10th Hand 酒は飲め飲めサクラ節


ここは世界のどこかの場末のカジノ

集まる面子はいつも同じ


○登場人物


     ☆サクラ   

      正体不明・天下無敵のハイティーン。   

      風呂上がりにはコーヒー牛乳だよね!   

      人種設定:ワイルドカード   


     ★ムラカミ   

      自称「グレートな男」の残念な熱血系。   

      は? フルーツ牛乳だろ?   

      人種設定:モンゴロイド   


     ★棟梁   

      肩で風切るいなせなジジィ。てやんでぃ!   

      風呂出て体拭いてタオルで背中パーン!   

      人種設定:コーカソイド(ゲルマン系)   


     ☆ミスホワイト   

      女の武器フルアームドおねーさん。ぽってりな唇。   

      バスローブ着てワイングラスを傾ける……とかやりたい。   

      人種設定:コーカソイド(スラヴ系)   


     ★ジョニー   

      陽気でファンクな脳筋マッチョ枠。   

      体に悪いと知ってても、ビール飲んじゃうよねぇ。   

      人種設定:ネグロイド   


     ★猫柳   

      存在感薄めの不思議少年。猫がなつく特性もち。   

      ねこ おふろ きらい。   

      人種設定:ワイルドカード   



     ☆ダニエラ   

      冷静沈着な美貌のディーラー。   

      風呂上がりに……シャネルの5番……なんでもないです。   

      人種設定:コーカソイド(ラテン系)   


○Guests


     ★デイブ   

      ダニエラの忠臣。カジノの責任者。   


○ディーラーポジション:ミスホワイト

○ホワイト-棟梁-ムラカミ-サクラ-猫柳-ジョニー




   テーブルは開いていない。棟梁以外全員揃っている。   

   棟梁が登場。箔押しされたきれいな菓子箱を持っている。   


棟梁  「おぅ、欠食児童ども。いいもの持ってきてやったぞ」

ムラカミ「誰が欠食児童だっ!」

ジョニー「自分がそうだったからって、人に押しつけないでヨ!」

ホワイト「しーっ、そこ突っ込むと、棟梁は昔話始めるからダメ!」


   棟梁、箱を卓に投げ出した後、席につく。サクラが手に取り、蓋を開   

   ける。蓋は放り投げて卓の中央へ。   


サクラ 「ナニコレ?」

棟梁  「チョコレートだってよ」

サクラ 「チョコ?!」

棟梁  「もらいものなんだが、オレもニョーボも甘いものはダメでな」

ダニエラ「店外からの飲食物の持ち込みはちょっと……」

棟梁  「ナマモノじゃあるめぇし、かてぇこと言うない。さ、食っていいぞ」

ホワイト「(蓋を手に取って)……罠だわ」

棟梁  「何が?」

猫柳  「お菓子ならお孫さんにあげればいいじゃないですか。でもここに持って

     きたってことは……(ミスホワイトから蓋を受け取る)やっぱり、ウィ

     スキーボンボンですね。かなり強いのが入ってる」

ホワイト「私、勝負の前にアルコール入れたくないのよ。頭が鈍るから」

ジョニー「えー、酔わせてから襲うつもりだったなんて、酷いや棟梁」

棟梁  「知らねぇよ人聞きの悪い。ふだん甘い物食わねぇからわかんねぇよ。だ

     からニョーボの奴、持ってけって言ったのか」

ムラカミ「(突然、おずおずと手を上げる)あのぅ、みなさん……」

ホワイト「何よ、あらたまって?」


   ムラカミ、隣の席をそーっと指差す。サクラがすでにムシャムシャやっ   

   ている。顔が真っ赤に染まっている。   


サクラ 「おいしーぃ! ふにゃあ……」

ムラカミ「はい、対おこちゃまの王道パターン、いただきましたー!」

ダニエラ「……って、えぇっ?!」


   ダニエラがあわてて介抱を始める。   


ダニエラ「いっつもビールがどうとか言ってるくせに、ホントは全然ダメなんじゃ

     ないですか!」

サクラ 「えー? ぜーんぜんヘーキらよぅ! もーぉ気分ちょーサイコー!」

猫柳  「未成熟な体はアセトアルデヒド分解能力が低く、脳機能の低下やホルモ

     ン分泌異常を引き起こすおそれが高まります。未成年の飲酒、ダメ、絶

     対」

ダニエラ「解説は要りません! (インカムに)デイヴ、ポーカールームまで氷水

     急いで!」

サクラ 「んー、なんかあっつーい。脱ぐー!」

ダニエラ「だーめーでーすーっ!」


   ジタバタするサクラ。服がはだける。思わず身を乗り出したジョニー   

   の後頭部を掴んで卓に叩きつけるミスホワイト。   


ダニエラ「ミスホワイト、すみません手伝ってください、これは女性でないと……

     ミスホワイト?」


   ジョニーの後頭部をグリグリ押さえつけながら、答えずに考えにふけ   

   るミスホワイト。   


ホワイト「……サクラぁ」

サクラ 「なんらー?」

ホワイト「ポーカーしたい?」

サクラ 「するー!」

ホワイト「じゃ、やろーか」

ダニエラ「えーっ?!」

ホワイト「だって、こんなかっぱぐチャンス、ふいにすることないでしょー?」

ジョニー「あ……あくとう……(ミスホワイトの力が増す)ふげがっ」

ダニエラ「そんな、子供相手に大人気ないこと言わないでください」

棟梁  「おいおい、ここじゃそいつは、自分で自分の面倒見れる立派な大人、じゃ

     なかったのかい」

ダニエラ「……そうでした(介抱の手を止める)。……うん、そう、そうですよ。

     自己責任です!」


   ダニエラ、すまし顔でディーラー席へ戻り、デックを手に取りシャッ   

   フルを始める。   

   デイヴが氷水のボウルを持って現れ、不思議そうな表情。ダニエラが   

   手振りでもう不要だと合図、デイヴは一礼して退場。   


サクラ 「よーしオマエラ、やるぞー!」


   サクラがふわふわニコニコしている。ミスホワイトの目がギラギラし   

   ている。棟梁がほくそ笑んでいる。ジョニーは痛そうに鼻を押さえて   

   いる。   


ムラカミ「……なー、猫ぉ、酔ったからってサクラが弱くなるイメージ、俺にゃ全

     然湧かないんだけど……」

猫柳  「むしろ強くなって返り討ちに遭うってパターンが鉄板ですよねー」

ダニエラ「(ディーラー決めのカードを配る)DPはミスホワイトからです」


   プレイ開始。ダニエラが手札を配る。UTGサクラ、手札をチラ見し   

   て、据わった目で、んー、とうなった後、   


サクラ 「(嬉しそうに)オールイーン!」

猫柳  「(黙ってフォールド)」

ジョニー「えー、いきなりそーゆーことするかなぁ(フォールド)」

ホワイト「いーのよいきなりそーきて欲しかったのよ! コール!」


   棟梁、ムラカミはフォールドして、サクラとミスホワイトのカードオ   

   ープン。   

   サクラ♠5♣5、ミスホワイト♡A♣K。   


ホワイト「なっ……」

サクラ 「えーけーなんて、落ちなきゃただのブター♪」

ムラカミ「あー、こうなるのか……」

猫柳  「UTGのローポケって、普段のサクラさんのオープンレンジでしたっけ?

     ……まぁ、オールインはしないですね」


   ボードはすべてラグ。サクラの勝ち。ミスホワイトが卓に突っ伏す。   


ホワイト「かーっ、引かないーっ!」

サクラ 「にゃーはははは、ダブルアップー!」


   次のハンド。DP棟梁。猫柳、ジョニー、フォールド。ミスホワイト   

   は撃沈中。   

   棟梁3BBレイズ。ムラカミコール。サクラ、んにゃんにゃ言いながら   

   コール。ポット9BB。   

   フロップ♣Q♠10♣2。   

   棟梁♡Q♢10。フロップツーペア。   

   ムラカミとサクラはチェック。   


棟梁  「(微妙にウェットで難しいとこだな……ドローを振り払えるベットを打

     つって手もあるが、ムラカミに頭悪いコールをされるとオッズが合う。

     引かれて上等で安いバリューを積むか)」


   棟梁、4BBベット。ムラカミコール。サクラ、んにゃんにゃ言いなが   

   らコール。ポット21BB。   

   ターン♡4。   

   ムラカミとサクラはチェック。   


棟梁  「(ラグだ。これは取れたな。ムラカミはどうせミドルかボトムのペアだ、

     ここで打てば下りる。問題はサクラだ。酔ってルースになってるだけな

     ら儲けもの。Qヒットならレイズしてきてるだろうから、ここはドロー

     持ちと見て行動すべきか。下りるか下りないかってところを狙う)」


   棟梁、14BBベット。ムラカミ舌打ちしてフォールド、サクラはふにゅ~   

   と息を漏らして、コール。ポット49BB。   

   リバー♢4。ボードは合わせて♣Q♠10♣2♡4♢4。棟梁、もらった、と   

   ほくそ笑む。しかし間髪入れず、   


サクラ 「(嬉しそうに)オールイーン!」

棟梁  「なにぃぃぃぃぃっ!」


   棟梁、大混乱。冷や汗だらだら流しながら。   


棟梁  「(ここでオールインだと?! なぜそうなる! ポラライズにもほどが

     あるだろ! ……いや、落ち着け。落ち着け。俺はQ10でトップツーペ

     ア。冷静に、いつも通りに考えて、勝ち負けを見極めるのだ。あいつが

     俺に勝つとしたら、何を持っている? ウェットボードだから、早めに

     手ができたなら向こうから打ってくるはずだ。フロップセットがフルハ

     ウスになって急にオールイン、という目は捨てていい。やはりドロー崩

     れで、♣A♣4を持っていて4のトリップスができた、というのが本線か。

     あるいは♣K♣4。Q4o なら事前にレイズがあるだろうし、そもそもプ

     リフロでコールするかも微妙だ)」

サクラ 「(嬉しそうに)はやくしろよとーりょぉ~」

棟梁  「(だが向こうの勝ち筋がその2コンボだけなのであって、それ以外は俺

     の勝ちだ。細い勝ち筋を引けてドンクオールインってぇのも不可解だ。

     チェックしてこっちのトリプルバレルを誘うのが筋だ。ブラフで下ろそ

     うとしてる、と考えた方がよほど腑に落ちる。何より向こうはこれまで

     コール3回のパッシブなアクション、俺の手は見えていないはず。ダブ

     ルバレルをブラフと決め打ちして、さっき浮いたスタックに任せてポラ

     ライズブラフをしかけた……ってとこか。ここに酔っ払いがルースになっ

     てるってのを加えて)、……よし、そのオールイン、受けた!」


   双方カードオープン。   

   サクラ、♡K♢K。キングと4のツーペアでサクラの勝ち。   


棟梁  「……長々考えたの全部ムダじゃねぇか、なんでプリフロでレイズせんの

     だクソアマぁ!」

サクラ 「えー、だってエース落ちたらヤじゃん」

棟梁  「qあwせdrftgyふじこ」

ジョニー「棟梁が負けてキレるとこ、初めて見たヨ。すげぇやサクラちゃん」

猫柳  「……でも、これでなんとなくわかりました」

棟梁  「ぜぇ、はぁ、何が?」

猫柳  「今のサクラさんはおそらく、『イヤな初心者』です。ただのコーラーな

     ら話は楽ですが、プレミアムハンドでもコールしてくるとなれば話は別。

     下手に強気に出ると全部もってかれる、絶対ブラフをしちゃいけない相

     手ですね」

ジョニー「ちょっと優位に立つと駆け引きなしに即オールインとか、やだよねぇ」

ムラカミ「え、それダメなの?」

猫柳  「ダニエラさん、ご感想は」

ダニエラ「私は無心で撒くだけです!」

ホ・棟 「リバイ!」


   リバイがすんで、DPムラカミのハンド。ミスホワイトのレイズにム   

   ラカミ、サクラがコールしてスリーウェイ。   

   フロップ♣A♠J♡8。   


サクラ 「オールイーン!」

ホワイト「またぁ?!(フォールド)」

猫柳  「こういうときって絶対引けないですよねー」

ムラカミ「なんのーっ! ブラフ来いやーっ!」


   ムラカミ、コール。勢いよくチップを前へ。サクラとムラカミ、カー   

   ドオープン。   

   サクラ♣J♢5。ムラカミ♣Q♣8。   


ムラカミ「かー! そっちのが上かぁーっ!」

サクラ 「やーいやーい! あたしの勝ちー!」

ホワイト「ミドルペアとボトムペアでドンクオールインの打ち合いとか……(遠い

     目)」

棟梁  「なんちゅう低レベルな争い……(遠い目)」


   ターン♣K。   


ムラカミ「おっとぉ? クラブ来た! ドローついた!」

サクラ 「にゃあああ、それなしーっ!」


   リバー♢10。   


ムラカミ「……」

サクラ 「……」


   ふたりとも、ぱちぱちと目を瞬かせる。どっちが勝ったか即座に判断   

   できていない。見かねてジョニーが指摘する。   


ジョニー「ムラカミ、ストレートついたよコレ」

ムラカミ「おしゃーっ! サクラに勝ったぁーっ!」

サクラ 「にゃーっ!」


   勝利の喜びに打ち震えるムラカミ。本気でジタバタ悔しがるサクラ。   


ダニエラ「(微笑む)撒く側としては、けっこう楽しいですよ、こういうの」

棟梁  「最初はみんな初心者だった……ってか。相わかった、今日はあまり考え

     ないで、分散上等のラフプレーでいくか!」

ホワイト「そうね、さっきのだってただのコインフリップなんだし、かっぱぐチャ

     ンスには違いないわね。自分で仕掛けた話だから、つきあうわ」

猫柳  「面白いですねぇ。この際、三日に一度くらいお酒飲ませちゃいましょう

     か!」

ダニエラ「ダメですよ!」


   勝利の喜びを噛みしめていたはずのムラカミが、再び、おずおずと手   

   を挙げる。   


ムラカミ「あのぅ、みなさん、盛り上がってるところなんなんですが……」

ホワイト「何よまた?」


   ムラカミ、サクラの方を見るよう促す。   

   サクラ、卓に突っ伏して爆睡中。くぅ、くぅと寝息を立てている。   


ムラカミ「はい、対おこちゃまの王道パターンその2、いただきましたー!」

サクラ 「くー……くー……たーのしぃねぇ……ZZZ……」


   全員がやれやれと肩をすくめて、幕。   


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