。

 参ったねこりゃ、説明のつもりが大分魔王に出番回しちゃったよ。

 まぁ良いや、この通り魔王は現実を即座に受け止める事が出来ない馬鹿なんだよ。

 そんな馬鹿を倒すのは簡単だって事。


 んじゃぁまぁ、本命の狩りを始めるとするかね。


 本物の強者と言うモノを見せてやろう。


奪取開始ダッシュ・ゴー!」


 さてまず何処から話そうかな?

 おっと、その前に魔王の元までブッ飛んで正拳突きだ。

 約500mメートルと言う距離を、俺は1秒と掛ける事無く突っ込めるんだぜ。


 防御しようと立てた剣が真ん中からへし折られ、勢いそのまま腹にぶちこまれて吹き飛ばされて壁にめり込んだ魔王を横目に回想へ入ります。


 え? 俺の口から話せって?

 回想の方が早いじゃん。

 説明だって色々やり方あるんだよ。

 さて、あの時作戦を阻止せんとレオンに勝利の剣エクスカリバーを叩き込まれそうになった俺はと言えば。





 ====== 結果 ======


 うわああああああああああああああああああああああ

 ああああああああああああああああああああああああ

 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァ…………



「………あれ?」


 あーるぇーおっかしーなー?

 一頻り叫んで結構時間も経ったはずなのに、何も感じねぇぞ?


 ひょっとして、勝利の剣エクスカリバーとは痛みを感じる間も無く相手を滅する凄い奥義なのだろうか?


 そうかー、俺滅されちゃったかー。

 短い人生だったな、いやまぁ可愛い悪魔とお近づきにもなれたし、異世界にも行けたし。

 幸せだったのかもな、うんうん。

 何だかスッキリ諦めもついたし、寧ろ気持ち爽やかだな。

 これは寧ろ貴重な体験をさせてくれたようなもんだな。

 やったぜ、レオンありがとう!


『 現実を見なさいこの馬鹿! 』


 痛ぃってぇ!!

 おい、折角人が良い気分だってのに頬っぺたビンタするのは酷いんじゃないですか悪魔さん!?


 ……………え? 悪魔?


 ………あれ!?


「ぇ、お前コッチの世界来れたの?」


 いや、姿は見えてるんだが何だかぼやけてるぞ悪魔。

 大丈夫か? お前……消えるのか……?


『消えませんよ失礼な! そもそも私はさっきまで珈琲を拝借して嗜んでいたんですー! 』


 ぅ、うん、いやまぁ、嗜むのは良いけど後片付けはちゃんとしてね?

 って言うか俺の考えてる事読んじゃったよこの子怖い。


『あぁ、《思考世界メタサイド》の中だと秘匿思念でもしない限り思考が筒抜けですよ? あ、私今日は黒です』


 何だそれは、メタサイドだと!?

 あ、それとご丁寧に下着の色答えてくれてありがとうございます。

 って、そうじゃない!


 メタと言うのは自身から離れた第三者視点から見た事象の事、つまり俺は今世界の理から外れているのか!?


『まぁそんな風に思って頂ければ』



 メタサイド強ぇえー!!!



 詳しい話を聞いてみると、この《思考世界メタサイド》は所有者の精神を今いる世界とは違う、時の概念が無い世界に移す能力らしい。

 この悪魔は、俺が異世界へ来ている間に珈琲を嗜みながらせっせと俺の能力を解析アナライズしていたと言う。

 そしてそれは、この《思考世界メタサイド》を所有しているのが俺だと言う事に繋がる。


 何だそれチートどころの話じゃねぇぞ。


 って言うかお前、自然に俺の能力使ってるんだな……。

 直感的な天才だが細かい事に目が行き届かないタイプか、俺に似てるなこの悪魔。天才を除いて。

 俺に天才なんて文字は無い、寧ろ俺は盆栽だ。


 どうやら指輪を通じて意識を共用しているようで、悪魔自体は今頃俺のベッドに座ってSFチックなオペレーティングでもしてるんだろう。


 ふと目を見やると、物凄い笑える形相で叫んだ状態で止まってる俺が見える。

 これは中々芸術的な瞬間で―――って、この一瞬後に俺は消えてしまうかも知れないんだ。馬鹿な事を考えるのは止めよう。


 なるほど、時の概念が無い世界に逃げ込んで対策を考える事も出来ると言うわけか。

 この能力を解除すると同時に対抗策を決行しなければ、間違い無く俺は ジュッ♡ とされるだろうな。

 悪魔も良いタイミングで能力を発動してくれたものである、グッジョブ悪魔。


 さてと、何か策はあるのかね悪魔君?


『 簡単です。今貴方の身体は、魔法使いの少女へ向かっていますね?』


 そうだね。


 そもそもの俺の行動の魂胆と言えば、魔法使いのお腹が膨れている事を確認し、その中に生命が宿っている可能性を見出した事から始まったんだ。

 俺の予測として、アイツの腹には勇者レオンの子が宿っているはず。

 勇者って跡継ぎとか残したりしようとするじゃん?

 そういうわけで、俺は勇者の親的良心を利用しようと突っ込んだのだ。

 なんて小難しい言葉を用いずに作戦名を挙げるなら、『お父さん、アンタの子供は我が手にあるぞ!』。


 つ ま り 人 質 作 戦 で あ る 。


 だが、その目論見は見事なまでに勇者に見破られ、突撃ルートの途中でエクスカリバー勝利の剣を打ち込まれてしまったようだ。


 くっそぉー勇者め、まさかあの小娘の腹にタオルを詰めたりしてないよな。

 もしそうだったらお前を殺して魔王も潰した後、あの小娘の下腹を開いて着火済みの爆弾を突っ込んで……!



 いや、そんな勿体ない事は出来ないな。



 と言うわけでこの小娘は報酬という事にして頂くとしよう!

 この俺が恥を掻いたんだ、それくらい良いだろうよ。


『……ゲッスい……』


 何とでも言い給え、俺は自分に正直なのダダダ!


『では、そんな貴方にピッタリな能力があります。これを使えば、今の状況を打破して大逆転を狙える可能性大ですよ』


 ほぉ、他にも俺は能力を得ているのか。

 そしてこの悪魔、それらをこの短い時間で全て解析したらしい。

 中々優秀だな悪魔君。


 自然な流れで俺をサポートしてくれる、良い相棒になりそうだ。


 ……ん? 何か気持ち赤くなってる気がするが大丈夫か?


『き、気にしないで下さいッ!!!こほんっ……ではまず、貴方の持つ能力は……』





 さて、悪魔に能力を教えてもらった事で俺は自信を持った。

 あの悪魔は今回も嘘を吐いていない、その自信もな。

 あぁ、俺の応用力ならこれしきの能力使いこなせるともさ。


 そうと決まれば、早速行動に移そう。

 勇者レオン、この俺をナメ腐ってくれた事を後悔するが良い!

 いや、しろ!

 後悔しやがれ! ブーブーだ!



 ―――《思考世界解除メタサイド・ログアウト》!―――



「あぁああああああああああああああああああ!!!!!!」


 そうだった、俺、叫んでるんだったよな。

 まぁ良いや、高速走行のために手を後ろに向けていたのが幸いだったぜ。

 両手に力を込める感じで意識を瞬時に集中させよう、イマジネーションが大事なのだ。

 そう、イメージするのは昔読んでいた、マフィア漫画の主人公。



 《放射ブラスト》―――――――!!!



 焔が一気に両手から解き放たれ、その反動が俺の身体を押す。

 脚は地面から離れ、慣性の法則に従い身体が地面とほぼ平行となる。


 そう、俺は両手を加速器ブースターにして飛んだのである。


 叫んだままだったけど別に良いや、風が気持ち良いし美味しい。


 ちなみにレオンのエクスカリバー勝利の剣は俺より一瞬遅く進路を切った。

 大外れである。

 見ろよあの間抜けな面。 へへっ、ザマぁ見やがれってんだ!


 さぁて魔女っ、俺の役に立てよ!


 左手の焔を消し、身体を捻って後ろを向く。

 右手の出力も瞬時に切り、あとは指輪と魔女っに意識を集中するのみ。


 ……あれ、ちょっと待ってこれ殺さないように調整しなきゃいけないんじゃね?


 俺は今むっちゃ凄いスピードでブッ飛んでいる、酔っ払いが思いきりアクセル踏んだ車以上の速度だ。

 俺の作戦を完成させるには、この魔女っを殺すことなく、その胸に指輪を当てる必要がある。

 ここで力加減を誤って、この少女をミンチにでもしてしまったら作戦は失敗するしこの娘を報酬として得ることも叶わない。


 慎重にやらなければ――――!



 残り10mメートル

 標準は合わせた。


 残り5mメートル

 力を抜け、トンと当てるだけで良いんだ。

 そうすれば悪魔が俺の代わりに術式を展開してくれる。


「トンっ……!」


 魔方陣みたいなのが展開されていくのが見えた。と同時に、少女の目が曇ったのも確認出来た。

 一瞬の事をアドレナリンの分泌と気合で認識出来た事が良かったな、ともかく成功だ!



 ………ぁ。



「うぁあ~~~~~~~~………どはぁあっ!!!」


 しまった、慣性の法則に従って身体がそのまま吹っ飛んでいった。

 岩に当たる俺、当然だと言わんばかりに砕ける岩、無事に(?)コケて腹に一発破片を喰らう始末。

 い、いかん……折角作戦成功したのにカッコ悪いぞ俺……。


 まぁ良い、岩を適当に引っ付かんで適当にぶん投げておこう。

 この《放射ブラスト》は色々と応用出来そうだ。

 飛ぶことにも使えるし、焔とは逆に力を利用すれば氷も使えるかも知れん。

 焦点を絞れば超高圧の熱線や氷柱つららとかの射出も出来そうだ。

 弾幕とかもいけるかな……?


 まぁ良い、今は作戦の最終段階に移るとしようか。


 起き上がった俺は合言葉を唱える。


「お前の主は~?」


 我が下僕は、振り返って ”打ち合わせ” 通りに返してくれる。

 目にハートを映してね。




「主……我があるじ、ジン様ァッ!♡」




  ―――――――データ―――――――


氏名:神条 神鵺 性別:男 年齢:18歳

職業:専門学生

クラス:狩猟者プレデター

契約者:悪魔ネームレスデヴィル

クリスタル:黒金剛石ブラックダイアモンド

レベル:?

【ステータス】

筋力:A 敏捷:A+ 生命力:B

感覚:C+2 器用:C+ 知力:B+3

精神:C+2 幸運:?? 容姿:C-

【能力】

《思考世界》

《放射》

《???》

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