23.ヤツらが来る前に <1>

「同じ金額じゃない……? どういうことだ?」

 俺の問いに、アンナリーナが肩をポンポンと叩く。


「シーギス、棒と石と紐、それぞれの金額が違うってことよ」

「それさっきレンリッキが言ってたヤツじゃん!」

 お前もよく分かってないだろ!


「例えばミエガ村だと、短い紐1本でしたよね? あれで3Gってことです。つまりミエガ村では、短いの1本が3Gなんです。でもハクエン村では長い棒1本だった。長いの1本が3Gなんです」

「なるほど、スライムの落とすゴールドを基準にすると、1本や1個のゴールドの違いが明確になるわね」


 イルグレットの方を向き、レンリッキは大きく2回頷いた。


「じゃあ、私も召喚獣で確かめてみないと」

「それは後でいいから!」

 なんでいちいち敵のいないタイミングで呼ぶんだよ!


「大体、俺達も事情よく分かってないのに、召喚獣もゴールドで混乱するだろ?」

「大丈夫よ。あの子達とは仲良いから、いざとなったら多分タダでも来てくれるわ」

「じゃあ今までの召喚代、返してもらってもいいですかね!」

 そんな曖昧なルールだなんて知らなかったものですから!



「とにかく、一刻も早くドラフシェさんに知らせましょう」


 話を聞いたドラフシェは、その場に倒れこんでしまいそうな弱々しい声をあげた。


「馬鹿な……なんてことを……村ごとに価値を変えただと…………」

「やっぱり、大問題なのか?」


「いや、正直すぐに想像できる範疇を超えている。ただ1つだけ確かなのは、速やかにこのことを通達しないと村がおかしくなるということが。例えば、ハクエン村は長い棒1本で3Gだと言っていたな? でも見かけ上は今まで通り10Gに見える」


 そう。パッと見は、スライムを倒して10G落としたのと全く一緒だ。


「ハクエンの村人がそれで浮かれたら、またアイテムを買い漁って破算するヤツが出るかもしれない」


 横にいたアイテムマスターが付け加える。

「逆もあるってことですよね。ミエガ村とかは、スライムを倒しても1Gしか落としてないように見える」


「ああ、レンリッキ達が始めに経験したのと一緒さ。ゴールドがなくて閉店する店が続出だ」


 村ごとに違う地獄絵図。

 ゴールドがコインからゴロゴロ変わってただでさえ貨幣で疲弊してるのに、ここでもう一波乱あったら、本当に村自体の存続に関わる。


「もうダメだ……私の手には負えない……無理だ……私になんて……」


 声がどんどん小さくなるドラフシェ。なんなら少し卑屈になっている。こんな弱気なの初めて見たな。


「私はやっぱりシーギスルンドの幼馴染だからな……同レベルだったということだ」

「なんで俺も一緒に巻き込んでイジけるの!」

 意外と元気なんじゃないですか!


「ドラりん、大丈夫よ。シー君だって頑張って生きてるわ。何やるかは分かってるんでしょう?」

「……ああ、レート換算表を作って通達すればいい。各村にいるパーティーから話を聞いて、木の実1つ、小瓶1つ、棒1本がそれぞれ何Gなのかを把握すれば、どの村でも計算はできる……」

「ドラちゃんなら出来る! シーギスだってしぶとく生きてるんだから、ドラちゃんにも出来るわよ!」


 なんか彼女を励ますために俺が引き合いに出されてるけど、気のせいか褒められてる気がしない。


「…………分かった。イジけてても何が変わるわけでもないしな。省の人間として、私も全力で動くよ」

 いつも通り、何か動きがあればすぐに連絡してくれ、と言い残して彼女は通信を切った。




「さて、そろそろ暗くなってきたし、今日はもうミエガ村の宿屋に泊まりましょう」

「そうだな。一晩寝て、気分切り換えようぜ」


 そして宿屋のおばさんに、ムダだとは思いつつも、精一杯説明してみた。


「あのですね、おばさん。しっかり聞いて下さいね。この短い紐、1Gに見えるじゃないですか。でも、実はこれが3Gなんです」

「アンタ、勇者だってのに何を寝ぼけたこと言ってるんだい。この短い紐は1Gだよ。経済省からもお達しが出てただろ?」


 ……まあ、そうなりますよね。


「いや、いずれ経済省からも連絡が来るんですけどね。とにかく、これを3Gとしてもらわないと、今後この村近くで落ちるゴールドが3分の1に――」

「分かった分かった。でもアタシにとっちゃ、今もらうゴールドの方が大事なんだ。4人で320Gだよ」

「……払えるけど、ちょっと手持ちが不安なんで何体か倒してきます」


 見かけ上の320G稼ぐためには1000G分くらい倒さないといけないんだろう。


 買おうと思ってる武具代の4万Gなんて、途方もない話だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る