22.嵐の前の、僅かな静けさ <2>
「……レン君、それホント?」
「ええ、ホントです、イルさん。この短いのを1G、長いのを10Gだとすると、本来落とすはずのゴールドの半分くらいしか落としてない」
「なるほど、だんだん見えてきたわ……つまり、2体倒してようやく1体分になるってことね」
「おい、アンナリーナ。真面目な口調で当たり前のこと言っても、頭良く見えないからな」
「ちぇっ、バレたか」
一瞬でバレるっての。
「ってことはレンリッキ、魔王がゴールドを下げてきてるってことか? 前にやってたように?」
何だよ、ここに来て魔法の重ねがけか?
「その可能性はありますけど……シーギスさん、前みたいに、少し道を戻って他のモンスターで確かめてみましょう」
「おう、行くぞ!」
そして、イステニオ村の領域まで戻る。ここのゴールドは石なんだよな。
「お、ジャンピングバッファローがいる! 俺が斬るぞ!」
4つ足で器用に跳ねながら体当たりしてくる敵をかわして、がら空きになった背中を斬りつける。弱点を狙われたバッファローはすぐに弾け、ゴトゴトと大量の石を落とした。
そして、拾ったレンリッキは、今度は焦りに満ちた声をあげる。
「あ、あれ、おかしいな。今度は多いぞ?」
「は?」
「多い?」
さっきは少なかったのに?
ってことはゴールドを下げる魔法は使われてないってことか?
「レンちゃん、どういうこと? ゴールドがランダムになったってこと?」
「あ、いや、えっと、その……」
「落ち着いて考えていいんだぞ、レンリッキ」
お前が慌てて正しい答えが出たことないからな。
「あの、えっとですね、とにかく間違いないことは、何かがおかしいってことです!」
「なんて雑な結論!」
息巻いて断言するようなことでも!
「レン君、とにかく一度、ドラりんに連絡しましょう」
「ああ、アイツの出番だ」
声霊石でドラフシェに繋ぐと、非常に忙しない挨拶が石を揺らして光らせた。
「なんだ、シーギスルンド。こっちは今、悠長に話してる余裕はないぞ。申し訳ないが、お前に毒も吐いてやれない。らしくなくてすまないな」
「貴女らしさって一体何なんですか!」
存在意義を毒に見出すなよ!
「忙しいってことは、そっちにも連絡いってるのかな。ゴールドがおかしいんだ」
「ああ、お前達のように声霊石で各所のパーティーから経済省に連絡が来ている。ただ、その報告もまちまちなんだ。落とすゴールドが増えた、という話もあれば、下がったという声も聞く。一体どうなっているのか、省としても判断できない状態だ」
「ドラフシェさん、多分その人達の言ってること、全部間違ってません」
レンリッキが、持っていた声霊石を口元に近づけた。
「僕達、ミエガとイステニオ、2つの地域で敵を倒したんですけど、ゴールドが多かったり少なかったり、一定じゃないんです」
「なるほど……」
ドラフシェは、こちらにもしっかり聞こえる程の大きさで深呼吸をした。
「レンリッキ、お前はこの状況をどう見る?」
「なんとも言えませんね……。単純に考えるなら、『魔王の魔法で、落とすゴールドがランダムになった』ってことでしょうけど……もう少し調べてみようと思います」
「よろしく頼むぞ。今回の件は、ちょっと私達だけでは手に負えなそうだからな」
通信が切れた。4人全員で黙り込む。
ゴールドが増えるなら良い、今度は儲け目的でアイテムを大量に買ったりしない。
ゴールドが減るのも良い。なんとか食い繋いで、好機を待つのみだ。
でも、一番怖いのは、何が起こってるか分からないこと。足元を掬われないように、ちゃんと確かめるしかない。
「お前ら、モンスター何体か倒して、今回の魔法を突き止めるぞ」
「うん!」
「はい!」
かくして、モンスターを倒して魔法の正体を見破る実験が始まった。
「おおっ、こういうときはお前が一番分かりやすくて、いいなっ!」
こんな魔王に近いイステニオの草原でも現れるスライム。落とした石は、小さいの5つ。
「5G……これで3体連続ですね」
「ってことは、ランダムってことはなさそうね」
レンリッキが紙にペンを走らせている横で頷くイルグレット。通常が3Gと考えると、この村のモンスターが多くのゴールドを落とすのは間違いないようだ。
「よし、じゃあシーギスさん、このままハクエン村まで戻って、スライムを倒しましょう。で、最後にミエガ村まで行って、そこでもスライムを倒す。そうすれば、何か見えてくると思います」
「分かった! よし、また少し歩くぞ!」
まずはハクエン村。ここのスライムは、長い1本の銅製の棒を落とした。今となっては少し懐かしさすら感じる。
「10G……ここも金額が違う……」
そしてミエガに戻る。村と村の距離が近くて良かった。
「たまには私が仕留めるわ。腕が
イルグレットが射抜いたスライムがパンッと弾け、短い1本の紐を落とす。
「1Gか。ミエガ村はやっぱり少ないですね……」
「同じモンスターでも、村ごとに落とす金額を変える魔法ってことかな? この村では高めに、この村では低めに、みたいな」
「ううん、シーギス、それはないと思う」
いつになく真面目な声で、左隣の魔法使いが返す。
「村単位で落とすゴールドの形態を操作して、さらにモンスターの落とす金額自体も変えるなんて、さすがにいくら魔力があってもできないと思う。モンスターの種類も多いし、コントロールしなきゃいけないことがありすぎるもの」
彼女のその言葉を聞いて、レンリッキは「そうか、そういうことか……」と呟いた。何か発見したようだけど、そこに嬉しさは感じられない。
「恐ろしい魔王ですね、ホント」
乾いた笑いをする彼に、イルグレットが「レン君、教えて」とゆっくり訊いた。
「ハクエンもイステニオもミエガも、どこのスライムも3G落としてたんです」
「えっ、でも落としたゴールドが全然――」
「違っていたのはゴールドの価値です。棒1本、石1つ、紐1本、それぞれが同じ金額じゃないんです」
まだ状況は飲み込めていないけど、ただの勘だけど、その魔法はかつてないほどの混乱を呼ぶ気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます