ミラン号、幽霊船退治に出航する!

9-1 ラヴェリテの気持ち

「拾い上げたぞ! 錨あげ! 帆を張れ! いそげ! いそげ!」

 ラヴェリテを背負ってコーレッジが船に戻ると船上が慌ただしくなった。

「まったく、無茶しやがって」

 甲板に助け上げられたラヴェリテに毛布がかけられた。

「だって……だって……」

「わかったから、もう泣くな」

 コーレッジはラヴェリテの頭を優しく撫でた。

「このバカ! なんで船長を置いて船が出航するのだ!」

 ラヴェリテは、ミラン号の甲板で泣きじゃくりながら船長である自分を置き去りにした事を抗議した。

「いや、それはだな……」

「ラヴェリテ船長、コーレッジも俺たちも船長に危険な目にあってほしくなかったんだよ」

 ジョルドゥが温かい紅茶を注いで持ってきた。

「でも傍から見れば、これって反乱だよね、はは……」

「ばかもん! 私は反乱とか、そんな事に怒っているのではない!」

 ラヴェリテは、腕を振り回して言う。

「私たちは仲間じゃないか! 私だけ、置いていくな! ジョルドゥは、私の事が嫌いなのか?」

「いや、嫌いだなんて……ラヴェリテは好きだよ。家柄も良いのに俺たちの事、見下さないし」

「コーレッジも、私の事が嫌いか?」

「ん……お前はいい船長だと思うし、いいヤツだ。嫌いになる理由はないよ」

 コーレッジは頭を掻きながらそう言った。

「でも、謝らなくっちゃならない」

「なんだ?」

「俺たちは……ラングドッグ号の乗組員の俺たちは、幽霊船に仕返しをしたかった。でも海軍は動くつもりはないと知ったんだ。だから、どうやって幽霊船に仕返しようか方法を酒場に集まって相談していたんだ。そこへ、オマエがやって来て船員募集を始めた。幽霊船の出没する海に行くってね。で、思いついた。船を乗っ取って俺達の復讐に使おうって」

「そうだったのか……」

「さすがに船もないのに船員の募集をしてるとは思わなかったけどな」

 ラヴェリテは、うつむきながら口を開いた。

「そんなの分かってた……」

「えっ?」

「だってそうだろ? 私みたいな子供の言うことをお前たち、素直に聞きすぎだろう?」

「ま、確かに……そうだな」

 ラヴェリテは掛けられていた毛布を放り出した。

「ちょ、ちょっとラヴェリテ」

 ジョルドゥが慌てて毛布を掛けなおそうとしたがラヴェリテは、それを振り切って樽の上に這い上がった。

「みんなは私の事が嫌いか? この船にいらない人間なのか?」

「そんなことはないよ、船長」

 船員の中の誰かが言った。

「私が非力なのはわかってる。船長なのに、みんなと違って海にも出たことないし、背も小さい。でもミラン号のみんなは、私のことそれでも船長と呼んでくれるし、親切だ! みんな私を助けてくれるのにはすごく嬉しいし、ここまで連れてきてくれたのにもすごく感謝している。私はそんな、皆と一緒にいたいんだ。私も一緒に幽霊船と戦いたいんだ!」

 船員たちは顔を見合わす。

「だから……だから……一緒に私を連れて行ってくれ!」

 ミラン号の甲板が静まり返った。

「お願い……」

 ラヴェリテは頭を下げた。

「任せな! 船長!」

 沈黙していた中、誰かが声を上げた。

「そうだぜ! 俺達がいれば大丈夫だ!」

「一緒に幽霊船をやっつけようぜ!」

 次々と声が上がった。

「みんな……」

 ラヴェリテは、涙を流しながらも笑い出す。


「俺たちの船長は最高だな」

 ルッティはそう言ってコーレッジの肩に手を回した。

「……ああ、そうだな」

「よーし、みんな! おまちかねの船長が帰ってきたぞ!」

 ルッティが乗組員たちに叫んだ。

 その一言に続いて一斉に歓声が上がった。

「よーし! まだ追ってきた駆逐艦が動けないうちに湾から出るぞ!」

 ラヴェリテがキョトンとした顔でコーレッジを見つめる。

「追ってきた駆逐艦って? 副長、何があったのだ?」

「い、いや……いろいろと海軍と誤解があってだな……」

「追ってきてるのは、あれか?」

 ラヴェリテは座礁したデュプレックス号を指差した。

「見たところ海軍の駆逐艦のようだが……なにやら問題が起きてるようだな。大丈夫だろうか?」

 ラヴェリテのことだから、駆逐艦を助けるなどと言い出しかねない。そう思ったコーレッジは、慌てて言い訳を取り繕うとする。

「助けはいらないと信号が送られてきた。だ、だいじょうぶだろ? それに潮がもう少し満ちれば、すぐ抜けられるはずだ」

「そうか。ならいいが。困っているなら助けてやろうと思っていたのに」

 や、やっぱりか!

「そ、それより、船長。いろいろあったが、これで本当に出航準備完了ってわけだ」

 ラヴェリテは、疑ったような目でコーレッジを睨む。完全に疑われているようだ。

「号令をかけてくれよ」

「え?」

「みんなに命令するんだよ」

「何か恥ずかしいな……」

「今更か!」

「ねえ、なんて言えばいいのかな?」

「そ、そうだな……”錨を上げろ。スイングワット島に進路を取れ”かな? 後は自分のアレンジで」

「わ、わかった!」

 コーレッジはラヴェリテの背中をポンと叩いた。

「よし……おほん」

 ラヴェリテは咳払いをした。

「みんな聞け! ミラン号の船長、ラヴェリテ・ローヤルティが戻ってきた!」

 ラヴェリテの言葉に歓声が湧いた。

「戦いの準備は整った! 今よりヴォークラン船長の幽霊船討伐に向かう! 勇気のある者は私に付いてこい!」

 さらにミラン号での歓声が盛り上がる。ノリノリなラヴェリテにコーレッジは呆気に取られた。

「さあ! 錨を上げよ! スイングワット島に進路を取れ!」

 ミラン号の盛り上がりが最高潮を迎えた。

「錨をあげろ! 進路はスイングワット島!」

 コーレッジが復唱する。

 錨を上げたミラン号が再び進み始めた。

「まったく、やればできんじゃねえかよ」

 コーレッジは、そう言ってラヴェリテの頭をくしゃくしゃにした。

「わっ、や、やめろ! 副長!」

 

 こうしてミラン号は、暁の海に乗り出していった。

 ヴォークラン船長の幽霊船を倒しに。

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