6.そしてゴールド争奪戦が始まるのだ <1>
「ちょっと待て、なんで2Gしかないんだ?」
どこかに飛んでいったなんて可能性は考えにくい。
「シーギス、アタシ思うんだけど、ひょっとして魂が1G持っていったんじゃない?」
「まだその説諦めてなかったんだ!」
懐かしいなおい!
「今までのデビルドッグはみんな3G落としてましたよね。ってことは考えられるのは……」
「だよな……」
レンリッキと顔を見合わせ、大きくため息をつく。そして、声霊石でドラフシェに繋いだ。
「悪いな、ドラフシェ。今忙しいか?」
「いや、大丈夫だよ。どうした? 勇者を諦めて宿屋のシーツを干すだけの仕事にでも就く気になったのか」
「だからなんでいつも諦めてる前提なんだよ! あとなんでいつも仕事が細切れなんだよ!」
せめてシーツ洗うところからやらせてくれ! いや違う、宿屋そのものをやらせてくれ!
「もっと面倒な話だ。多分、モンスターが落とすゴールドが下がってる」
「……何だって?」
急に声を低くして相槌を打つ。事態の重要度が分かったらしい。
「今まで3G落としてたデビルドッグが2Gしか落とさなくなった」
「そんなことが……」
「ドラりん、イルグレットだけど。あの、今までの報告では、同じモンスターなら地域が別でも落とすゴールドは同額だったかしら?」
「あ、ああ、そうだな」
動揺しながら頷くドラフシェ。
「だったら多分、目覚めた魔王の力が少しずつ強まっていて、魔法の効果がどんどん上がってるんだと思う」
「なるほど、同じ炎の魔法でも、魔力が強まれば火の粉が火柱になる……」
さすがイルグレット、鋭い考察。アンナリーナも「イルちゃん、すごい!」と肩をパンパン叩いている。いや、お前も魔法使いなんだから閃いてくれよ。
「とにかく、報告ありがとう、助かるよ。みんな、ゴールドに翻弄されて大変だと思うけど一刻も早く魔王を倒してほしい」
俺とアンナリーナで「任せて!」と気力に満ちた返事をして、通信を切った。
「さてと、ゴールドが更に減ったとなると、もう少し強いモンスターが出る場所まで移動しないと稼げないな。レンリッキ、次の村はステップトンだっけ?」
「そうですね。今の僕達ならあの辺りのモンスターでも何とか倒せると思うんで、少しずつ村に近づいていきましょう」
そういって、草原を東に歩き出す。また何日かかけて移動だな。
「ねえ、あれ、中古の武具商じゃない?」
しばらく歩いたところで、アンナリーナが指を差す。少し遠く、木々が生い茂る林のようになっている場所で、痩せて無精ひげを生やした高齢のおじさんが、刀や防具を載せた荷車を引いていた。
「結構多いわよね。儲かるのかしら」
「シー君、勇者諦めたときにはああいう仕事もいいんじゃないかしら」
「パーティーメンバーにまで言われた!」
その諦めキャラ設定は今すぐやめてください!
「行ってみよう。また掘り出しものがあるかもしれないぞ」
おじさんが木陰に荷車を停め、緑の敷物を地面に敷いて、武具を並べ始めた。また転売で儲けられるかもしれない。そしたら鋼の剣もあっという間だ。そんな期待を胸に彼のもとに走り始めた、そのとき。
「すみませーん! その商品見せてくださーいっ!」
おじさんの横、俺達よりずっと近くから、1つのパーティーが同じように彼に近づき、商品を手に取り始めた。
「ねえ、レン君、あれって……」
「……イルさんの思ってる通りだと思いますよ」
「同じこと考えてるヤツらね! シー君、走るよっ!」
「おうっ!」
そこから一気に加速して、後方の荷車まで破壊するかの勢いでダッシュする。
俺達が来てることに感づいたのか、品物を見ていたパーティーメンバーも、ババッと全ての商品を眺めた後、投げつけるようにゴールドを払い、脱兎のごとくその場から離れた。
「はあっ、はあっ、お、おじさん……、しょ、商品を……」
二足も三足も遅れて到着。盛大に息切れしながら、レンリッキが物色する。
「大したものないな……おじさん、さっきの人達、何買ってった?」
「ああ、赤い鎌と、水色っぽい羽衣だな」
それを聞いて、ガックリと肩を落とすレンリッキ。
「地獄の鎌と雨露の羽衣か……どっちもレアアイテムだ」
クソッ、みんな考えることは一緒か。
「ハイッ、アタシ、良い作戦を思いつきました!」
小声で俺達に耳打ちしてくるアンナリーナ。
嗚呼、君よ。なぜそう、性懲りもなく、迷案を抱えて立ち向かってくるのか。
「おじさん、アタシ達、中古屋を周ってるんだけどね。知り合いで、この近くで売ってる人いない?」
「おおっ、なんか本当にナイス提案じゃないか!」
俺の褒め言葉に、振り返らず「うっさい」と言うかのように手をサッサッと振る。
「それだったら、ワシの友人がこの辺りにいるぞい」
ポケットに入れていたクシャクシャの地図を広げ、おじさんが少し震える指で幾つかの場所を示してくれた。
「ありがとう! よし、シーギス、レンちゃん、イルちゃん、行く――きゃあっ! 何このイヤリング、かわいいっ!」
先頭を切ろうとしていた彼女の目が、小箱に入った草っぽいアクセサリーに釘付けになる。
「そりゃあ、『薬草のイヤリング』ってヤツだ。今なら20Gだよ。つけた人には、常に薬草を飲んでるのと同じ効果があるとか……………………ないとか……」
「ねえ、聞いた、レンちゃん! つけてるだけでずっと薬草飲んでる状態になるんだって!」
「いや、ならないと思います」
そんなアイテムがあるわけないだろ。あとそんな可愛くないような気が。
「あの、アンナさん、早く行きましょうよ」
「ちょっと待ってて! ううん、デザインも可愛いし、買うか悩むなあ。病気で臥してるおばあちゃんからもらったお小遣いを使うか否か……」
「絶対使うのここじゃないと思う!」
「ここもダメか……さっきすれ違ったパーティーが持ってたの、レアな武器だったもんな……」
あのおじさんから教えてもらった最後の中古屋で、レンリッキが目を瞑って首を何往復も振る。
「残念だったわね、レン君……」
「仕方ないわ、レンちゃん。別の稼ぎ方考えましょ!」
「お前が薬草のイヤリング迷ってたからなのっ!」
しかも結局買ってないしね!
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