第2話 異世界訪問

今日食べたハンバーグは、今まで食べた中で一番美味しいものに感じられた。


 どーも、神条カミジョウ 神鵺シンヤです。


 今日は此方の女性、悪魔さんに手料理を振る舞いました。


 いや見て下さいこの幸せそうな笑顔。

 百点です。

 しかもこれスーツ姿って言うのがまたポイント高いですよね。


 仕事の為に来たのに、お腹が空いちゃってつい御馳走になっちゃった系女子。


 全く以て、アリだ。

 素晴らしい。 

 羽はピコピコ動くし尻尾もほら犬みたいにユラユラ揺れちゃって。


 凄く可愛いです。本当に有難う御座いました。

 俺は深い感謝と言うものを実態を持って得た。


 さておふざけはここまでにして。


 腹も膨れたし、今日は都合良く休日でコンビニバイトも無い。

 ちなみに時間はお昼時、正に丁度いいタイミングで食事を摂ったのだ。


 では、食事の後の運動にでも行きますか。


「んじゃ悪魔、腹も膨れて元気出たし早速狩りハント行って来るか」


 ハッと我に返る悪魔。


 おい、お前。

 飯が美味過ぎて仕事の事忘れてるだろ。


「ご、ご冗談を……腹が減っては戦は出来ぬとも言うじゃないですか」


 うん、さっき自分が言ってた事を思い出してから言おうな。

 おっとそこ、余計な事を考えるんじゃないぞ?

 俺は自分の言葉をちゃんと理解出来る良い子だ、イイネ?


 分かったら早速お仕事開始といきましょうや。


「はい、ではこれよりチュートリアルも兼ねて、簡単な所から行きますよ」


 ふむ、まずは簡単な所から。

 常識だよね。



「最初のターゲットは、”魔王”です」



 もう一度聞こう。


「ん? いえ、ですから……”魔王”です」


 もう一度聞こう。


「何度でも言いますよ、”魔王”です」


 俺の耳がおかしくなっていたわけでもないし、この悪魔がおかしいわけでもない。

 本当にコイツは魔王をターゲットにさせるつもりのようだ。


 ファ!?!?


 いや、待てってお前。

 いくら狩猟者プレデターになったからって、いきなり魔王は無いんじゃないの?

 泣くぞ?



 男がワンワン吠えてプライドも無く泣き喚くぞ!?



 せめて初めは何処かの武人とかさ。

 そういうスライム的な相手じゃないの?


「指輪を此方へ向けて下さい、まずはゲートを開きますよ」


 人の話を聞けよ。

 嫌われるよ?

 俺お前の事嫌いになりたくないよ?


 まぁ良い。 

 チュートリアルで魔王と言う事は、狩猟者の力は凄まじいのだろうと俺は強引に帰結を下した。


 もう何も怖く無い。


 よし、とりあえずフラグ建設は完了しておいた。

 悔いはありまくるが逝って来るとしようか。


 悪魔と自分の指輪を合わせた。

 すると両者の間に何やら魔法陣っぽいものが出来上がった。

 なるほど、これがゲートか。


 案外簡単に出来るもんなんだなこれ。


「これから行く世界はある程度レベルの低い世界です、なのでその最高位たる”魔王”が狩猟者の小手調べ相手に丁度良いんですよ」


 君、中々エグい事を言っちゃうね。

 魔王が泣くよ? それ。


 まぁ良いや、これから魂を狩られる獲物ルートに人権も糞も無いんだ。

 俺の良き生活のため、犠牲になってくれ給えよ魔王君!


 と言うわけで、≪異世界訪問トランスファー≫!







―――――― 剣と魔法の世界 ――――――


「ぃよっと……うぉわデケェ!?」


 ゲートの先に降り立った俺の眼前に現れたのは、それはそれは大きく禍々しく高く聳え立つ建造物、城だ。

 ご丁寧に暗雲が覆いかぶさっていて雷をビシバシ叩き込んでいる。


 雷さん、暗雲さん、お疲れ様です。 


 なるほど、これは魔王城だな。

 何と言うか、イメージ通りだ。


 これはもう、「自分魔王です! 此処魔王城です! 勇者来い! 殺してやる!」みたいな雰囲気感じちゃうよね。


 俺勇者じゃないけど入っちゃって大丈夫なのかな?

 いやそもそも俺は略奪する側にいるのであって、別に勇者である必要は無い。


「ちょっと待てそこの!」


 ん? 何か聞こえたぞ。

 そこのって、俺か?

 やだなぁ、俺にはちゃんと神条 神鵺って名前があるんだよ?


 失礼な奴は俺の後ろにいるようだ、良いだろうその顔を拝ませてもらおうか。

 そうと決まれば振り返ろう、誰だ貴様は!!


「この勇者様より先に魔王城に辿り着くとは貴様良い度胸してるな。赦しちゃおけねぇ、魔王の財宝を奪うのは真の勇者であるこのレオン様だ!」


 勇者キタ――――!!


 何か知らないけど自称勇者様キタ――――!!



   こほんっ。


 取り乱した、やり直し。



 ===TAKE2===


 振り返った俺の目線の先にいたのは、5人のパーティだった。


 一人目、何かすっごく偉そうな豪快な笑みの剣士ブレイバー

 現在怒りに顔が歪んでおります。


 二人目、超絶可愛い魔法使いソーサラーの水色短髪美少女。何故か腹がぷくれてる。

 (お持ち帰りしたい! いや、嘘ダヨ? うん。……お持ち帰りしたいです変態でスイマセンデシタ)


 三人目、屈強そうな筋肉ムキムキ戦士ファイター

 大人しそうに瞑想してらっしゃる。


 四人目、眼鏡の似合う白衣の男、コイツは薬師ヒーラーか?

 何かカッコいいポーズキメてる、中々様になっているな。


 五人目、突然変異なのだろうか、褐色の肌に痣の刻まれている美しい角付きエルフの神官プリースト

 って言うかこのエルフ……! お胸! 万歳!!


 品定めしている間に勇者が代表して宣ってきた。


「この勇者様より先に魔王城に辿り着くとは貴様良い度胸してるな。赦しちゃおけねぇ、魔王の財宝を奪うのは真の勇者であるこのレオン様だ!」


 清々しいまでの外道宣言有難う御座いました。

 俺も外道って事でお互いの立場はとりあえず対等になったと思いたい。


「へぇ、勇者様御一行ねぇ……」


 そうだよね、自己紹介されたら自己紹介し返すのが礼儀だよね。

 ほらその剣を納めて、アイサツは大事なんだよ。

 古事記にもそう書かれている。


「初めまして勇者様方御一行、俺はちょっとした事情で死神やってるもんだ。ジンとでも呼んでくれると嬉しいな。宜しく頼むよ、勇者レオンと愉快な仲間達」


 ちょっとカッコつけてみたけどどうかな? どうかな?

 俺今カッコ良いかな!?

 カッコ良いよね!? じゃないとこの自己紹介かなり恥ずかしい!!


「ジン……そんな名前の死神は聞いた事無いわね。この場で神を騙るなんて、貴方、自分がどれだけ冒涜的な事を口にしているか分かってるの?」


 おっと、神官プリーストの痣が大きくなって頭から角が出て来たぞ。

 なるほど、このエルフは普通 (俺の中でのファンタジーの普通)と違って魔物的な要素が強いらしいな。

 そして多分、俺はこの女を怒らせた。


 まぁ事実馬鹿にしてるからね、ほら、略奪者ってロールプレイも重要じゃん?


 と言うわけで俺は上位者と言う事にして話を進める事にした。


 負けたら負けたで逃げりゃ良いんだよてやんでバーローちきしょう。


「いやぁ、別に馬鹿にしているわけではないんだがな? ほら、俺もお仕事でこうして魔王を殺しに来てるんだから、ここは下手に争うより協力し合うのが合理的じゃないかな? 俺、財宝よりももっと良いもの貰うし?」


 まずは煽りを入れる。


 コイツらを一目見て感じた印象は、大罪で表すなら傲慢プライド強欲グリード

 ならばまずはそこを刺激してみよう。

 この程度の煽りに精神を揺さぶられるような奴なら魔王になど敵うわけもないのだ。


 俺の勝手な憶測でしかないのだけどね。


 さて、勇者様御一行の反応だが――


「財宝よりも良いものだと? 何だそれは、教えろ!」

「注意、デヴィルの気配を感じるけどソイツは人間」


 ほぉ、可愛い娘ちゃんは観察眼を持っているようだ。

 もしくは何らかの鑑定スキルっぽいものでも持っているのか?


 その能力欲しいな、魂奪えば能力とかも奪えるかね?


「嘘も平気で吐けると言うことだ、レオン。お前の高潔なる魂なら、真実を見抜けるはずだ」


 ガチムチ男が静かに言ってくれる、これぞ漢だな。


 さて君の言うそれって、真眼とか言うツエー奴が持つ何でも見通す眼とやらか?

 スゲェのやら厄介なのやら。

 しかし今気になる言葉ワードを聞いたぜ。


 高潔なる魂だとぉ?


 俺のターゲットは魔王だけど、おまけを貰っても良いかな?かな?


「リーンも落ち着け、相手の策に嵌まるな」

「っ……すみません、ガドさん……ありがとうございます」


 チッ、なるほどこやつらはそれぞれ補いあっていて、本当にパーティとして出来上がっているようだな。


 冷静な漢、種族不明のガドさん。

 くっころ属性持ってそうなエルフのリーンさん。

 覚えたぜ。


 あ、ちなみに俺は半分本心で協力を申し出ている。

 つまり俺の言葉は嘘でもないわけなのだ。


 だって、財宝なんかよりもっと素晴らしいものが手に入るもんね。

 そう、それはお金だ。

 下手な宝よりも現金の方が俺にとっては即効性があって良いし、うまくいけば強くなってより上位の獲物を狙えるようになるというわけなのだ。


 それにこの世界の財宝が俺の世界で如何程の価値かも分からないなら、尚更素直に協力して財宝を明け渡し、俺はすんなりと魂を略奪する方が断然お得だ。


 そして、勇者レオンの高潔なる魂は言葉の裏に潜む邪念を綺麗に汲み取ってしまったようで。

 そしてその邪念は彼の罪を刺激してしまう。

 その罪の一つ、《強欲グリード》が目を輝かせる。


「ガド、俺様に嘘がそもそも通用しないのは知ってるだろ。俺様はコイツの言ってることが本当だと分かってるから、こうしてその中身を暴こうとしてんだ。さぁジン! 教えなければお前を殺すぞ!」


 勇者だったらもう少し良い言葉で以てして聞いてください教える気が失せます。

 はい失せました、教えませーん。


「なっ、き、貴様……!! この俺様の命令を無視するのか!? 口笛を吹くな! コッチを向け糞がァッ!!!」


 よーしよしよし、《傲慢プライド》も良い具合に刺激されているようで良かった良かった。


 その調子で狂え狂え、混乱の渦中にある方が事は――


    どかーん。


 ……うん、そうだよね。

 普通こんな長話してたら不意打ち喰らっちゃうよね。


 でもまぁ魔法使いソーサラーの少女が何やらボソボソと唱えていたのは見えていたので、俺は真っ直ぐ飛んできた火の玉をシッカリガードしながら後方へ飛んでダメージを軽減させたのだ。

 火の玉は腕に当たると大爆発したのだが、さしずめ今のは《火属性魔法:極大爆裂エクスプロージョン》ってところか。


 って言うか俺、頑丈だな。

 ダメージと言うよりはちょっと腕に熱いお湯が掛かったぐらいの痛さだぞ。


「危ねえなぁ魔女っ娘ちゃん、もうちょっと遅かったら直撃喰らってたよ。ビビったぜ」


 ここは不意打ちを受けたことを主張しておこう。勇者には通じずともお供には嘘が通用する可能性もあるし、この方が惑わせやすい。

 しかしこの子娘、わざと詠唱を見せたようにも見えるな。


 おっと、軽口を叩く間にも薬師ヒーラーが何か銃らしきものを向けてきた。

 恐らくは毒系統の攻撃でも放つつもりだろう。

 なるほど、派手な攻撃で視線を誘導して本命の攻撃はコッチってわけか。

 勇者様御一行、中々上手いこすい


「そこだ」


 眼鏡がキランって光ってますね。

 カッコいいです、だがそれだけだ。


 俺にはハッキリと弾道 (弾は針だが)が見える、避けるのは容易だった。

 動体視力が鋭くなっているのか?

 契約のお陰か俊敏性も飛躍的に上がっているようだ、これなら格闘戦もいけるかも。


 驚く魔女っ娘と薬師の男を尻目に、戦士のガドさんが突っ込んで来た。


 デッカい斧を持っていらっしゃる、流石の俺もあれを素直に受け止める勇気は無いなぁ……。


「勇者に対し虫の良い話を聞かせ心を惑わせるか、悪の業に溺れた者め。さては魔王の残す最後の隠し砦か。ならば喰らうが良い死神を騙る者ライアーよ! 《超加速連斬オーバーアクセラレーションブロウ》!!」


 ファ!?

 ちょ、ガドさんが急に超速くなったゾ!?


「ひぃっ!? ちょ!? 待て! それは! アカン!」


 っつうか俺もスゲェ! ガドさんの斧避けてるよ!

 あっ、でも無理な体勢になったせいでそろそろ避けきれないなこれ。

 どうしよう?


「隙ありだ、往ね!!」


 往ね!! ってお前それカッコ良すぎじゃーありませんか?


 こうなりゃもう一つ試したい事をやってみよう、左拳を握って身体を捻って思いっきり斧を殴る!

 頼む当たってくれぇえええええ!?!?


「ぅおりゃぁっ!」



  ばごぉーん。





 ……ワー、スゴーイ。

 斧が粉々になっちゃったー。

 ちょっと軌道を逸らすつもりだったのが、武器壊しちゃったわー、アッハハハ。


 俺の拳はどうなったかって?

 煙をあげてピンピンしてます、でも痛い。

 オーケーオーケー、見た目は変わっていない気がするが筋力も相当上がっているようだ。

 あ、そう言えば何となくお腹がスッキリしたような気がする、きっと後で確認したら割れているんだろうな。


 そして斧の持ち主だった戦士ガドさんと言えばー……唖然としておる。


「…………私の……大地の斧アースが……?」



 え、そんな大事な武器だったの。

 あれ? ちょ、やめて泣かないで! 涙目ならないで!?


 ごめんね!? ガドさんごめんね!?


「ガドさんの大地の斧アースが、壊れ―――ッ!」


 おぉっとリーンさん、途中で口を塞いだのは良い判断だ。

 言って良いことと悪いことが何処の世にもあるんだゼ!


 あぁガドさん泣かないで! 休んで良いから!

 ね!?


「くっ、ガドさんの仇ぃ!!」


 いやいやいやガドさん泣いてるけど生きてるからね!?

 そこはせめて大地の斧アースの仇にしようねリーンさん!?


「グゥ……ッ! ぅ、うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」


 ガドさん吠えたー!?


 って、ちょっと待て隙を見て撃ってくるんじゃない薬師ヒーラーさん!


 魔女っ娘も隕石の雨メテオレイン降らすの止めなさい!


 リーンさん貴方神官プリーストの癖に何爪手甲クロウフィスト装備してんの!?


 ガドさんも巨大化ティタンフォーゼして殴り掛かって来たー!?


 避けるのに必死な俺、容赦無い四人の攻撃。

 だけど奴らの攻撃は三秒間避けた辺りから見切れるようになっていた、流石は俺。

 え?  契約の賜物だろうって?

 それを言っちゃぁお終いよ君。

 って言うか……。


「待て待て待てお前ら! 落ち着けぇぇええええええ!?!?」


 コイツら、完全に殺す気だ。


 俺の事を殺して喰う気だな!

 このエッチ!(?)


 ってちょっと待て。

 一番攻撃して来そうなレオンは一体どうしたんだ?

 お腹でも痛いのか? ラッパのマークが必要か!?


「良いぜ、お前らその調子で時間稼ぎしてろ!」


 剣を天高く掲げて光溜めていらっしゃったー!

 カッケェな、いや、様になってて素直にカッコ良い。

 いや時間稼ぎって言うかこれマジモンの攻撃ですよレオンさん?


 でも、アカン、これはレオンの攻撃を許せば負けるパターンだ。

 俺の勘 (ゲーム脳)がそう告げている!


 そろそろ目も慣れてきたし身体も滑らかに動くようになってきた、奴の攻撃を分析しよう。

 力を集積しているのを見るところ連続攻撃は出来ないようだ、だがその分威力は凄まじいだろうな。

 恐らく攻撃する際は仲間達もタイミング良く離脱するはずだ、阻止は出来なくとも攻撃の終点をずらす事なら……。


 俺は”奴”のいる方向に目線を向けた。


 俺には一つ考えがあるのだよ。

 俺の眼だって優秀なのだとこやつらに魅せ付けてやろう。

 同時に頭が良い事も。


 ……よしよし、うまくいけばレオンの攻撃を外させる事が出来るな、更には攻撃の手を止めさせることも出来なくは無い。

 オーケー可愛いちゃん、お前のその確かな”お腹の膨らみ”を信じてみるぜ。


 賭けでしかないが、いっちょやってみっか!


「ぃよっと、あばよっ!!」


 隙を見て巨人ガドティターン・ガドの股をすり抜ける。

 巨大化は負けフラグなのだよガドさん!


 リーンさんも俺の動きに寸での所で追いつけなかったようだ、そのままでいてくれよ!


 いざ駆けろ! 勝利を目指して!


「チッ、すばしっこい……!」


「後悔させてやるぜ、勇者レオン!」


 くっちゃべってる間にレオンの剣が光ってしまった、マズい。

 だが俺だって全力で走ってるんだ。


 間に合え―――――!!


「……ヘッ。終着点は見えてるんだぜ……んなのさせるわけねぇだろ! チャージ完了! 偽りの神を滅せよォッ!! エクスカリバ勝利の剣ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 読まれてた!? って言うか思ったより発動早いですね!?


「クソッ! く、来るなぁぁあああああああああ!?!?」


 うわぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁァァァァ……......




…………

………

……














 魔王城の最上階、――終点エンドロール――。

 室内でありながら広大な世界を魅せ付ける、芸術的な広間だ。


 ここで幾度と無く、魔王と勇者の死闘が繰り広げられた。

 いや、それは死闘ではない。


 500年ほどの周期で行われる魔王討伐。

 これで魔王を倒せた者は、英雄として崇め奉られるのだ。

 だがそれは、この世界の住民達に平穏を齎す為の大嘘である。


 新たな魔王を選別する一つの儀式。それこそが、この魔王討伐の真の姿である。


 魔王は子供を作れない。

 いや、実際には子供を産ませる事や産むは出来るし、事実この世界の人口の7割は魔王の血を引いているのだ。

 ただ、それはあくまで血族という事にしか過ぎない。

 魔の血族から真の魔王が現れるのは、極稀な事なのである。


 であるからこそ、何時しか魔王は裏表のあるシステムにより世襲を成り立たせる事にした。


 500年に一度、全世界の中から有望な存在を見つけて勇者見習いとする。

 この時点で大体世界人口の1%。

 次に勇者見習いに対し適度な訓練をさせ、2年間世界を巡る旅に出向かせる。

 帰ってきた勇者見習い達の中から、大きく力を付けたと見做されみなされた者のみを孤島へ送り出す。

 そうして5年間放置し、再び孤島へ訪れた時に生き延びていた者を勇者の卵とする。

 この時点で最初の数から99%以上が排除される。


 後は、勇者の卵同士に殺し合いをさせて真の勇者を決める。

 ここでやっと、新たな魔王候補が一人誕生するのだ。


 力とは何たるかを理解し、この世界の事をある程度知る事の出来た存在ならば立派な魔王を務める事も出来よう。

 魔王の交代は何度も続いてきた。

 恐らく今後も、それは永遠に繰り返されるだろう。

 そうして世界は魔王を恐れながら、魔王に治められる事で均衡を保ってきたのだから。



 玉座の前に立ち、昔を想い更けるその魔王もまた、この世襲システムにより成り上がった実力ある魔王の一人である。

 名をクロムとし、魔王の証であるロードの姓を授かる者。


 見た目は壮齢の男性、無精髭が似合う渋メンである。

 制服でありながら戦闘服でもある衣装を着こなし、威厳に満ちた雰囲気を放っている。

 真っ白な髪は、彼が壮絶な人生を経験してきた証でもある。

 クロム・ロードの精神は強靭なまでに鍛えられており、最早折れる事を知らない。


「……息子のようなものか、勇者というのは」


 前魔王を倒して、自分が魔王となってから約500年。

 思えば長かった。

 この長く退屈で幸せな魔王としての一生を謳歌出来た事に、感謝しているのだ。

 初めの頃は驚き、嘆き、絶望もしたが、多くの仲間達が支えてくれたお陰で、自分は魔王として世界を治めることが出来た。


 そろそろ役目を終える時が来たのだ。


 死ぬのは怖くない。

 自分を倒し新たな魔王となる者が、高潔なる魂に恵まれている事を願った。

 世界を不幸にしないで欲しい。

 魔王クロムの心残りはそれだけであった。


 そして最後の扉が開き、遂に魔王交代の儀が執り行われる時が来たのだ。


 迷いを振り切ると決意し、振り返った魔王は……素っ頓狂な声を上げた。



「………は?」



 重い扉は、確かに開かれた。

 だが、その扉の先に見えたものは―――。




「……ぁ……?」



 それは、今までのクロムの一生を否定するには簡単過ぎた事で。



「……ぁ……」



 彼の脳に送られた情報が異常過ぎて。



「……ぁ、あぁぁぁ………!?」



 現実を理解した魔王の心にヒビを入れるには、十分過ぎたものだった。











 立っているのは、一人の魔法使いの少女。

 血を帯びているが傷は無い、ただ俯いて陰に目を伏せる水色の短髪少女。


 座っているのは、一人の奇抜な格好をした黒髪の少年。

 此方も大量に血を浴びているが、美味しそうにそれを舐めて不敵な笑みを魅せ付けてくれた。


 彼が座っているのは、四つの死体の山の上。


 魔王が見たのは、その死体の中の一つのみ。


 それは。

 少年に足の裏を置く事を赦すそれは。


 自分を倒し新たな魔王になるはずの――――勇者レオンの死に顔だった。











 凍り付いた世界の中で、

 場に似つかわしくない軽い調子で、

 少年が口にした。




「初めまして、魔王様。


 異世界何処でも出張します。


 魂狩る者、狩猟者プレデターです。


 貴方の魂、奪いに来ました」





  ―――――――データ―――――――


氏名:神条 神鵺 性別:男 年齢:18歳

職業:専門学生

クラス:狩猟者プレデター

契約者:悪魔ネームレスデヴィル

クリスタル:黒金剛石ブラックダイアモンド

レベル:?

【ステータス】

筋力:A 敏捷:A+ 生命力:B

感覚:C+2 器用:C+ 知力:B+3

精神:C+2 幸運:?? 容姿:C-

【能力】

《???》

《???》

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