9th Hand 病膏肓恋乞考《やまいこうこうこうこうこう》

ここは世界のどこかの場末のカジノ

集まる面子はいつも同じ


○登場人物


     ☆サクラ   

      正体不明・天下無敵のハイティーン。   

      ビッグヒーロー6ならあたしはゴゴかな?   

      人種設定:ワイルドカード   


     ★ムラカミ   

      自称「グレートな男」の残念な熱血系。   

      えーと、フレッドで。   

      人種設定:モンゴロイド   


     ★棟梁   

      肩で風切るいなせなジジィ。てやんでぃ!   

      年食ったのは……このキャラハンってのは? 悪役? かまわ   

      んよ。   

      人種設定:コーカソイド(ゲルマン系)   


     ☆ミスホワイト   

      女の武器フルアームドおねーさん。目ヂカラ。   

      ハニーレモン!   

      人種設定:コーカソイド(スラヴ系)   


     ★ジョニー   

      陽気でファンクな脳筋マッチョ枠。   

      まー、おいらの場合ワサビ選ぶしかないよねぇ。   

      人種設定:ネグロイド   


     ★猫柳   

      存在感薄めの不思議少年。猫がなつく特性もち。   

      ……誰も主人公選んでないんですか? じゃ、ヒロで。   

      人種設定:ワイルドカード   



     ☆ダニエラ   

      冷静沈着な美貌のディーラー。   

      ……そうですね、いいですよね、ベイマックス。えぇ。   

      人種設定:コーカソイド(ラテン系)   


○Guest


     ☆棟梁妻   

       棟梁の奥方。元博徒。




   ダニエラがテーブルの準備中。他には誰もいない。   

   猫柳が少しふらつき、頭を押さえつつ登場。   


ダニエラ「いらっしゃい猫柳さん。……顔色悪いですよ、大丈夫ですか?」

猫柳  「あぁ、すみません。近所のノラのご機嫌を損ねちゃいまして。引っかき

     傷はたいしたことなかったんですが、軽い感染症で、今少し熱が」

ダニエラ「それはお気の毒。今日はプレイをお控えになった方がよろしいのでは?」

猫柳  「薬は飲みましたから大丈夫です、お気遣いどーも(頭を押さえながら着

     席)」

ダニエラ「はぁ。大丈夫とおっしゃるなら」


   ジョニー登場、ロボットダンスのような動き。   


ダニエラ「……大丈夫ですか?」

ジョニー「ちょっと昨日フィーバーしすぎただけダヨ! 5時間ノンストップでフ

     ロアの主役サ! みんなおいらにく・ぎ・づ・けだぜベイベェYoooo!

     (ダニエラが肩をチョイとつつく)アァァァオ!」

ダニエラ「それで筋肉痛ですか。発熱もあるようですけど?」

ジョニー「平気だいこれっくらい!(着席)アァァァオ!」

ダニエラ「……よしたほうがいいのでは?」


   サクラ、腹を押さえながら、顔をしかめて足取り重く登場。   


ダニエラ「サクラさん大丈夫ですか?! 顔色真っ青ですよ!」

サクラ 「助けなんかいらねぇ、あたしゃ女をいいわけにしない、って決めてんだ

     ……」

ダニエラ「(察する)なんかカッコいいこと言ったつもりでしょうけど、あなたは

     女の子です! 大事になさい! (インカムに)デイブ、鎮痛剤をお願

     いします」

サクラ 「これは逆境だ……逆境を乗り越えて、ヒトは強く高くはばたくのだぁ

     ーっ!」

ダニエラ「月一ではばたいてたらキリがないです! 逆境じゃなくて日常ですから!」


   ホワイト登場、頭を押さえている。   


ホワイト「ダニエラさん、あたしも……」

ダニエラ「……あなたはただの二日酔いですね。逆境じゃなくて自業自得ですね」

ホワイト「……なんか反応違いすぎない? あたしも大事にして?」

ダニエラ「でも二日酔いですよね」

ホワイト「……ハイ」

ダニエラ「この時間にその調子って、いったいいどれだけ飲んだんですか。ヤケ酒

     もたいがいにしてください。もう一晩で分解できる歳じゃないんでしょ

     う」

ホワイト「ちょっと待って歳の話しないで」

ダニエラ「でも今二日酔いですよね?!」


   ムラカミ登場、特に何もない。   


ムラカミ「なんかあったの?」

ダニエラ「(凝視)……」

ムラカミ「なに? 俺は全然平気だけど」

ダニエラ「……(ボソリ)馬鹿は風邪引かないんですね」

ムラカミ「え? いまなんか言った?」

ダニエラ「いえ何も。さて……ひどい有様ですね……」


   ダニエラ、テーブルを見渡す。席についてもぐったりしているサクラ、   

   ミスホワイト、ジョニー、猫柳。ムラカミはニコニコしている。デイ   

   ブが一瞬だけ登場、鎮痛剤他の薬剤を各自に届けて去る。   


ダニエラ「あの……私が言うことじゃないとは承知してるんですが、みなさん、そ

     れでもやるんですか……?」

サクラ 「やる」

猫柳  「ご心配なく」

ジョニー「バッチコーイ」

ホワイト「ドリンク。ハイボール、強めで」

ダニエラ「迎え酒はやめません? ……えっと、とりあえず棟梁さんを待ちません

     か」


   ダニエラ、愛想良く振る舞いつつ、シャッフルを繰り返す。   

   卓の面々は変わらずぐったりしている。   


ダニエラ「(ヤバいなぁ……こないだ怒られたばっかだけど、ここはこっちでコン

     トロールして、誰かを飛ばしてさっさと終わらせた方が……)」


   棟梁妻登場。   


棟梁妻 「ダニエラ」

ダニエラ「あ、これは奥様、ご無沙汰しております」

棟梁妻 「かしこまらなくていいよ、客じゃないから。……うちの大将、今日は来

     ないってね、それだけ伝えに」

ダニエラ「すると、棟梁さんは……」

棟梁妻 「鬼の攪乱ってやつさね。なんかえらい熱出して、家でぶっ倒れて寝てる

     よ」

ダニエラ「それはお気の毒。奥様はこちらにいらしてよろしいので?」

棟梁妻 「なに、ウチは娘夫婦に孫が3人いるからね。そぉらおじいちゃんが大変

     だって、あれこれ世話を焼きたがるから、こっぱずかしいもんであんにゃ

     ろこっちに来たがったんだけどね、ぶん殴って止めた。あたしの出る幕

     はそれだけさ」

ダニエラ「健全なバクチは健全な肉体に、ですね?」

棟梁妻 「そう、よく覚えてたね」

ダニエラ「その判断が、今ここにいる方々にできればよいのですけれど……」


   ダニエラと棟梁妻、卓を見渡す。へたっている4人+ムラカミ。   


棟梁妻 「……ふぅん。たいしたお池だね」

ダニエラ「お池、ですか」

棟梁妻 「今日はもう、一杯ひっかけたら帰るつもりだったんだけどね。ここまで

     ステキなお池を見せられちゃねぇ。ちょいと血がうずくねぇ」


   棟梁妻、ぴっと紙幣を出す。   


棟梁妻 「チップよこしな!」


   ダニエラ、紙幣を受け取りながら、大きくため息をつく。天に祈るし   

   ぐさ。それから、卓に向かって言い放つ。   


ダニエラ「みなさん、どうなっても知りませんからね!」


   棟梁妻は棟梁の席に着いてテーブルオープン。   

   時間経過。開幕数ハンド経過後。リバーの時点でミスホワイト、棟梁   

   妻、ムラカミのみアクティブ。棟梁妻がベットし、ムラカミがコール   

   した状態。   


ホワイト「レイズ」


   棟梁妻、ミスホワイトの顔をじっと見つめる。見つめられるミスホワ   

   イトの顔から、だんだん血の気が引いていく。口元に手を当てている   

   (吐きそう)。棟梁妻、チップをすべてポットに押し出す。   


棟梁妻 「オールイン」


   ムラカミは舌打ちしてフォールド。ミスホワイトは目を白黒して長考。   

   時間が経つにつれ、さらに血の気が引く。   


ホワイト「……ゴメン限界」


   ミスホワイト、突然フォールドして席を立ち、ポーカールームから駆   

   け去る(トイレへ駆け込んで吐いている)。棟梁妻、ふん、と息をつ   

   いて自らはマックし、獲得したチップを積み上げる。   


棟梁妻 「だらしないねぇ」


   時間経過。数ハンド後。   

   フロップ時点で、ジョニー、棟梁妻、ムラカミのみアクティブな状態。   

   棟梁妻がベットすると(ムラカミコール)、ジョニーがゆっくりと動   

   き始める(筋肉痛で腕を上げるのも痛い)。コールの額のチップをつ   

   かむが、なかなかベットできない。   


棟梁妻 「ダニエラ。クロック」

ダニエラ「クロックが要求されましたが、よろしいですか?」

ジョニー「ままま、待って、ちゃんとやるから。レ、レイズだい」


   ジョニー、チップを増やしてつかみ直し、レイズする。棟梁妻時間を   

   おかずミニマムリレイズ。ムラカミは舌打ちしてフォールド。   


棟梁妻 「あんたの番だよ。さっさとおし」

ジョニー「あうあうあうあう」

棟梁妻 「ダニエラ。クロック!」

ダニエラ「えーと……では1分で……」

ジョニー「待って待って待ってあせあせあせあせ」

棟梁妻 「まーそんなにしんどいんなら? オールインでもしてさっさと勝負を決

     めるこったね」

ジョニー「あうううう……」


   ジョニー、突然立ち上がって、脈絡なくロボットダンスを開始。1分   

   後、「ぷしゅー」と自分の口で発しながら、ばったり倒れる。   


ダニエラ「1分経過しましたので、ジョニーさんのハンドはデッドということ

     で……」

棟梁妻 「(悠然と獲得したチップを積み上げる)まったく、だらしないねぇ」


   時間経過。さらに数ハンド後(ジョニーは退場しておりテーブルは4   

   人)。   

   プリフロップ。DPムラカミ。サクラに脂汗、息も荒く、痛みに耐え   

   ている様子。UTG棟梁妻が 3BB レイズイン。ムラカミコール。   


サクラ 「相手の辛いとこ突いて無理矢理下ろすのがウデだってか。ふざけんなよ。

     更年期過ぎた婆さんに、負けてられるかっつーの!」


   サクラが 9BB リレイズ。猫柳フォールド。   


棟梁妻 「ずいぶんな言いようだね。脅しのつもりかい? まあいい、コールだ」


   ムラカミもコールで、フロップ♠A♣T♣9。   


サクラ 「……チェック」

棟梁妻 「ほらよ(27BBポットベット)」

ムラカミ「コール」

サクラ 「……レイズ(100BB)」

棟梁妻 「ほう? ほれ(200BBレイズ)」


   ムラカミは舌打ちしてフォールド。   

   サクラ、しばらく考えるも、やがて唇の端にニヤリと笑み。   


サクラ 「オールインだ」


   サクラ、すべてのチップを押し出す。   


サクラ 「……どうだい婆さん」

棟梁妻 「なめるんじゃないよクチバシの黄色いヒヨッコが。年食えばわかるのさ、

     その笑い方はブラフだってね。……ミドルペアでいけるかね、オールイ

     ンコール」

サクラ 「ミドルペア?!」


   サクラ♣K♡9。棟梁妻♢J♢T。サクラ、くっと唇の端を噛む。   

   ダニエラがターンとリバーを置くが、ともに勝敗に関係のないラグ。   

   負けたサクラの上体がふらっと崩れ、卓に突っ伏す。   


サクラ 「ちっくしょー……」

ダニエラ「サクラさん?!」

猫柳  「(立ち上がり)……あぁ、僕が連れてきます。医務室、キャッシャーの

     裏でしたよね」

ダニエラ「よろしいんですか、猫柳さん?」

猫柳  「危機を察知したら、猫はさっさと退散するもんです」

ダニエラ「……それが賢明ですね」

棟梁妻 「……じゃああたしは、こっちの坊やとヘッズでもかまわんがね」

ムラカミ「お?! やるかバカヅキ婆さん! 望むところだ!」

ダニエラ「……! ムラカミさん、サクラさんを運ぶの、あなたも手伝ってあげて

     いただけますか」

ムラカミ「え、なんで?」

ダニエラ「猫柳さんも体調はよろしくないんです。ひとりでは大変かと」

ムラカミ「なんで客が?」

ダニエラ「いいから!」


   ムラカミ、渋々従う。サクラ、猫柳とムラカミに両側から肩を抱え上   

   げられる格好。そろって退場。   

   ダニエラと棟梁妻だけが残る。ダニエラ、大きくため息。   


ダニエラ「……おみごとでした」

棟梁妻 「まぁ、最後のはね。あの娘がうちの亭主と互角に張り合うタフプレイヤ

     ーだってのは聞いてたからさ。あのフロップで、本当にAなりセットな

     りを持ってたら、初対戦相手にチェックレイズなんかしやしないよ。絶

     対に先にバリューを積みに行く」


   ダニエラは卓の片付けを始める。棟梁妻、大きく伸びをする。首を回   

   し、肩を回して、体が自由に動く様子。   


棟梁妻 「体調が悪いと、どうしても判断が浅くて前のめりになるモンさ。不自然

     な作り笑いなんかしちまう。……ポーカーたって最後は体力勝負だから

     ね。ホントは老いぼれが追い出されなきゃいけないんだが、セルフコン

     トロールができなきゃあんなもんさね。……しかしダニエラ、あたしゃ

     まだまだお池で魚釣りをしたかったんだが、どうして最後、若造とのヘ

     ッズを邪魔したんだい?」

ダニエラ「このポーカールーム最大の収入源を破産させられてはたまりません!」

棟梁妻 「はっはっは、そうかい、そりゃすまんかった」


   しばらく沈黙の後、棟梁妻、居住まいを正して、真剣な表情。   


棟梁妻 「ところでダニエラ」

ダニエラ「はい」

棟梁妻 「いい機会だから、ちょいと先行きの話をしようか」

ダニエラ「と、おっしゃいますと?」

棟梁妻 「一族(ファミリー)のことさ。ダニエルがあの調子だろ、このままじゃ

     間違いなく当主のオハチが回ってくるが、あんたそれでいいのかい」

ダニエラ「まだジョージ伯父様がご健勝なんですから、私からなにがしか申し上げ

     るのは控えさせてください。性急に過ぎます」

棟梁妻 「性急なもんかね! 手遅れなくらいさ」

ダニエラ「そ、そうでしょうか?」

棟梁妻 「だって、その歳ならまだ、『愛する男を追って出奔』って手が選べるだ

     ろ?」


   ダニエラ、赤面。焦って手元が狂い、片づけようとしていたチップケ   

   ースを投げ出してしまう。   


ダニエラ「奥様!」

棟梁妻 「いやぁ本気だよ。リッキーといっしょになる気はないのかい?」

ダニエラ「食い扶持もままなくなるの、目に見えてるじゃないですか」

棟梁妻 「でも好いてはいるんだろ。そろそろケリをつけないと、後々しんどかろ

     うよ?」

ダニエラ「……この街を、年がら年中トライアスロンが開催されて、あいつがふらっ

     と戻ってきたくなるような、そんな娯楽都市に育て上げる方が、私には

     まだ楽です」

棟梁妻 「(微笑)おや。ハラは決まってるんだね。それならいい。あんたの好き

     にやんな」


   棟梁妻、立ち上がって去っていく。   


ダニエラ「(卓に突っ伏す)でもあの人、いまヒマラヤのベースキャンプで働いて

     るって……いずれエベレスト目指すって……登山なんかしたこともない

     くせに!」

棟梁妻 「(振り返って)はっはっはァ、お互い甲斐性なしに惚れると苦労するね!

      こいつがいちばん重い病気だよ、医者も薬も役に立たない!」

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