第5話








「…んー」



俺の呼びかけに反応し、ぐずった様な声を出す、みつる。

顔を上げることなく、机に突っ伏したまま、イヤイヤと頭を振った。


…あー・・・。

くそ…。可愛いな。



そんな気持ちを胸に仕舞い込んで、俺はみつるの頭をバシッと叩く。



「お前、山口の授業で寝るなよ」


「…だって、朝っぱらから古典だよ?寝るだろ、普通」


「…そうかよ。そんなみつる君に、嬉しいお知らせです」


「何なに!?」



嬉しそうにガバッと上体を起こした、みつる。

相変わらずの単純さに、思わず俺は笑った。



「放課後、山口先生様からの呼び出しです」


「うわぁあ…」



ゆっくりと、また机に突っ伏すみつる。

今の、巻き戻しみたいだったな。

ウケる。



「頑張って行って来いよ。俺、教室で待っとくし」



宥める様に言うと、半泣きのみつるは、こっちを見た。



「…ありがとー。ちゃんと行くわ」



そう言って、へらっと笑う。









笑ってる彼を見るのは、好きだな。


これを見ると、殺してしまうのが惜しくなる。








「はいはい。偉い偉い」


「急に適当!ちゃんと待っててよ!?」


「わかったってば」



ギャーギャー騒ぐみつる。



俺と喋って、俺へと反応を返してくれる。

生きているからこそ、出来る事。


わかってる。解っているんだけど。



目の奥に浮かぶのは、ぴくりとも動かず目を閉じた彼の姿で。

俺は、やっぱりその光景に、ぞくっとしてしまう。


いつも、自分の性癖に苦しめられて、どうにかなってしまいそうだ。



なぁ、みつる。

1つだけ、お願いだから…


俺以外の奴を好きになったり、しないでくれ。

誰かのものになったり、しないでくれ。



もし、そんな事になったら


俺はお前を殺して、俺だけのものにしてしまうから。



俺だけしか知らなくて、俺のもののまま死んでいく彼。

…凄く良いな、それ。


嗚呼――







屍体になった君を見たい。







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愛した話 丹桂 @10s

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