三章【ラボラトリ&アザーリージョン】ー2

                 ◇


 ――機械の音がする。

 歯車。ピストン。シリンダー。螺子やビスに真空管。

 ヴィクトリア・スチームパンクを連想させる、古めかしい機器に一面埋め尽くされた空間。

 物理機構を過去の遺物と追いやった幻思論の時代に不似合いな、無駄を芸術にする機械ルーブ・ゴールドバーグ・マシン


 アンティークに包まれた中、一人の男がそこにいた。

 老いに染められた白い髪。真鍮細工のレトロな眼鏡。

 纏う白衣の背面には、血の色で描かれた雄鶏の紋様。

 反世界政府組織【アブラクサス】のエンブレムだと、知る者ならば気付いたろう。

 彼こそがその創設者。現存世界への反逆者。

 空朔望響クウザク・ボウキョウはただ一人、機械に囲まれ口角を上げる。


「……来ましたか」


 彼の視線の向かう先、あるのは一枚の情報窓だ。

 映し出されている光景は宇宙。そしてそこに浮かぶ四つの人影。

 世界政府旗下最高戦力・【傑戦機関】が最高のチーム、ジャスティス&スカーレット。

 時乃彼岸研究所の中枢に、踏み込まんとする勇者一行。


「どうなされますか、空朔様」


 彼の隣、虚空から滲みだすようにして、一人の女が現れる。

 真紅の髪をシニヨンに纏め、ダークスーツに身を包む女だ。

 傍らの彼女に対し、空朔は一瞥もせずに言葉を投げる。自分一人に言い聞かせるように。


「無論。抹殺だよ。疑わずに新世界を享受する者達。世界殺しの大罪人が筆頭達。我々の悲願を理解せず過去を顧みず踏みつける忌々しい愚か者。生かしておく理由が無いだろう」


 空朔は情報窓を睨みつける。

 傑戦機関。この間違った世界を賛美守護する、世界政府の飼い犬達。

 その中でも己に苦汁を飲ませ続けてきた、紅い髪の少女と正義の味方。

 今度こそ。ああ、今度こそ終焉の時だ。断罪の時だ。

 その瞬間を待ち望むように、彼はごくりと喉を鳴らした。


「プラン七を実行。ジャスティス&スカーレットを抹殺し、そして”彼女”を連れて来なさい」

「御意に。我らが願いを背負う主よ。貴方に真世界の祝福がありますよう」

 そして部屋に響くのは、狂気の男のいかれた哄笑。



                 ◇


 ノッカーの音が鳴り響く。

 幽幻黒衣ブランクキャストがその手に持った、銃器のトリガーのノックの音だ。


「予想通り過ぎて笑えてくるわねクソッタレ!」


 障壁で歓迎を受け止めながら、紅い髪の少女が毒づいた。

 開いた扉の向こう側、出迎えと来たのは通路を塞ぎ黒壁と並ぶ幽幻黒衣ブランクキャスト

 招かれざる来訪者へ向けてのクラッカーは、紙吹雪の代わりに鉛玉をまき散らし。


「想定通りの歓迎程、簡単に受け止められるものも無い」

「格好付けてないで防御手伝いなさいよ茜ちゃん!」

竜鳳寺鏡夜リュウホウジ・キョウヤだ。そして無論言われるまでも無くやっている」


 よく見れば幽幻黒衣ブランクキャストの壁は点滅するように瞬いている。鏡夜の鋼糸が削っているのだ。

 しかし黒壁が消える事は無く、弾幕の密度も変わらない。


「やっぱ無限ポップかよ! ああもう、解っちゃ居るけどめんどくさいわね! 熾遠シオン!」

「無理。転送の為の空間猶予が足りない。出現地点を潰したら。侵入そのものが不可能」


 ぐああー、と左手で紅髪を掻きむしりながら深紅ミアカが呻く。

 状況は完全なる硬直状態。銃弾の雨霰は動きを封じ、彼らの進軍を始めさせない。

 本来ならばこの程度の弾幕相手、ジャスティス&スカーレットには足止めにもならない筈。

 しかし彼らは動けない。その理由は誰の目にでも単純明白。


 ……私のせいだ。

 自分を守るために、彼らは足止めをされている。

 傷ついてこそ居ないけれど、自分が確実に足を引いている。

 ついていくと決めたのは自分なのに、守られているだけでいいのだろうかと思ってしまう。

 何も出来ないもどかしさ。

 顔を出しそうなメランコリィ。

 浮かんで来る不甲斐なさとマイナス感情が、頭を自然と下げさせて、


「気に病む。必要は。無いよ」


 見透かされたかのように、熾遠がフォローを入れて来た。


「そうだ。自分のせいだなどとは思うなよ時乃琉香。貴様の存在程度、僕達には何の足枷でも無い。人間一人を守護しきる等、星を砕くより億倍容易い」


「そーよ琉香ぴょん。人間やるのは出来る時にやりたい事。どっちも解ってないのに無理になんかやろうとするのは千尋の崖にヒモ無しダイブ。やりたきゃ命綱の一本でも持ってからよ」


「貴様が口に出来た言葉かそれは」


「あたしは飛べるから問題ないの」


 深紅はくすりと軽口一つ。その反応に、少しだけ重みを取り除かれた感覚を得た。

 琉香は俯いていた顔を上げ、

 その時。視界の右端に、異物の姿を発見した。


「深紅さん――後ろ!」


 叫ぶ。

 紅い髪の少女の真後ろ、不意打ち殺そうとするように、現出する幽幻黒衣ブランクキャストの姿がある。


「大丈夫。そっちの方も予想済みよ」


 その方向を見もせずに、深紅は軽く左手を振った。

 上下からの障壁による挟み込みが、幽幻黒衣ブランクキャストを圧殺する。


「防御に集中させてる隙に後ろから。在り来たりな発想ね。その程度の軽い悪意じゃ、あたしの予想は超えれない」


 彼らの周囲、空間の構成が変質していく。

 無重力の宇宙空間は有重力の白壁の部屋に。星々の灯りは天井の人工的な紫外線光に。

 そして周囲のそこかしこから、星を食らう闇のように沸き出す幽幻黒衣ブランクキャスト

 三百六十度殺意の視線を向けられながらも、深紅は少しも怯まずに、


「茜ちゃん、ちょっと突破手段思いついたから粘ってくれる?」


「愚問だな。背後は僕が引き受けよう。貴様は壁に専心していろ」


「オーケーオーライ言われるまでもないっていうか相変わらずムカつく言い方ね茜ちゃん。

 ――熾遠!」


「ん。任せて。最高の形。組み上げるから。一分耐えて」


 最低限の語句だけで以心伝心する彼らに、取り残された琉香は疑問符を浮かべ。


 しかし敵達は待ってくれない。

 現出しきった幽幻黒衣ブランクキャストは即座に起動を開始して、こちらへと矛先を向けてくる。


「――――!」


 爆発的な突撃で、都合十体の幽幻黒衣ブランクキャストが弾丸のように飛来する。


「捕まって居ろ時乃琉香!」


 強い力で引き寄せられて、琉香は鏡夜に抱きかかえられる。

 体温と筋肉の感触が伝わって来るが、それにどきどきするような余裕は無い。

 接近する幽幻黒衣は獣の如く。爪のような刃物が彼らを狙う。


「肉食獣気取りか木偶共め。愚かしさにも程がある」


 殺到の先、鏡夜はそれらを身を翻し見渡して、


「――狩人の前に死に絶えろ」


 同時。十体全て散華した。


「獲物絶滅させるのは狩人の行いとしてどうなのよ?」

「害獣駆除は正義の行いだ。問題など何処にも皆無い」

「生物多様性の重視が騒がれてるよな昨今よ? ただでさえ【大非在化ランダマイザ】で色んな生き物が絶滅してるって問題なのに」

「識るか。そんなことは物好きか愛好家と政府上層部が考えていれば善い事だろう。それより貴様は防御を続けろ。僕の助力無しでは困難か?」

「それこそまさかよ! 一分どころか一時間だってやったげるわよ」


 軽口を叩き合いながらも、鏡夜は動きを止めはしない。

 振り回される動きはまるで舞踊ダンス

 接近する相手をいなし、躱し、すれ違いざまに両断する。

 黒衣の散る音はさながら喝采か。止まない拍手が鳴り響く。


「カウント一〇! 切ったわよ!」

「大丈夫。形成完了。現空間完全展開まで後五秒。空間確保。お願い」

「OK、YES、My doll――そろそろ遊戯は終焉だ」


 右手の中指で眼鏡の山を押し上げて、正義の味方が叫びあげる。


「――【咎人と世界の境界断絶ジェイルロック・ワールドエンド】!」


 牢獄の檻が閉ざされるように、四方上下に張り巡らされた鋼糸が壁を作る。

 それは生者を通さぬ境界線。膨張する隔離空間が幽幻黒衣ブランクキャストを吹き飛ばす。


「んじゃ任せたわよ熾遠!」


 深紅の声に応えるように、熾遠が両目を見開いて告げる。


「【形成機構・現像転化ストラクチャ・マテリアライズ】――起動」


 彼女の掲げた右手の上、空気が揺らめき風が起きる。

 空間に現出するのは鉄板、螺子、ノズル、機械部品の様々パーツ。

 それらが音をたて組み合わさり、一つの形を創造する。

 大木を切り倒したような形状の円筒機械。

 流線型のロケット・ブースター。


「形成完了。――発射。するよ」


 そして宣言通りのことが起きた。

 耳をつんざく大音量と共に、巨大な鋼鉄が動き出す。

 深紅がそれに飛び乗り笑い、こちらに顔向け声を投げて、


「行くわよ琉香ぴょん!」

「へっ」


 体が引き摺られる感覚によって、琉香は己を縛る鋼糸に気付いた。

 浮遊感の後、後ろ向きにロケットの上に落下する。

 加速は一瞬。深紅の障壁をクラッシュし、鉄塊は黒扉の中へと突撃を果たす。

 数百枚の紙束を突き破るような音を立てながら、幽幻黒衣ブランクキャストを轢殺していく。


「あわわわわわわわわわわわっわわわわわわーーーーーーーーー!!!!!!???」


 高速に遠ざかる背後を見ながら、時乃琉香は狂乱に叫ぶ。


「あっはっはっはっは! 邪魔者がリポップして通り抜けられないと言うのなら、大質量で押しつぶしながら一緒に通過すればいい! どうよこのあたしの天才的発想は琉香ぴょん!」


「答え得る様な状況に無いと思うのだがな」


「気絶。してないだけ。凄いよね」


 轟音に掠れてそんな会話が背後から聞こえて来るが、それに抗議を申す気力も無い。

 遠離っていく視界の先、轢き潰された幽幻黒衣ブランクキャストが再度の出現を始めだす。

 銃弾の雨の降雨確率一〇〇%。ロケットの撃墜を狙っている。


「熾遠、レディ!」


「ん。空間転送。高速展開」


 ブロックパズルを落とすように、モノリスが連続して積み重なる。

 暴力的な音を立てながら、急造の隔壁が通路を封鎖する。


「あははははははははは! やっぱこれだわ! この高速の蹂躙劇こそあたし達の平常運行、追走禁止並走禁止、このまま疾り抜けなさい終着地まで!」


 後ろを振り返ると視界の中央、ステップ&ターンする深紅が見える。

 そしてそれ以外にも見える物があった。


「深紅さん、鏡夜さん、曲がり角、壁、壁、壁ぇぇ!」

「無論。感知しているに決まっているだろう」


 言うや否や、ジャスティス&スカーレットはロケットを捨てて跳躍する。

 取り残された琉香は声にならない悲鳴をもう一度。

 直進する鉄塊は激突し、内圧を周囲にぶちまける。

 慣性のままに琉香は飛び、しかし爆発に巻き込まれる寸前で強引に軌道を変えられ、深紅の腕の中に着地した。


「し、ばっ、し、死ぬかと! 死ぬかと!」

「あはは、人間そんな簡単に死ねないわよ。あたし達に関わるような奴は特にね」

「死なないし。死なせない」

「いいこと言ってるようで死なせないだけって意味ですよね!」

「命さえ無事なら何でも出来るってダイジョブダイジョブ」

「私達が守るから、って命だけはって意味だったんです!?」

「僕達の最優先事項は依頼の完遂と依頼者の生命保護だ」

「精神衛生保護は二の次ですか!?」

「それどころか三四が飛んでそして五の次?」


 苦情を叫ぼうとしたが、琉香のボキャブラリーの中に彼らを適切に罵れる語は無かった。


「次のトラップ。来るよ」


 熾遠の声に向く前方、研究所のシンプルな白い壁に、滲み出るような黒いシミがある。

 それは見る間に拡大し、そこから蟲肢のようにマニュレピーターが出現しだす。

 総数は二桁では納まらない。数百の蠢く機械の触手。

 それらの先端には一様に、同じ銃器が装備されていた。


「実弾の次は熱線銃? 格好付けたマイナーチェンジしやがって」


 深紅はそれを睨みつけ、不敵な口元で嘲笑する。


「競争しましょう茜ちゃん。無論本気の賭けありで」

「一体何をベットする気だ」

「今日の晩飯一食分」

「乗った」


 銃口がこちらを向いた瞬間、彼らは同時に駆け出した。

 一歩目から速度はトップギア。照準さえも翻弄するスピードで、白い廊下を突き進む。

 遅れて放たれた熱線は彼らの速度に追いつけず、背後で交差し十字を描く。

 任務を遂行出来なかった事を理解した銃口達は、即座に標的を捕え直そうと蠢く。


「だが然し――遅い」


 そんな事など許すまいと、正義の味方の鋼糸が奔る。

 疾風が花弁を散らすように、熱線銃が落ちて爆ぜていく。


「ところで破壊を僕に押し付けていないか貴様」

「こっちは琉香ぴょん抱えてんだからそのぐらいハンデでいいでしょ?」

「やっぱり私そういう扱いなんですか!?」

「僕の足を引かないならば問題皆無い。寧ろ存分に深紅の足を引け」

「酷い事を言うのね、ねー琉香ぴょん?」

「先に酷い事言ったのはどっちですかー!?」


 抗議の声を叫んだ琉香だが、直後に上げた首を下へと向けて、


「あれ、琉香ぴょんひょっとして酔った?」

「い、いぇ、大ジョブです」

「いやどうみてもグロッキーよその表情」


 顔色青くなってるわよー、と言う深紅の声に、琉香は自分の頬に手を当てた。


「向こうの学習予測精度を狂わせる為にわざと速度変化させて走ってるかんね。敏感だと結構キツいか」

「…………」

「何よ琉香ぴょん、その考えながら行動してたんだ……と驚くような視線は」

「…………」

「何よ茜ちゃん、そのなんか言いたそうな視線は」

「貴様に言う事など何も皆無い」


 あっそ、と一言返答し、深紅は前へと顔を戻す。


 彼らの疾駆の向かう先、廊下の奥に異常が生じていた。

 黄色と黒の警戒色でKEEPOUTたちいりきんしと記されたそれは、侵入者封じのパネルシャッター。

 金属がぶつかり合う音を立てながら、鉄壁が断頭刃のように降りていく。


「理論式を。感知。破壊不能進入禁止の特性が。付与されているね」


 何時の間にか追いついて来ていた熾遠が、分析結果を口にする。

 理論式。物体に本来持たない特性を与える為の幻思技術。

 その意味する所は単純明快。これより先には進軍するなと、ここの主は告げている。


「ん……こりゃちょっと面倒くさいことになりそうね」


 軽い事のように深紅が呟くが、それが指す意味の重大さを、後ろを見る琉香は知っていた。

 背後。熱線銃の残骸を踏みつぶすようにして迫る物がある。

 回転しながら進む円筒。刃のついたシールド・マシン。トンネルを作る掘削機械が、人体をミンチにしようと進撃してくる。


「ししししし死ぬ! 死ぬ! あんなの巻き込まれたら死んじゃいます!」

「あーはーはー、慌てててもいい事無いわよ琉香ぴょん。――落ち着け」

「むぐぐっ」


 口元を塞がれながら、琉香は不安を心に抱く。

 鏡夜の主武器である鋼糸は、縛る事によって切断を為す。故に鋼糸を隙間すら無く塞がれてしまった後ならば隔壁を突破するのには使えない。同様に背後から迫るシールドマシンを砕く事も無理だと思っていいだろう。


 ならば深紅の障壁でなら迫る円筒を防げるかと期待してみるも、


「ごめん流石に力加え続けられるものはちょっと難しいかしら」


 心を読んだように、即座に答えが帰って来た。


「弾幕や砲弾ぐらいなら行けるけど、あのサイズじゃちょっとしか保たないわね」

「ちょっとってどのぐらいなんです!?」

「うーん、十秒行かない? あのサイズ押さえてるとあたしの方も動けなくなるし」

「絶望的だー!?」


 思わず叫ぶ。

 前方にあるのは完全不落の絶対鉄壁。

 後方から迫るのは粉砕を権能とする回転刃。

 琉香が導きだせる結論は、絶命必死に他ならない。


「絶望? 絶望ね? 何処にそんなものがあると言うのかしら!」


 希望を捨てていないどころか、絶望など見えていないような顔をして深紅は言う。

 陰りなんて無い、曇りなんて何処にも無い、彼女の輝きは変わらない。


「熾遠、パス!」

「わああああぁぁあ?」


 片手で琉香をスローイング。

 身軽になった彼女は手を振って、眼前へと迫った隔壁へ単身素手で突撃していく。

 まさか、強引に、力技で突破しようとでも言うつもりなのか。


「ぐおっしゃらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そしてそのまさかが来た。

 深紅は跳びながら体を捻り、右腕を引いて全力打撃の構えで挑む。

 隔壁には破壊不能の理論式が刻まれている。物理的手段による破壊は不可能。

 幾らジャスティス&スカーレットと言えども、その法則には逆らえない。

 だが。そもそも。


「逆らう必要なんて、何処にも無いのよね!」


 拳と隔壁が激突する。

 鉄壁に亀裂は刻まれなかった。ほんの少しの損傷も無かった。

 幻思論の時代において、理論は物理法則を凌駕した絶対の法則だ。

 設定された理論は電卓が一足す一を答えるように、過つことなく責務を果たした。


 しかし崩壊は訪れる。

 隔壁の、では無い。

 隔壁の横の壁の方に亀裂が入り、隔壁を構成するパネルが後方へと押し出されていく。


 臨界までの時間は一瞬。

 鉄壁はその形を保ったままに奥へと吹き飛び、深紅の体がそれを追うように転がり出る。

 それに続いて鏡夜が通過し、ほんの一瞬だけ遅れるように熾遠と琉香が同時に抜ける。


 直後、彼らのすぐ傍を、殺戮の円筒形が通過した。

 停止する事なく抜けたそれは、直線のままに部屋をつっきって、対面の壁に衝突する。

 そして爆発。

 熱波に顔を覆いながら、琉香は深紅の高笑いを聞いた。


「あはははははは、ざっとこんなモンよ!」


 その姿に感化されるように、琉香はやっと生きた心地を回復する。

 彼らの手際は無茶苦茶で、しかしそれでいて暴力的に華麗であって。

 即座に解決デンジャラス。

 危うげ無くもスリリング。

 だけどやることの怖さから、安心感だけは絶対皆無。


「ここは……」


 落ち着いて余裕ができたので、琉香は周囲を見回した。

 三〇メートル四方の巨大な空間だ。自分の知る物では体育館ぐらいの広さだろうか。金属で出来た壁にはバスケットゴールの代わりにクレーンやリフトなどの工作機械が備え付けられている。


「巨大機械の整備室か。熾遠。この研究所の管轄範疇で該当するモノをリストアップ」

「既に。把握済み」


 情報窓が開く。鏡夜はそこに流れる固有名詞の数々を目で追いかけようとして、しかしすぐさま首を振った。


「済まない。どうやら必要無くなった」


 その理由を、他の二人も気付いていた。

 彼らの視線を追いかけて、琉香もそれを理解する。


「ボスキャラクターのお出ましってワケかしら?」


 整備室の空間を割り砕くように、巨大な人型機械が現出していた。



【NeXT】

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