第23話異変

 荒野に吹く風は生温く不気味な雰囲気を醸し出していた、太陽は黒雲に遮られ光を失い、吹き抜ける風の音はオレたちを嘲笑うように聞こえる。


「なんか不気味ですね。嫌な予感がします」


「やめろって! それフラグだから」


「フラグ? 旗ですか?」


 やはり知らないか…こちらの言葉は理解できるのにオレの世界の言葉は理解されていない、どういう原理なのだろうか?………まぁーいくら考えようと答えは分からないが。


「まぁーいいでしょう。それより、クエストの方を終わらせませんか?」


「そうだな。面倒なことは速く終わらせた方がいいんだろ、それにリクトの成長が速かったのは嬉しい誤算だ」


 そう言えばクエストとしてフロックス荒野に来ていたのだった、すっかり忘れていた。あまりにもリーズとの訓練が厳しすぎて。


「本当にそうですね。教えることが少なくてガッカリでしたよ。出来なければ罰則をと思ったんですが」


 リーズは恐ろしいことを笑顔で言っている、あっぶね! 出来なかったらさらに辛い思いが!? ………あれより辛いとか死んだ方がいいと思えるほどじゃないのか?

 アイリスは突然顔を風上の方へ向ける。


「血の匂いがします!」


「血の匂い? どういうことじゃ!? 獣か」


「獣臭くはないので人間のものだと思われます」


 どうやら荒野に吹く風は血の匂いを運んできたようだ、人間だと分かるとやはり助けに行きたいがオレの我が儘で皆を振り回していいのだろうか。


「私は助けに行きたい!

 我が儘は言わん! 皆の意見を聞こう」


「我が主の望みとあらば」


「わ、私も助けに行きたいです」


 良かった皆の考えていることは一緒だったようだ、オレの我が儘かと思えば杞憂だったらしい。


「よし、助けに行こう!」


 オレたちは風上に向かって走る。

 リーズとの訓練の成果が出ているのか走るスピードはかなり速くなっていた。

 今の速さだと車と並走できるかもしれないくらいの速度は出ている、オレってこんなに速いのか。

 すぐレベルが上がるから実感がないが本来の速さはこれなのだろう、だがオレの隣にはミラが小走りくらいの感覚で並走してくる。

 アイリスはオレのスピードについてこられないようだリーズにおんぶしてもらっている。

 そしてアイリスをおんぶしているリーズでさえ余裕でオレについてくる。


「魔力の循環がうまくなったな」


「えぇ。完璧とまではいきませんが………中々の出来です」


 確かに体から溢れるような力をうまく制御できるようになった、だがオレは全力で走っているのにミラとリーズは余裕でついてきているが………なんか力の差を見せつけられているみたいで、テンション下がる。


「あれじゃないか?」


 一本の黒い煙が立ち上っている、さらに近付くと人らしき影と大きな物の影がぶつかり合っているものが見える。


「ミラ! 先に行ってくれ」


 ミラはさらに速くなり、人らしき影にさらに近付く。

 ミラが走った後の地面はクレーターができ地形が変わってしまった。

 うっわぁーすっげ……バケモンかよ! あんなに可愛い顔して身体能力どんだけだよ………。

 オレはミラを追いかけるようにスピードを上げる、近付くことにより影がしっかりしてきて人間達が3人見えてきた。

 1人は両手剣を盾のように使い後ろの仲間を守っている、もう1人は修道院の服をきていて仲間に魔法を使いサポートしている。

 最後の1人は二人にサポートしてもらいながら魔法の詠唱をしている。

 だが全員の装備はボロボロになっており体から血が出ている、特に酷いのは前衛の両手剣の男だ立っていることが不思議なくらいに傷だらけになっている。


「リーズとアイリスもミラについていってくれ」


「分かりました」


 リーズもミラと同様に軽くオレを追い越し人間達に近付く、アイリスを背負っているのにも関わらずあんなに、はえーのかよ! ………オレってもしかしたら弱い。

 訓練の時は手加減をしていたって言ってたけどここまでとは思わなかった、オレってまだまだ弱いな………頑張ろ。

 1人になってしまったがオレは最高速度で走り前衛の男の近付く。

 戦っていた魔物達はミラとリーズが相手してくれている。


「大丈夫か!」


「だ、誰か…知らねぇが………後ろの仲間を」


 男は言葉を言い終わる前にその場に倒れてしまった、大きな物の影は体長三メートルはある大きな鉄の人形だった。

 それ太い腕で殴られたが最後、体の骨など簡単に折れてしまうだろう。


「おいおい、こいつがアイアンゴーレムかよ。まったく勝てる気がしねぇ」


 《グ…………ゴゴ…ギ…ゴ》


 アイアンゴーレムは先程から戦っていたはずなのに体に傷はなく表面が削れているぐらいだった。

 やべぇー全部避けないと一撃死ぬかも。

 オレは少しでも力の差を無くすために魔眼、ステイタス、能力閲覧の能力を使う。



 《個体名:アイアンゴーレム(ダンジョン守護者)

 魔物ランク S

 注意点、鉄でできている体は非常に硬く、魔力の帯びていない攻撃をすると全てが無効化される、また魔法防御力にも優れている

 個体によって能力が異なる

 さらにその鋼鉄の体は加工すると有能な武器になるため価値が高い



 獲得可能能力 地魔法 大地魔法 鉱物魔法 鋼鉄化 打撃最強化 自動HP回復 自動MP回復 魔法攻撃力強化 状態異常無効 斬撃耐性 切断耐性 打撃無効  》


 ステイタス平均値 1000~1200


 なんだこれ! ステイタス平均バケモンじゃねぇーか、こんなのと戦ってよく生きてたなあの男、生命力強すぎだろ。

 それに能力がどれがいいのか分からないな、リーズと戦った時は魔法がかなり使えたからレパートリーを増やして闘いに柔軟に対応出来るようにしておきたい。

 それに鋼鉄化も防御として欲しい、だけど打撃最強化も魅力的だ

 う~ん………どうしよう。

 オレの戦闘で打撃を使うことはないからいいだろう、やはり魔法にするか! 問題は地魔法、大地魔法、鉱物魔法のどれにするかだ。

 う~ん今回は大地魔法にしておこう。

 鉱物魔法はどんなものか分からないから却下だ、地魔法と大地魔法なら大地魔法のなら大地魔法の方が上位だろう………たぶん。


 《ワレ…マモリシモノ……テキ………ハイジョスル》


 今までこちらの様子をうかがっていたアイアンゴーレムは太い腕をオレに向けて物凄い速さで振り下ろす、

 いきなりの攻撃に驚きつつも後ろへ飛び避ける、さらに距離をとっておく。

 降り下ろされた拳が地面に当たり大きなクレーターを作る、飛んだ土の破片が肩に当たってしまう。

 リーズとの訓練でステイタスが使えるようになっていなかったたら何も出来ずに殺されていただろう。

 ヤバい、リーズの魔法より威力がある、肩の骨が砕けた感覚があった、たった飛んだ土の破片だけで………本体が当たってしまうとどうなることやら………。



「マジかよ! チートじゃねぇーか!!」


 《グ……ゴ…ゴ》


 アイアンゴーレムは攻撃が当たらなかったのが悔しかったのか地面を何度も殴っていた。


 おいおいクレーターを量産すんなよ! まったく、子どもみたいな奴だな。


 クレーターを量産していたアイアンゴーレムはこちらを向き走ってくる。

 鋼鉄の巨体が迫ってくる、太い腕を振り回しオレを殺そうと躍起になっている。


「あんな、体して速すぎだろぉーーーー」


 オレはアイアンゴーレムから走って逃げるがアイアンゴーレムの方が速く元々あった差はどんどん縮められていく。

 とうとうアイアンゴーレムとの差がなくなり鋼鉄の拳を降り下ろす刹那に左へ飛び避ける。

 降り下ろされた拳の風圧だけでオレの体は吹き飛ばされる。


「おいおい、マジかよ。勝てねぇ~わ……どうしよう」


 ヤバいな勝てる気がしねぇ、逃げることも出来ないし、ホントに死ぬかもしれない。

 魔法で牽制するぐらいしかやることがないか。


「ファイアーボール」


 小さな火の玉はアイアンゴーレムに当たり消失する、アイアンゴーレムの表面は熱されて微かに赤くなっている。

 うっわ~無理だ………くっそ! こうなりゃ、やけくそだ。


「フレイムボール、フレイムランス」


 オレはアイアンゴーレムの攻撃をギリギリで避けながら魔法で攻撃する、2つの火の魔法はアイアンゴーレムに当たり消失する。


 やっぱりダメか、どうしたらいいんだ、もう打つ手ねぇ…ん?

 そう言えば大地魔法があったな! ………使ってみるか。


 オレは戦いの最中に能力、ステイタス閲覧を使い大地魔法に必要な魔法名を見てみる。



 名前 ミヤマ リクト


 称号 魔眼保持者、牛殺し


 レベル 44→49


 HP 1096

 MP 1329/1534


 ATK 673(+60)

 DEF 695

 INT 627

 RES 649

 HIT 638

 SPD 806


 個体名:三山 利久人

 種族:ハーフヴァンパイア

 種族能力:恐怖支配 B 殺気凶悪化 B

 身体能力増加 A 憎悪倍加 B


 個体能力:斬撃耐性 C 打撃耐性 B→A

 短刀術 A 切断耐性 B 剣術 E


 解放能力:魔法多重起動、魔力操作


 魔物能力 ドレインタッチ 水流操作 剛力 聴覚鋭敏 糸操作

 糸強化 毒付与 毒生成 糸生成 麻痺毒付与

 自動MP回復 悪魔召還


 マジックアイテム能力 ステイタス閲覧 能力閲覧


 行使可能魔法

 初級 火炎魔法(ファイヤーボール、火種生成など)

 中級 火炎魔法(フレイムボール、フレイムサークル、フレイムランス)

 中級 回復魔法(傷の治療、毒の治療)


 所持魔眼:魔眼名リーディングアイ

 効果、視認した物質の名称、事柄を読み取る、魔法の本質を見抜き、解読、理解


 上位能力:理解者

 理解した物体、魔物の特徴やスキルをコピーすることができる(一つの物体からは一つだけ、魔物のスキルも同様で一つだけ) 


 獲得能力 大地魔法(地魔法の上位版、使用可能魔法一覧、アースアロー、アースソード、アースランス、アースバインド、アースウォール)》


 おぉーさすがS級魔物だな。使える魔法の量まですげーや………よし! 試し撃ちだ。


「アースアロー」


 地面にあった砂が浮き上がりオレの頭上で砂が集まり固まっていく。


「おぉーすっげぇーこれは使えそうだな」


 砂の矢はオレの頭上でゆったりと浮いている、どうやらオレの意思で動くようだ。

 オレは砂の矢に意識を集中させアイアンゴーレムへ向けて発射する。

 物凄い速さで飛んでいく砂の矢はアイアンゴーレムに突き刺さる。


 《ガ…グ………ゴ?》


 アイアンゴーレムは己の鋼鉄の装甲が破られたことが信じられないといった感じて砂の矢が刺さった肩を見ている。


 よっしゃ! 大地魔法なら通じるぞ。


「アースバインド」


 アイアンゴーレムの足元から砂が集まり始め鎖を形成しアイアンゴーレムの動きを封じる。


 やっと己がピンチに陥っていたことを理解したのかなんとかアースバインドから抜け出そうと暴れ始める、アイアンゴーレムの怪力に砂の鎖が壊れそうになる。


「アースバインド、アースバインド、アースウォール」


 さらに鎖で動きを封じて周りを砂の壁で覆わせた、これで逃げることが不可能となった。

 よっしゃーS級の魔物相手に頑張ったぁー、オレは膝をつき天を仰ぎながらガッツポーズをした。


「よっしゃーーーーあとは倒すだけだぁー」


 さぁーどうしてやるかなぁー、壁の内側にアースアローで串刺し? それともフレイムボールで焼く? どうしてやろっかなぁー。オレはアースウォールの周りをスキップする、よし! アースランスで串刺しにするか。


「アースランス」


 オレは脳内で壁の向こうに槍をだしアイアンゴーレムを突き刺す

 次第にアースウォールの中で音はしなくなり辺りいったいは静寂が包んだ、勝ったぁーそういえばミラ達は?


「おぉ~さすがだな! しかしいつ大地魔法なんぞ覚えた?」


 いきなり後ろからミラの声が聞こえてビックリしてしまった。


「あっあぁーそれは初めてこいつを見たときからだよ。コイツが使えた魔法をコピーした」


「本当に便利な能力だな。それに使ったこともない魔法をよく実戦で使おうと思ったな」


 ミラはアースウォールを指でツンツンしながら言ってくる。


「まぁー勝てるか分かんないからやってみたら成功した」


「お、おう! そうか。それよりお主のレベルが上がったんじゃないのか?」


 確かにあれだけ強い魔物を倒したんだレベルが上がっているはずだ確かめておこう




 名前 ミヤマ リクト


 称号 魔眼保持者、牛殺し


 レベル 49→52


 HP 1096→1281

 MP 1534→1643


 ATK 673(+60)→721

 DEF 695→782

 INT 627→683

 RES 649→719

 HIT 638→693

 SPD 806→895


 個体名:三山 利久人

 種族:ハーフヴァンパイア

 種族能力:恐怖支配 B 殺気凶悪化 B

 身体能力増加 A 憎悪倍加 B


 個体能力:斬撃耐性 C 打撃耐性 B→A

 短刀術 A 切断耐性 B 剣術 E


 解放能力:魔法多重起動、魔力操作


 魔物能力 ドレインタッチ 水流操作 剛力 聴覚鋭敏 糸操作

 糸強化 毒付与 毒生成 糸生成 麻痺毒付与

 自動MP回復 悪魔召還


 マジックアイテム能力 ステイタス閲覧 能力閲覧


 行使可能魔法

 初級 火炎魔法(ファイヤーボール、火種生成など)

 中級 火炎魔法(フレイムボール、フレイムサークル、フレイムランス)

 中級 回復魔法(傷の治療、毒の治療)


 所持魔眼:魔眼名リーディングアイ

 効果、視認した物質の名称、事柄を読み取る、魔法の本質を見抜き、解読、理解


 上位能力:理解者

 理解した物体、魔物の特徴やスキルをコピーすることができる(一つの物体からは一つだけ、魔物のスキルも同様で一つだけ) 


 獲得能力 大地魔法(地魔法の上位版、使用可能魔法一覧、アースアロー、アースソード、アースランス、アースバインド、アースウォール)》


 ステイタスを見終わると同時に体が激しい痛みに襲われる、体内で骨は溶け、筋肉は断絶し、神経は溶けていき、眼球は溶けていく感覚がする。

 今まで感じたことのない痛みに耐えられずその場に崩れ落ちる。


「グ……グァアアアアァー」


 ミラが心配そうに近付いて何かを言っているがわからなかった、それ以前に目が開けられないほど激痛だった。

 まるで体が作り替えられているようだった。


「大丈夫か! どうした? リクト」


 ミラの心配そうな顔と声に少し癒された。


「わ、分からない。体が急に激痛に襲われた」


「激痛? まさか! 種族進化じゃ?」


 ミラはオレの肩を揺さぶってくる、進化? なにそれ!? 初耳なんだが?

 さらに痛みは激しくなり耐えられずその場に倒れてしまう。

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