6.そしてゴールド争奪戦が始まるのだ <2>

「ううん、ステップトンに近づきながら、地道にゴールド稼ぐか」

「シーギスさん、そのことなんですけど」

 レンリッキがリュックから丸めた地図を取り出して広げる。


「鋼の剣や、イルさんが言ってた連射できるデュアルアローは、ステップトン村でも買えるんです」

 さすがアイテムマスター。売ってる店も覚えてるんだな。


「でですね、ステップトン村の近くのこの辺り! ここにゴールドゴーレムが出現すると言われてます!」

「ゴールドゴーレム! 体が金で出来た! 通常でも350Gも落とすという!」

 多少ゴールドが減ってたとしても、何体か倒せば鋼の剣が一気に近づく!


「そこでウロウロして、地中から出てくるのを待てばいいってことね」

 日の光を吸った金髪を後ろに払いながら、イルグレットが微笑む。

「じゃあ、行ってみましょう! 僕が道案内します!」




「……どのパーティーにも知恵袋はいるもんだ」

 レンリッキが張り切って案内してくれて、あっという間の数日間。

 草がわずかに生えるばかりの、茶色い大地。奥には切り立った崖が見える。

 この寂しい地に、魔王討伐パーティーが20人、いや、30人は集まってウロウロしていた。


「ねえ、シーギス。もし複数のパーティーで戦って倒した場合、ゴールドは誰のものになるの?」

「一応、暗黙の了解で、とどめの一撃を与えた人ってことになってるな」


「と、とにかく、僕達も出るまで待ちましょう。えっと、今の持ち金は、と。イルさん、預けてるゴールド、一旦もらってもいいですか」

 レンリッキは、何かあったときのためにゴールドの一部を最年長のイルグレットに預けている。


 と、彼の言葉に、イルグレットは脊髄反射のように手をパンッと合わせた。


「ごめんねレン君! 召喚獣呼んだから、少し減ってるの」

「そんなバカな!」

 驚きのあまり、普段あまり聞かないツッコミを披露するレンリッキ。


「……ん? いや、ちょっと待って、イルグレット。昨日戦闘で召喚獣なんか使ったか?」

「違うわよ、シー君。最近全然呼んでなかったから、元気かなあと思って」

「それだけのために!」

 今のゴールドの価値を考えてください!


「あのね、召喚獣は家族なのよ! 召喚の代償のゴールドが値上がりしてたからって、あの子達と会うのは諦めないんだから!」

「しかも値上がりしてたの!」

 なんて強気な価格設定でしょう!


「だから、シー君、レン君、ごめんね」

「わーった、わーった。その代わり、ゴールドゴーレムが出てきても召喚は禁止――おわっ!」


 突然の地響き。


 やがて、俺達から大分離れた場所の地面がビシリと轟音を立てて割れ、人間の3倍ほどはあろうかという黄金色のゴールドゴーレムが現れた。


「まずい、他のヤツらが攻撃し始めちまった!」


 剣に手をかけて走り出す。

 チッ、中古屋のときみたいな「一歩遅かった」はもう勘弁だぞ。


「シーギス、伏せて!」


 我がパーティーの誇る魔法使いの声が後ろから響き、すぐさま左足でブレーキをかけて、その場でしゃがみこむ。


「走ってたんじゃ、間に合わないわよっ!」


 チラッと後ろを見ると、彼女が翳している両手の前で、黒くバチバチと放電している玉がどんどん大きくなっていた。もう少しで、ゴールドゴーレムと同じくらいまで膨らみそうだ。


「まずは……一発目!」

 飛ばした玉は、猛スピードで宙を駆け、金色の敵にぶつかって大爆発を起こした。

「ゴオオオオオッ!」

 低い唸り声が辺りに響いた。よし、かなり効いてるぞ!


「レンちゃん、魔力切れそう! ドワーフの水、ちょうだい!」

 隣にいたレンリッキのリュックを開け、水色の液体が入った小瓶を取り出した。

「よし、いただきます!」

「ちょっと、アンナさん! それ、ドワーフの水よりも強い、ドワーフの泉なんですけど……」

「いいのよ、似たようなもんでしょ」

 飲み干してから、ケロッと返事する。


「アンナリーナ、いいぞ! もう一発お見舞いしてやれ!」

「任せて、シーギス! 一気にカタつけるわ! イルちゃん、アイツに防御されると厄介だから、一緒に攻撃しよ! 今アタシが使った魔法、使える家族はいる?」

「もちろんよ!」


 ………………はい?


「とびっきりの召喚するわ!」

 水を得た魚のようなテンションで魔法陣を描き、その中心にゴールドを置くイルグレット。


「あの、お姉さん! 召喚は禁止――」

「召喚します!」

「話聞けよ!」

 ツッコミもむなしく、陣に煙が巻き起こり、全身が骨で出来た竜が現れた。


「イルちゃん、いっせーの、でいくわよ!」

「オッケー! サイレスドラゴン、得意のヤツ、お願いね!」

 アンナリーナが構え、ドラゴンが口を開ける。どちらも、あの放電する黒い玉が巨大化していった。


「いっせーのっ!」

「せっ!」

 2つの玉が左右に分かれて飛んでいき、ゴールドゴーレムを挟み撃つ。地形が変わるんじゃないかと思うほどの爆発音とともに、ゴーレムはパンッと弾けた。


「やった!」

 呆気に取られる他のパーティーを他所よそに、ゴーレムがいた場所に走り出す女子2人。


「220Gも落としたわ! シー君、レン君、この調子でいこ!」

「ふっふっふ、アタシ達にかかれば、ざっとこんなもんよ」

 大してない胸を張るアンナリーナ。その手には、なかなかお目にかかれない、金に光る100Gコインが2枚輝いていた。


「あの、アンナさん。さっき間違えて飲んだドワーフの泉、ドワーフの水よりグッと効果が高い分、値段も相当高いですよ……180Gくらいムダにしてます……」

「へ? そうなの?」

「何してんだよ……」

 道具考えたら、差し引き40Gくらいの儲けってことか。


「あ、私、今のサイレスドラゴン召喚するのに55Gかかったわ」

「結局マイナスじゃん!」

 もう絶対この調子でいかないで下さい!

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