9-2 港からの見送り

 家から飛び出したラヴェリテを探しにミカエラと執事のアディは、港の高台に来ていた。

 高台には人が集まって湾の方を指差して何か言っている。

「何かあったの?」

 ミカエラは人だかりの中で望遠鏡で様子を見ている一人に尋ねた。

「湾内で海軍の船がどこかの船を追い回してたんだ」

「海軍の船が?」

「海軍が追うんだから海賊じゃないかな」

 ミカエラは察しがついた。

 追われているのは、きっとコーレッジの船……ミラン号だ!

「それで追われてた船は、どうなったるの?」

「湾の北側に寄せて逃げてたら、追いかけてきた海軍船が座礁したようだ。北側は突起した岩場が多すぎるからな。きっと海軍の船長は知らなかったんだろう。逃げてた船はそのまま反転してるみたいだ。海軍船は多分、動けそうもないな」

「そう……」

「気になるのは、逃げてる船が旋回するときに傍にいたボートを波で巻き込んだことだな。乗ってたヤツは大丈夫かなぁ」

「ボート? ごめんなさい。ちょっと貸してくれる?」

「おい!」

 ミカエラは、横にいた男の望遠鏡を奪い取った。

 望遠鏡で覗き見ると転覆したボートから放り出された人をミラン号から飛び込んだ誰かが救助されている。それは見覚えのある服だった。

「ラヴェリテ……?」

「な、なんですって!」

 アディは泡を吹いて倒れそうな程、動揺した。

「大丈夫よ、アディさん。ミラン号に救助されたわ」

「あわわ……お嬢様……私がしっかりついていれば……」

 ミラン号は、ラヴェリテを救助した後、湾の外に向かって再び動き出した。

「お嬢様、どうぞ、ご無事でいらっしゃってください」

 アディは泣きそうな顔で祈った。

「大丈夫よ、アディさん。一緒にいる連中は意外と頼りになるもの」

「そうだといいんですが……」

  

 ラヴェリテ……コーレッジ……

 無事に戻ってきてね。


 もはや見送ることしたできなかったミカエラは、二人の無事を祈った。




 湾内で座礁したデュプレクス号の甲板では、スウィヴィ少佐は悔しげにミラン号を眺めていた。

「くそっ、ミラン号め!」

 スウィヴィ少佐は、吐き捨てるように言った。

「艦長、船体に損傷はありませんでした」

 船体状況を確認し終わった下士官が報告に来た。

「無理に動かして船体をこれ以上、傷つけたくない。操舵を固定したまま、潮が満ちるまで待とう」

「してやられましたね。さすが元ラングドッグ号の乗組員ということでしょうか」

「うむ……あるいは、さすがにローヤルティ船長の娘といたところかな」

「セルメント・ローヤルティ艦長の娘がミラン号の指揮を? ご冗談を。海にも出たこともない子供ですよ」

「だがな、セルメント・ローヤルティ中佐の娘だ」

「そんな……ありえませんよ」

 だが、スウィヴィ少佐の顔は真顔だった。

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