22.嵐の前の、僅かな静けさ <1>
「あ、シーギスさん、ドラフシェさんから連絡です」
声霊石をポケットから取り出し、俺に手渡す。
「どうした、何か経済省の方で動きあったか?」
「ああ。全ての村のゴールドがどんな形態か、調査が完了した。今、どの村でどのゴールドでも使えるようにする方向で進めてる」
「ありがとう、ドラちゃん!」
アンナリーナは「これで次の村に進めるわね!」と意気込んでいる。
「そうだな。今はイステニオ村だけで使える石のゴールドを持ってるだろう? もうしばらくしたら先々の村でも使えるようになるから、次のミエガ村に進んでしまって大丈夫だからな」
「分かった、ありがとな、ドラフシェ」
お礼を言うと、彼女は「いやいや、気にするな」と返す。
「むしろこっちも助かる。実際、一連の魔法のせいで多くのパーティーが魔王討伐を挫折している。借金をしたり、新しいゴールドへの切り替えがうまく出来なかったりしてな。だから現場の情報をもらえるだけで十分ありがたい」
「それこそ、気にするな、だ。俺達は魔王を倒すために進んでるだけだしな」
「ありがとうな、レンリッキもアンナリーナもイルグレットも、誰とは言わないが勇者の面倒見るのは大変だろう」
「完全に言ってるよ!」
褒めて! 俺も褒めて!
「ドラちゃん、さすが!」
「ホントね、さすがだわ、ドラりん。ずっとシー君のこと褒めてるから、貶めないのかと思った」
「いいんだよそんなこと期待しなくて!」
貶めなきゃいけないルール無いですから!
「あ、ほら、ミエガ村見えてきましたよ! あそこ」
「やっぱり村の距離近いといいわね、野宿しないで済むし」
歩いて疲れた体をほぐすように、イルグレットが伸びをした。
すぐに石のゴールドが使えるようになるということで、俺達は早々にイステニオ村を出て、ミエガに向かった。
それにしても、半日かからずにもう村の門や建物が見えている。本当に村が密集してるんだなあ。
「あ、ちょっと待って。見つけたっ!」
アンナリーナが少し先の木に向けて両手を
「コウモリみたいなのがいたから、多分モンスターだと思って」
「多分、シャインバットですね。夜行性じゃなくて昼に活動するコウモリです」
「そっかそっか、ありがとな!」
4人で木の下に駆け寄ると、そこには真っ白で相当頑丈そうな紐が数本落ちていた。もちろん、長いもの、短いものが混じって。
「ここのゴールドは紐ってことね」
「うはは、もうこんなことじゃ驚かないよ、俺は。魔王のこの魔法も、カラクリが分かると単純だな」
「……そうですね」
「どした、レンリッキ?」
「いえ、なんでもないです。行きましょう」
考え込むような仕草をすぐにやめ、彼は紐をリュックにしまった。
「さて、みんな、始めにどこ見るか、決まってるわよね?」
村に入ってすぐ、イルグレットの質問に、残りの3人はニッと笑う。
「そりゃあ」
「やっぱり」
「もちろん」
そして、全員で声を合わせた。
「武具屋!」
そう、ここミエガ村は、相当レベルの高い武器・防具が確実に売っている村として名高い。
この先々の村にはもっと強い武具を作れる鍛冶屋がいるという話もあるが、材料が無かったり先約がいたりして間違いなく手に入るとは言いがたい状況らしい。それならば、ここで買ってしまった方が安心・安全というものだ。
「いらっしゃい! 良いの入ってるよ!」
武具屋に入ると、立派なひげのおじさんが歓迎してくれた。
「うわ、これが
「シー君、こっちの覇王の弓もカッコいいわよ」
2人で、飾られた武器をウットリと見つめる。夢幻の剣……フォルムも、柄のデザインも、鞘に刻まれた読めない文字すらもカッコいい。
「でもさすがに結構な値段するわね……」
「ああ……ゴールドのないヤツは魔王を倒す資格なし、って感じだな……」
剣が9000G、弓が7000G。おいそれと払える額ではない。
「シーギスさん、防具も『賢者の服』が欲しいところですけど、1着6000Gです」
4着買うと、武器と合計して4万G。今持っているのはせいぜい2000G程度で、道のりは果てしなく遠い。
「まあ最悪、シーギスは今の防具でいいと思うだけど、3着はほしいわよね」
「アンナリーナ様、その選択肢は最悪過ぎやしませんんか」
1人だけ、しかもリーダーが極端に守りが弱い状態で魔王と対峙することになりますが。
「そうだ! 3着買ったら、アタシ達が今着てる防具要らなくなるじゃない? それ重ね着すれば?」
「だからそれで防御力は上がらないの!」
寒いけど重ね着すればオッケーみたいな仕組みじゃないの!
「さて、この調子で4万G目指して稼ぐぞ!」
武具屋を出てすぐに草原に戻り、全員で「エイエイオー!」と意気込んでモンスターを倒していく。
敵がパンッと弾けて消えるたびにハラハラと落ちていく紐。それを回収するレンリッキ。
だが、数回戦った後、レンリッキが「おかしいな……」と呟いた。
「どうしたの、レンちゃん。さっきも何か考えてたよね?」
アンナリーナには視線を遣らず、「ええ……」と相槌を打つ。
「僕の記憶が正しければ……落とすゴールドが少なすぎます」
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