5.こんな薬草はイヤだ <2>
「この村も他のパーティーメンバーが増えてきたわね」
次の日の朝。村を歩いている人が数日前に比べて格段に多くなってることにアンナリーナが驚く。
「僕達みたいに、中古のレアアイテムを転売したりして一気にゴールドを稼いだわけじゃないパーティーも、コツコツとモンスターを倒して武具を揃えてシアゾット村に来たってことですね」
レンリッキが村を見渡しながら返事をする。せっかく先行してたんだ、俺達もまた先にこの村を出たいもんだな。
「あ、武具屋もう1回見に行っていいかな」
「いいけど、シー君、早く村出たいからって盗んだりしないでね」
「俺を何だと思ってんだ!」
この国を救おうとしてる者なんですけど!
「おはようございます」
「はい、いらっしゃい!」
立派なひげのおじさんが剣を磨いていた。オーゼ村のおじさんは顎ひげだけだったけど、ここのおじさんは口の周りにもモジャモジャのひげがある。
「君たちはラッキーだよ、今日から値下げしたんだ」
「えっ! ついに武具も!」
レンリッキがいつもより大きな声を出しながら目を丸くした。
「道具屋でも値下げするって言ってたからなあ」
そうか、いよいよ宿屋だけじゃなく――ん?
「あーっ! 銅の剣が200Gで売られてる!」
俺250Gで買ったのに! 50G返せ!
「あ、じゃあシーギス、アタシ良いこと考えた」
ハイッハイッと手を挙げるアンナリーナ。お前の良いことが良いことだった試しがないけどな。
「銅の剣売っちゃいなよ。で、200Gで買い直せばお得じゃん」
「何の得になるのそれが!」
案の定の提案にツッコミながら、目ぼしい商品の金額だけレンリッキに控えてもらってお店を出る。
「俺が欲しいと思ってた鋼の剣も、1600Gから1300Gまで下がってた。買いやすくはなったな」
「私、あの弓気になったわ。1回に2本の矢を放てるってヤツ。あれも値下げしてたわね」
俺とイルグレットの話に、レンリッキが複雑な表情を見せる。
「でも、中古の買い取り価格も大分下げるみたいですよ。そもそも買い手がいなくて新品を値下げしてる状態だから仕方ないんでしょうけど、レアアイテムの転売作戦はあまり効かなくなりそうですね」
ここも寄らせて下さい、と彼に言われて道具屋に入る。店内に「全品値下げ!」と貼り紙が出ていた。
「すごいわね、薬草も12Gから9Gになってるわ……すごい、6Gのものもある」
イルグレットが棚に置いてある草の束を軽くポンと投げた。
「お兄さん、これ、6Gの薬草も品質は変わらないの? そのまま値下げしたら赤字じゃない?」
彼女は薬草を持ったまま、店員のお兄ちゃんに向き直って尋ねる。
「あ、うん、変わらない……と思う」
「何その明らかに歯切れの悪い答え!」
アイテムマスターが叫ぶ。うん、怖いんですけど。
「あの、薬草、治りが悪くなったりしてないよね? 品質変わらないなら、俺買おうと思うけど」
ずいっとカウンターに近づくと、お兄さんは目線を逸らした。
「だ、大丈夫! 今回はいつのも業者じゃなくて別の安く売ってくれる人から買ったんだけど問題ないはずだよ! 『コレハ フツウの ヤクソウとチガウ ハデに トリップ デキル』って言ってたから!」
「それ薬草じゃないんじゃない!」
カタコトだし! あとトリップってなんだトリップって! 何の草なんだよ!
「お嬢さん、サモナーだろ? この薬草、召喚獣にも結構キくらしい。ハイになれるんだってさ」
「もらうわ!」
「もらうな!」
どんな効果なの! 回復なの、快楽なの!
「よしっ、またゴールドを貯めて、武器や道具買おう。俺は鋼の剣がほしい」
なんとなくアイテムの金額感が掴めたところで、モンスターの出る草原に戻ってきた。いつもより多い雲が、時折太陽を隠して遊んでいる。
「アタシ、新しい防具ほしいな。今のワンピースみたいなヤツじゃなくて、もっと魔法使いらしい絹とローブとかがいい」
アンナリーナが両手でグッとガッツポーズする。防御魔法のかかった花柄のワンピースは、動くと少し汗が出るくらいの穏やかな今の気候には合ってる気がした。
「シーギスさん、何か来ました」
足4本がバタバタと動く音が聞こえた。
「よしっ、早速1匹! って3Gか」
俺達の匂いを嗅ぎつけてか、デビルドッグが1匹駆けてきた。
7G落とすはずが今や3G。まあ、大分経験も積んで一撃で倒せるようになったし、3Gだってないよりは良い。
「うおりゃああ!」
走りながら抜刀し、胴の剣を下から上に振り上げる。胴体を真っ二つに斬り上げ、空中で駄犬の体はパンッと弾けて消えた。
「さてと、もう少し先に進んで、ゴールド稼ぎした方が――」
3Gを拾おうとした手が止まる。前にも、こんな光景があったような。
3枚あるはずの銀色のコインが、2枚しかなかった。
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