第22話本当の悪夢

 フロックス荒野に転移して初めての夜があける。

 夜は非常に温度が下がり眠るのに苦労したがミラが亜空間魔法でしまっていたと思われるマジックアイテムをとりだし辺りの温度をあげてくれる。

 オレのマジックバッグも同じ原理のようだがやはり魔法を使うのとアイテムを使うとなると魔法の方が有用らしい。

 肌寒くもなく快適に眠ることができる幸せは素晴らしかった、野外で寝ているにも関わらず虫に刺されることもなく、快眠できる。


 オレはリーズによって快適な睡眠から目覚める。


「起きてください。リクトさん、訓練の時間ですよ」


 オレは快眠をしたが寝た時間で言うと五時間くらいだろう、寝始めたのが夕方なのにもはや太陽が出ていた。夜の時間帯少ないな。


「まだ、眠いんだけど…」


「訓練ですよ! 甘えないでください。早く起きないと訓練の量を倍にしますよ」


 敬語ではあるが声にこもる感情は優しい物ではなかった、それに、倍……。


「倍は勘弁してくれ」


 オレは飛び起きるように起き眠たい目をこする、ゆっくりと固まった体をほぐしていく。

 周りを見るとアイリスの可愛い寝顔がある、寝るときも感情によって尻尾が動くようだ………可愛いな。

 あれ? ミラがいないぞ。


「あれ、ミラは?」


「ミラ様は川に行き魚をとってくると言っておりました」


 リーズはオレの後ろへと指差すが川など見当たらない、見当たらないほど遠くに川があるんだろか? それならちゃんとお礼を言わないとな。


「そうか、ミラはオレの知らないところで頑張ってくれてるんだな」


「えぇーミラ様は本来、休息をあまり必要としない体なのですがリクト様に気を使わせまいとわざわざリクト様が寝るまで寝たふりをするのですよ。フフフ

 あっでも、私が言ったというのは内緒ですよ」


 リーズは口に手を当てて小さく笑うその顔は普段落ち着いている、リーズからは想像できない程の子供っぽい笑みを浮かべる。

 グレーの髪の毛を小さく揺らしながら笑う姿に見とれそうになってしまう。


「じゃ、じゃー訓練を始めるか」


「えぇーそうですね。対人戦闘訓練にしますか? それとも魔獣戦闘訓練にしますか?」


 う、う~んどっちがいいんだろうか………対人だとリーズと戦うことになるのだろう。

 魔獣だと探すところからか。

 これからオレはどっちと戦うことが多くなるんだろうか? まぁーなんでもいいや。


「どっちの方がいいとおもう?」


「そう……ですね………やはり対人戦闘訓練ですかね」


「じゃーそれで」


 オレはこの後悪夢を見ることになるとは思わなかった………。


 よし! やるか!

 リーズはたぶん強いけど何とか食らい付いてやる。


「では私と模擬戦闘をしますか。リクト様は回復魔法が使えましたよね?」


「あ、あぁ使えるが、それがどうした?」


 リーズは含みのある笑みを浮かべる。


「ではまずハンデをつけますか。お望みはありますか?」


 ハンデだと………女相手にハンデもらうとか男の恥だ! ………だけど実際リーズの方が強いんだよなー。

 ハンデなんていらないと言いたいんだが俺って弱いし、強がってもいいことはないだろう。


「じゃー剣は使わないでくれ」


 リーズの持っている剣はかなり切れ味が良さそうだしリーズが使うとさらに凶悪なものに変わるだろう。

 模擬戦闘のつもりで切ったら上半身と下半身が離ればなれになったりしたら悲惨だ、それにあの含みのある笑みが怖かった。


「分かりました。魔法は使ってもいいんですか?」


 魔法かぁーリーズが使っている、属性も知りたいし使い方を学べたら儲け物だし臨機応変な戦いかたをしたいからどんなことにも対処できるようにしておきたい。


「あぁーかまわない」


「そうですか。では移動しますか」


 リーズとオレは30分程歩きアイリスから離れる、模擬とはいえ戦闘をするのだから巻き込まれないようにしないと。


「では行きますよ。準備はいいですか?」


「あ、あぁー」


 オレは身体強化、剛力、聴覚鋭敏化、などの戦闘に使えそうな物をすべて使っておく、魔力循環がしっかりできているからか消費する魔力は少なく済んでいる。


「準備は終わりましたか? あっでも、本当の戦いでは準備するのを待ってくれませんからね………ではやりましょうか」


 リーズは片手を前にだし、かかってこいと言わんばかりに挑発してくる。

 オレはリーズの隙を探すため注意深く観察する、リーズは普通に立っているだけなのだが一切の隙はなく近付けば確実にやられてしまうだろう。

 隙がないならば作るしかない、まずはファイアーボールで目眩ましだ。


「ファイアーボール」


 ファイアーボール1個だけだと目眩ましとして機能しないだろう、オレは手の上に集めるはずの魔力を頭上に集めてファイアーボールへと変換する。

 小さな炎の玉が6個出現すると同時に全てのファイアーボールをリーズへと向け発射する。

 ファイアーボールの速度はかなり早く常人では対処できない速度まで加速する。


「素晴らしいです。魔法の多重発動とは才能があるようですね」


 リーズは6個のファイアーボールをまるで踊るように避けていく、6個のファイアーボールを軽くあしらうリーズになかば諦めつつも次の策に移る。


「フレイムボール、フレイムランス」


 2つの種類の魔法を使うことで変化をつけ少しでも考えさせ見えないところからの攻撃に気付かせない策に移る。

 ファイアーボールの2倍程の大きさのフレイムボールが3つ、160センチ程の炎の槍が2つ頭上に作る。

 もうひとつのフレイムランスはオレで隠すように作る、オレはフレイムボールを発射しそのあとを走って追いかける。

 追いかける途中オレは頭上に作っておいたフレイムランスを2本手に持ち武器として使う。

 やってみて、分かったが自分の魔力で作られた炎ならば触れても全く熱くなかった。


「魔法がダメだと分かると特攻ですか。はぁー

 感心したと思えば、がっかりです」


 リーズはオレの行動がただの特攻だと勘違いしているようだ………思惑どおりだ。

 オレは感ずかれないようにそのまま走り近付く、リーズとの距離が近くなると同時にフレイムボールの速度を上げリーズの意識をフレイムボールに集中させる。


「速度自体は悪くありませんが使い方が素人です、それに格上の相手に向かって特攻など愚行ですよ」


 リーズはファイアボール同様フレイムボールを避けていく、フレイムボールへの陽動はあまり成功しなかったが俺には炎の槍がある。

 オレは片方の槍をフレイムボールを避けて空中にいるリーズに向かって全力で投げる。

 予想外の攻撃だったのかリーズは一瞬焦ったが不自然な動きでフレイムランスを左へ飛び避ける。

 空中にいたはずのリーズの体は何かに押されたかのように左へと流れた………くそ、いけると思ったのに。


「ほー自滅覚悟の特攻かと思えば、なかなかいいタイミングで槍を使うのですね。意表を突かれましたよ」


 そんなことを言いつつ簡単に避けているくせに! オレは片手に持っているフレイムランスを突き出し攻撃する。


「ウインドスマッシュ」


 オレが突き出したフレイムランスは横からの風の塊によって砕かれ消失する。


「なっっ!」


「甘いですよ。攻撃ばかりで防御が甘いです ウインドブロー」


 突然、腕にハンマーで殴られたかのような衝撃が走る、オレの腕の骨は折れ激しい痛みがオレを襲う。

 かなりの衝撃でオレは左へと突き飛ばされる、恐らくウインドブローと言われる魔法のせいだろう。

 ………だがオレの後ろにあったフレイムランスをリーズへと向けて発射する。

 苦し紛れの魔法だったからか、集中出来ていなかったなのかは分からないがリーズの頬を霞め遥か遠くへと飛んでいく。


「手加減していたとはいえお見事です。ステイタスもしっかり使えてますし対人戦闘の才能がありますね。」


 あれだけ軽くあしらっておいてよく言うよ、まったく………少し自信を無くしたぞ。


「そんなこと言ってかなり余裕だったろ。もう少し何とかなるかと思っていたのに」


「いえいえ、かなりいい線いってましたよ。策を考えるのが上手いですね。最初のフレイムボールを囮に槍を飛ばすのはかなり有効な手になると思いますよ。それに攻撃されて体勢が崩れた時に油断した相手に魔法での奇襲は見事でした」


 リーズはオレの作戦を正確に理解し評価を言ってくれる。


「攻めの練習の後は防御の練習をしますか!

 頑張ってくださいね、ウインドブロー、ウインドスマッシュ」


 リーズは風の魔法を詠唱する、リーズの周りには風が吹き始め地面砂を巻き上げる。

 リーズのグレーの髪の毛が風とともに揺れる、オレはリーズの周りを漂う魔力量を見て恐怖した。

 見たこともないような量の魔力が吹き出しており恐ろしい雰囲気へと変わる。


「や、やめてくれ」


 オレの懇願虚しくリーズから放たれる魔法に抵抗できずやられてしまう、風の魔法は目で見ることもできずに激しい衝撃によってオレの意識は簡単に刈り取られる。

 そして、無理やりに意識を戻され………気絶させられ………戻され………気絶させられ………その繰り返しだ。


 ………………………………………………


「起きてください。まだまだ訓練は続きますよ」


 オレの意識は風魔法によって強制的に起こされる

 激しい風がオレの顔へ当たる


「ん、んあ? ここはどこだ?」


「フロックス荒野ですよ」


 リーズはオレの顔を覗き込んでいる、そうか、フロックス荒野か。

 オレはリーズにぶっ飛ばされて意識を失ったんだったな。


「さすがに今日はもう良いじゃろ」


 どうやらオレが意識を失っている間にミラが戻ってきたようだ、ミラは焚き火で川魚を焼きながらオレのとこをフォローしてくれる。


「そうだ、今日はもうやめてくれ、オレはもうあんな痛い思いはしたくない」


 オレの体はリーズによって怪我だらけになっていた、腕の骨、肋骨、左の足の骨が折れていた。

 オレは折れた骨を回復魔法で治していく、魔法を使うと痛み自体は引くが骨が治るには時間がかかりそうだ。

 こんな怪我までして強くなっているのか? ステイタスを上手く使えるようになったがそれ以外は特に実感はない。

 よし! 確めてみるか オレは自分に向けてステイタス、能力閲覧を使う。



 名前 ミヤマ リクト


 称号 魔眼保持者、牛殺し


 レベル 44→49


 HP 952→1096

 MP 1367→1534


 ATK 568(+60)→673

 DEF 585→695

 INT 534→627

 RES 553→649

 HIT 541→638

 SPD 692→806


 個体名:三山 利久人

 種族:ハーフヴァンパイア

 種族能力:恐怖支配 B 殺気凶悪化 B

 身体能力増加 A 憎悪倍加 B


 個体能力:斬撃耐性 C 打撃耐性 B→A

 短刀術 A 切断耐性 B 剣術 E


 魔物能力 ドレインタッチ 水流操作 剛力 聴覚鋭敏 糸操作

 糸強化 毒付与 毒生成 糸生成 麻痺毒付与


 マジックアイテム能力 ステイタス閲覧 能力閲覧


 行使可能魔法

 初級 火炎魔法(ファイヤーボール、火種生成など)

 中級 火炎魔法(フレイムボール、フレイムサークル、フレイムランス)

 中級 回復魔法(傷の治療、毒の治療)


 所持魔眼:魔眼名リーディングアイ

 効果、視認した物質の名称、事柄を読み取る、魔法の本質を見抜き、解読、理解


 上位能力:理解者

 理解した物体、魔物の特徴やスキルをコピーすることができる(一つの物体からは一つだけ、魔物のスキルも同様で一つだけ) 


 獲得能力 悪魔召喚(悪魔族を召喚することができる。また召喚した悪魔族と契約すると使役することも可能)

 自動MP回復(自動でMPを回復する能力)

 魔力操作(己の中にある魔力を操ることができる)

 魔法多重起動(魔法を複数同時に使用できる)》


 ん? いきなり久しぶりに見たらかなり強くなってるな。

 チートスキルばっか増えてるし………。

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