第二話:零、起動(前編)

大日本共和国連邦政府設立一〇〇周年の年。その四月某日に、横須賀が何者かによって襲撃された。

その頃、横須賀司令部にて。

司令官が怒鳴っていた。

「何故、これ程の敵性勢力がこんな内地に送り込まれたのだ!?

対空監視員は何をやっているっ!!」

「すみませんッ!!

ですが、先程まで電波探信儀レーダーには何の反応も……」

対空監視員の一人が怯える様に返事をしたその時、

「司令!!」

別の対空監視員が司令官を呼んだ。

「横須賀港第一超大型ドックにて入渠中の信濃より、艦載機が出撃した模様!」

「信濃から艦載機……まさか───!!」

その隊員が座る席に近づき、総司令官はそこにある画面を見やる。対空監視レーダーの反応を映すその画面には、一機の自軍機の反応と共に

『《ZERO-TOKM P.T.MODEL 03rd》

Pilot:Ryo Arimoto』

と標記されていた。

「やはり……あの欠陥機か!!」

「はい、その様であります!!」

「あの口悪娘、この期に及んで有用性を証明しようとでも言うのか?

中将の御贔屓も無ければ一機もあの様な産廃など作らせんかったというのに……」

司令官は一人毒づく。

「…まぁいい、所詮欠陥機は欠陥機。

あんな危険な機体、撃墜されてしまえばいいのだ。

この戦いで無能を晒してしまうと良い」

軽くそう言った後、

「通信士、浜松飛行場に連絡を取れ!

迎撃隊を二班ふたはんで編成、横須賀に向かわせる様に伝えろ」

そう言うのに対し、通信士は「ハッ」と短く応える。

直後、一瞬ニヒルに笑った司令官は最後に一言こう追加した。

「あぁ、そうだ。

ついでにこう追伸しろ。

『送ってくるのは新兵の隊でも構わん』とな」


その頃、横須賀郊外の森林にて。

爆発が一時的に止んだその隙を見計らって、W-02───サーシャは機体を起こした。

「W-03……応答せよ……」

自機が抱き寄せる機体のパイロットW-03に問う。だが、返答がない。

「───W-03、大丈夫か!?

おい、イリヤ!!」

血相を変えながら安否を気遣うサーシャ。

すると、

『う、うぅ……ッ』

気を失っていたか、痛みに耐えていたのだろうか、W-03ことイリヤの呻き声が聞こえた。

『サー……シャ……?』

「無事だったか……!」

サーシャが改めて問い掛けると『なんとか……』と返ってきた。

返答に対しサーシャが安堵するのも束の間。

『でも……駆動系、やられたみたい……。

機体、動かないや……』

コクピットのメインモニターで、サーシャは彼女の機体を確認する。右脚部の膝部、及び腰部からスパークが出ていた。

「……嘘だろ?」

口から漏れた。ついでに言うなら安堵していた表情も失せていた。その直後、

「ぐぅっ!!?」

唐突に来た背後からの衝撃を受け、呻いた。自分達への攻撃が再開された、と理解するのに造作も無かった。

撃ってきたのが対地用より威力が低い対空用ミサイルだったのだろうというのも幸いしたのだろうが、辛うじて背部装甲の一番マシなところに当たった為か直撃し体勢が幾分か崩れたものの機体が機能停止する程の深刻なダメージは入っていなかった。

故にサーシャはすぐに体勢を立て直して振り向くことができた。そして彼女は、迫り来るミサイルを睨みながら対物ナイフを引き抜く。

『サーシャ……貴女だけでも逃げて!』

「馬鹿を言え!

仲間を捨てて逃げられるか!」

『でも、このままじゃ共倒れだよ!』

イリヤの叫びが虚しく響く中、「それでもォッ!」と言い張るサーシャはイリヤ機の盾となり、対物ナイフでミサイルを斬り伏せる。

真っ二つになったミサイルが周囲で爆発し、その爆風に煽られた機体の各部から過負荷、被弾を示すアラームが悲鳴の様に響く。

「くっ……機体損傷率上昇!!

このままでは、いつまで持つか───!!」

絶望しかない状況の中でも、希望にすがる───その時、

「───ッ?」

途端に攻撃が止んだかと思えば、敵機は別の方向に攻撃を始めていた。

「なんだ……急に、何のつもりだ……?」

その時、不意に『サーシャ、あれ……!』というイリヤの声が聞こえた。

攻撃する方向を見やり、空に点の様なものを確認すると、それにカーソルを合わせ映像を拡大した。

「なんだ……あれ……?」

そこには、彼女が見たことのない航空機の姿があった。

その機体は、その機体の大きさにそぐわない程に長大な二門の砲身を左右の主翼基部に搭載しているという変な姿をしていた。

「戦闘機……にしては、やけに不格好な……」

レーダーを見やる。その機体の反応は、機体名、所属国籍の欄それぞれに『НЕИЗВЕСТНЫЙ(不明)』とだけ表示されている。

所属不明機アンノウン……いや……」

だが、メインモニターで映像を拡大して確認すると翼に日の丸のエンブレムが見えた。

「……日本海軍……?」


若干だが、時間が遡る。

戦艦信濃の後部飛行甲板上にあるカタパルトより『零式TOKM艦上戦闘機 試作型三号機』が飛び立った。

日本では『九六式噴進艦上戦闘機』という名で呼ばれる戦闘機F-15を僚は知っているが、それにはあまり似ていない。どちらかというと鳥に似ている様なシルエットな上、二門の可動式大型レールガンと機体下部に備わる変わった形状のユニットが特徴的な機体である。

機体が飛行している状態のまま、有本 僚はサブモニターを確認した。上下左右と中央にあるモニターのうち、中央にあるモニターが機体状態を示すらしい。

「フレーム、思ってたより安定している。

欠陥があったんじゃ……?」

そう思いながらも、索敵の為に辺りを見回すべく脇見をして、直後に思わず感嘆を上げてしまった。

「信濃って、あんなに大きかったんだ!」

横須賀港に停泊する何隻もの巨艦達。

その中でも信濃は一際巨体だった。

「あれは……金剛型が三隻もある!

あの一隻は改装していた榛名で、あの入渠中の赤い一隻は摩耶……それで、もう一隻は……あれが例の新造艦なのかな?」

下の様子に、無邪気な反応を示していた。

下の光景に見入っていたその時、不意にレーダーに警報アラートが鳴った。飛翔し始めて一分経ったか否か、漸く操作に慣れてきた時の会敵───より正確にいうなら会敵ではなく敵にロックオンされたが故の警報───を示すそれが耳に届いたその一瞬で、彼の心持ちは切り替わる。

───だが、

「───っ!!?」

それと同時に、目の前の光景に度肝を抜かれる。

「何でこんなに……!!?」

複数機、どころか軽く十機は超える量の敵戦闘機がいた。

そのうち五、六機程は、郊外の森林を攻撃していた。爆煙や土埃の影響で何に攻撃を加えているのかよくわからない。

「なんだ、あれ……?」

そう思っていたその時、敵戦闘機二機がミサイルを二発ずつ撃ってきた。

それらを綺麗に回避し、僚はその二機を照準に捉える。

「当たれっ!」

吠えながら引き金を引き、レールガンで対象に射撃した。

磁気によって高速射出された弾丸が敵機を穿つ。直撃した敵機が墜落していく。

「当たった!

えっ───うわっ!?」

だが直後に、後ろから来た別の機体による機銃斉射を受けた。

「───やっぱり目の前以外からも狙われるのか……でも、これでっ!!」

外傷こそほとんど受けなかった様だが、数発着弾した際の衝撃で機体が結構揺れる。

咄嗟にレールガンを後ろに向けて射撃し、 もう一機を撃墜したが、保てていたバランスが撃った反動で一気に崩れてしまった。

「うわっ!?」

逆噴射機構などあちこちの推進器を吹かしまくり、なんとか体勢は維持するものの、高度がかなり落ちてしまった。

「───ッ!!!」

そこで、僚は見てしまった。砂埃や爆煙で見えなくなっていた辺りの光景を。

二機のT-34が五機の戦闘機に袋叩きにされていた。

「……もしかして、あれ───くッ!!!」

さながら、生きたままの鳥葬と表現できるその光景を目にし、僚は普段の温厚な性格が失せる程に激昂する。

「やめろぉ───────ッ!!」

吼えながらレールガンと、さらに機首付近に装備されていた小口径ガトリングを連射し突っ込んでいく。

一発一発が敵戦闘機を次から次へと撃墜していく。五機を撃墜し、残りが退散したところで、

「───あ……!!」

ようやく、飛んできた一発のミサイルがすぐそこまで来ているのに気がついた。


日本軍機が単機で戦うその光景を、二人は下から見ていた。

「あの機体のパイロット……まるで素人だな……」

助けに来た、とははなから思っていない───それどころか、不法侵入者として粛清しに来た、とさえ思っていた。

それ故の辛辣な発言だった。

「撃った反動で不時着、か……。

しかしあの砲、後ろを向けるのか……」

そう言いながらW-03機の右脚部を無理矢理に剥離パージし、逃げる準備をし始めたその時、イリヤが驚愕の声をあげる。

『あの機体!!

あの体勢から立て直したよ!?』

その反応に対し、

「何、持ち直しただと!!?」

やはり驚愕するサーシャ。パイロットの技量に対し嘗めて掛かっていたが故の反応であった。

キレこそまだかなり荒削りだが、次から次へと戦闘機を撃墜していく機体。

その動きに対し、サーシャは何かしらの違和感を感じ始める。

機体の装備するレーダーがどれ程の精度かは不明だが、あの距離ともなれば視認していても可笑しくはないはず。だが彼の機体は全くこちらに対し攻撃はせず、寧ろこちらに側面背面を向ける様に立ち回っていた。

同じく感じていたのであろうその違和感を、イリヤが代弁した。

『あの機体……まさか、私達を庇っているの……?』

「……何故だ、日本軍のパイロット……!!」

だが、次の瞬間、

『「───あっ!」』

彼の機体に、前方から対空ミサイルが迫り、直後にその機体は爆風と黒煙に呑まれた。


ガトリングの弾幕によって運良くミサイルの迎撃に成功はしたものの、爆風をもろに受けてしまった『試作三号機』は、バランスを崩し落下していく。

撃墜と判断したのかもしれないが、信濃が副砲を用いた艦砲射撃を行って敵の気を引いてくれていることもあり、敵戦闘機達は追撃せず信濃の方へと向かっていった。

だが、機体が郊外の森林地帯の中に落ちていき、段々地面が近づいてくることには変わらない。

サブモニターにも、

『CAUTION(危険)!

WE CRASH-LANDED IN THIS STATE(機体が不時着します)!』

と出ていた。

(まずい、不時着する!)

地面まで、約十メートルを切った。

(零…………応えろ───!)

念じた、その瞬間───機体の正面サブモニターに、

『TRANSFORM OF “SOLDIER FORM”

STANDBYED』

の表示が唐突に浮かび、その為のものとされる操作を促すアイコンが浮かび上がる。

表示の意味は分からなかったが、僚は咄嗟に操作をした。

その操作とは───『モードシフトレバー』という名称で表示されている、コクピット右上のレバーを引く、それだけ。

レバーを引いた。その瞬間、

「あ……」

引くな、と言われていたのを思い出した。

まずかったかと思ったが時既に遅し。

その瞬間、一秒にも満たないほんの一瞬だけシートに衝撃が走ると同時に、自分の体が浮く様な感覚を感じた。

「───っ、何事!!?」

コクピットの上下に装甲板の様に張られていたハーネス状の器具が解除され、その分の視界が開けた。

ほぼ全方位を見渡せる『ドラムの内部』状のモニター。

そして、その画面の下側に脚の様な形状の機械が映っている。

「……これって───」

それが地面を擦り、

「わぁぁぁぁぁ──────────っ!」

凄い衝撃と共に機体が不時着した。


ミサイルが炸裂し、黒煙に巻かれながら戦闘機が落花していく様子を、サーシャとイリヤの二人は唖然としながら見ていた。

『撃墜されちゃったの……!!?』

「……いや、直前で迎撃には間に合っていた。

至近距離で弾頭が炸裂して、バランスを崩したんだろう。

……流石に今度のは、墜落に違いないだろうがな……」

煙に巻かれながら、どんどん落下していく日本軍の機体。

上空を幾筋もの飛行機雲の様な白い線が蒼穹を染める。港の方、恐らくそこに見える巨大戦艦の副砲による砲撃だろう。

それを回避した戦闘機達はすぐさま港の方へと向かっていった。

「あの機体、それとパイロットのことも気になるが……今はそれどころではないな。

奴等があの機体、はともかく……あの戦艦の相手をしている今のうちに退避するぞ……」

『……そう、だね……』

その結論に至り、二人共逃走することにした。

逃避しながらも墜ち逝く戦士ものの姿を視続けていた、その瞬間とき───。

『───えっ!!?』

「───なっ!!?」

恐らく彼女達の想像していたであろうことを遥かに越えたことがその機体に起こり、二人共それに釘付けとなった。

『何、今の……戦闘機が…………!?』

「変形、した……のか…………!?」


零の機体に何が起こったのか。

まず、二股になっていた機体の後部ユニットが展開し伸長され、人の脚の様な形状をしたユニットが出来上がる。

次に、機体中央部にあった二基の細長いユニットが機体左右に展開され、腕の様な姿のユニットを形成した。丁度、機体の後ろ方向を向いているそのユニットの先端部には人の手首の様な五本指のマニュピレーターが備えられていた。

そして、機首上部が背中側に折り畳まれ、それと同時にコクピットのある機首下部が下を向く。そして機首下部側の根元から人の頭の様なユニットが展開された。そのまま、頭型のユニットが出てきた位置に折り畳まれた機首上部パーツのアームが結合する。それに噛み合わぬうちにレールガンが機体後方に向かって展開され、翼が上方向に向かって斜めに、両方の翼でV字を描く様に展開される。

頭型ユニットの眼にあたる部位───双眼デュアルアイセンサーが輝くと同時に、機体が地面に対して直立する様な感じに機体が向きを変えた。まるで、空挺部隊の兵士が着陸するかの様に。

簡単に要約すると、戦闘機が人型に変形したのだった。その間、約一秒弱。

これが、零式TOKM───Transfer Of Knight Machine(騎兵型の機体に変形する)───艦上戦闘機の真髄、と言えた。


信濃 CICにて。

「『零』、敵戦闘機を単独で八機撃墜!」

オペレーターの桂木 優里が伝える。通信先は、艦載機格納庫。吹野 深雪に対してだ。

『え、嘘!!?

敵が密集していたとはいえ単独で、しかもこんな短時間で……!?』

驚愕する深雪。彼女からしてもこればかりは予想外だった様だ。

だが、状況は芳しくなかった。

「ですが……機体は郊外の森林地帯に不時着してしました……」

優里がそう伝えた途端「えっ!!?」と、深雪は取り乱した。

『機体とパイロットの状況は!?

パイロットは無事なの!!?』

「それが……」

言いかけて、言葉が止まる。

たが、オペレーターとして目の前の真実を黙っている訳にはいかなかった為、続けた。

「……機体からの通信も途絶、現在確認中としか───」

直後、機体情報が更新された。

「───来ました!!」

言いかけていたことを区切った優里は、今更新されたそれを確認し、情報を深雪に伝える。

「パイロットのバイタルサイン健在、機体状況ほとんど損耗なし!」

『───っ、良かったぁ……!!』

その珍しく安堵した様子の深雪に対し、優里は「だけど……」と含み有り気に言葉を濁す。

その反応に深雪が『……え、なに?』と尋ねると、

「……変形、使ったようですね」

そう優里は続けた。

その瞬間、

『はぁ!?

あれだけ使うなって言ったのに!!』

深雪は急に、まるでスイッチが切り替わるくらい簡単に機嫌を悪くする。実際『試作機だけでも完成まで、機体が変形することは黙秘』したかった為致し方が無いのだが。そこに優里がからかう様な口調で尋ねる。

「一応聞きますが『ガルーダ』の使用許可は───」

『はぁ!?

あんなもの使う訳ないじゃない、馬鹿じゃないの!!?』

そこに慌てとも怒りともとれる返事が深雪から返ってきた。

「冗談ですよ。

そもそもアレは『交戦規定【特一条】』が発令されてないので外部からの起動は出来ません」

『う、うっさい!』

「フフフッ。

まぁ、無事だっただけ良かったではないですか?」

そんな感じで馴れ合っていたところで、

『……ひとまずは、そうね。

でも、敵機は……』

深雪が話を切り替えた。

「……えぇ、まだいます。

しかも、大物まで……」

優里が対空電探の画面を見る。

少年が八機も撃墜したというのに、最低でもあと六機は戦闘機が飛んでおり、さらに大型の軍用航空機の反応が三機確認されていた。一機は超長距離爆撃機とされるが、もう二機は不明。

『にしても、司令部の対空監視員は一体何しでかしたのかしら!!

ここ内地よ?

こんな大軍送り込まれて、寝惚けてたにしても程ってものがあるでしょうに……』

「……一応、先程司令部に問い合わせてみたのですが……。

……『レーダーには何も反応が無かった』とだけ返されました」

『はぁ?

それは……アレね、司令部側むこうの整備士がケチったのよ色々と。

工兵の風上にも置けないわね!』

等と二人が戯れていたら───。

『すみません。私に手伝えることは無いですか?』

深雪の隣に居る少女が優里にそう尋ねた。



その頃、浜松飛行場にて。

何機かの戦闘機が出撃の準備を行っていた。

二小隊分で班分けされていた計六機の九六式艦戦の編隊だ。

それの片割れに所属している青雲 幸助の元に、班員の一人から通信が来る。

女性隊員、菅野 花梨からだ。

開いてみると、やっぱりだが心配される。

『こー君、大丈夫?』

「あぁ、平気平気」

そう返しはしたものの、幸助は正直に言えば緊張していた。

丁度そこに、通信が掛かる。

城ヶ崎 小太郎、この班の班長からだ。おそらく元々花梨と話していたのだろう、既に回線を開いている者同士での通信は応答する間もなく自動で繋がる仕様になっていた為、いきなり回線が開かれる。

それでいて、

『そうか?

なんか声震えてるぞ』

「う……」

図星だった様であった。

彼は施設出身だったが、その頃から空に憧れていた。

彼は、ではない。実はこの三人は年齢こそ違えど同じ施設出身だ。一歳違いの花梨はともかく小太郎とも五歳ほどだが離れているが、実質幼馴染みといっていい。

その中でも勉強も訓練も必死で取り組み、小太郎と同じ、海軍の士官学校に入学はいることができた。

その第では士官学校を卒業でてからも数ヶ月、ありとあらゆる訓練を重ね、まだ若いものの、現在は浜松飛行場にて栄えある航空部隊の末端の末端にだが配属となった。

そんな彼も、実戦は初だった。『改二大和型超戦艦級』などという、並の戦艦を軽く超える規模の巨大戦艦を十隻も持っていながら、大日本共和国連邦この国は建国早々のソ連との戦争以来百年近い間戦争なんてしていなかったからだ。

故に、緊張していたのだ。人として当たり前のこと、と言っても過言ではない。

どれ程訓練していようと、初の実戦であるという時点で、新兵となんら変わりないのだから。

そんな彼が、色々考え悩んでいると、

『全く……なんやねん!

急に呼び出し来たー思うとったら、出撃やと!?

俺ぁ来週には第一防空部隊に配属やったんやぞ!!』

また別の、自分の班員の一人がそんな苦情に近いことを通信で言い出していた。

(彼は、確か……。

火野 龍弥たつみ、だったか?)

確認する様に思い出す。

今月始めに関西の部隊から転属になったらしい、とだけ聞いていた。

『現在国外に派遣中の別の部隊に配属となる為に、あくまで仮転属という形だ』とも言われていた為、同じ班とはいえ彼との交流は皆無に近い。

次いでに言うと、彼は花梨と通信していたらしい。その為花梨の回線から龍弥の声が聞こえていたのだ。

「へぇ、『蒼穹』か」

感心した様な言葉が不意に漏れる。実際彼は感心もしていた。

第一防空部隊───『日本海軍横須賀司令部所属 第一国土防衛師団艦隊』の構成部隊中でかなり高練度な部隊の一つである。正規空母 蒼龍を旗艦とする機動部隊で、その練度は訳あって一般人には秘匿されている“とある艦隊”を除けば『第一国土防衛師団艦隊 総旗艦隊本隊』すらも超えるとも言われた。

戦争をしていなくとも、特定の同盟に所属している国なら各国、軍を特定の地域に派遣し合同軍事演習を行うことは良くある。その度にこの部隊は毎度その強さを見せつける。特に『晴天時は無双』とさえ言われているジンクスも重なり、第一防空部隊この部隊は、『蒼穹の艦隊』という異名を誇っていた。

『せや、日本海軍が誇る防空の要や!

そげな部隊に配属やいうんに、こんなとこで墜とされちゃあたまらんのや!』

幸助の声を聞いたが故か、回線を繋げ早々にそんなことを言い出す。

そんな苦情を自分に言い出されても堪らないというのに、と思った時、小太郎が少し煽る様に言った。

『そん時は『その程度の奴だった』ってことで済むんじゃないか?』

『なんやて!?』

小太郎の一言に驚愕とも怒りとも取れる反応を返した。花梨も『ちょっと、小太郎さん』と呆れる様な反応を示すが、それに対し小太郎は一度軽く笑い『だが、逆に考えるんだ』と繋げた。

『もしここで良い戦績を残せば、どこの部隊に居ようがスピード昇格は間違い無しだ』

『お、おう!

……あんた、ええこと言うな!』

『それはどうも……っと、時間か……』

気が付けば整備兵達が退避している。

「……では、お互いがんばろう。

健闘を祈る」

小太郎の言葉を聞いて、幸助も幾分か楽になった。

『各員、出撃準備は宜しいですか?』

オペレーターの声が響く。

『城ヶ崎 小太郎、同じく出撃準備完了!』

『菅野 花梨。出撃準備、完了しました』

『火野 龍弥、いつでも行けるで!』

三人がそう応える。

自分も、行ける。そう信じて、

「青雲 幸助、行けます!」

幸助も、そう応えた。


『各員、出撃準備は宜しいですか?』

オペレーターの声が響く。

『こちら城ヶ崎班。

各員、出撃準備良し』

片方の班長がそう答えたのを確認し、

『こちら双里班。

各員、出撃準備完了』

もう片方の班長も応じた。

班長の名は双里 真尋。年齢は十八歳。

それ以外に情報は無い。

どこの学校を出たのか、いつどうやって航空機の訓練を受けたのか、全く以て不明。

性別すらも不明だった。女性の様な顔立ちで声音も女声に近い様に聞こえるが、「僕」という中性的な一人称しかり機械的ともとれるいかにもな口調しかりで、男性なのか女性なのか正直判断しようがない。

「…………」

双里班唯一の班員である景浦 幽は、だが、そんな彼(彼女?)に対し、特にこれといって情報が欲しいと思っていない。

それどころか別に城ヶ崎班の隊員ですら気に掛けてもいないのだが。いや、むしろだろう。パイロットたるもの、腕前が確かなら性別など関係ないのだ。

少なくとも彼はそう思っていた。


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