第27話 カイナード

 ルナリア学園都市、闘技大会の決勝戦は壮絶な打撃戦になっていた。

 恐ろしく重たい金属音がぶつかり合い、打ち払われ、地面を激しく揺らす。

 衝撃音が痛みを伴って観客席にまで届き、思わず耳を塞いで身を縮める者達がいる中、銀狐親衛隊の絶叫が会場を押し包まんばかりに猛っている。

 わずかずつ位置こそ変えるものの、ほぼ足を止めての殴り合いである。

 その細い腕に、いったいどれほどの膂力が秘められているのか、巨大な金鎚が縦横に振り回されて、カイナード法国の魔法剣士キリンジに襲いかかる。

 対して、キリンジも大楯で金鎚の一撃を受け止め、はじき返し、長剣でシンノを薙ぎ払い、激しい突きを繰り出す。

 シンノが長柄で長剣をいなし、真っ向から金鎚を打ち込む。

 その都度、


 ゴウン・・・ゴウン・・・


 会場を見ていなければ何の音か分からないだろう、重たい金属音が会場を震わせる。

 互いに距離をとらない。

 お互いの武器が届く場所で、武器を打ち振るっていた。

 体格だけならキリンジが圧倒的に大きい。手足の長さにおいても勝っている。

 小柄な分、大きく踏み込まなければならないシンノだったが、呆れることに双方の距離はじりじりと狭まっていた。

 二人の間で、何らかの魔法が使われているのかどうか、食い入るように見ている観客の誰にも分かっていない。

 カイナード法国の観覧席には、苦々しい空気が漂っていた。

 まさかの打撃戦である。

 いや、本来なら望むべき展開だったのだが、キリンジと互角に打ち合える存在がいることが、まさかなのだ。あんなか細い体付きの少女がいったいどうやって、あれほどの怪力を得ているのか。

 老魔導師には、シンノが強化魔法を一切使用していないことが分かっていた。

 薬物も使用せず、強化魔法も使わず、それらしい装備品も無い。

 そんなケダモノが、近接戦では最強と誉れ高いキリンジ・カーンと真っ向から打ち合っているのだ。キリンジの魔導装備は、遠距離戦を仕掛ける相手をいなし、近接戦闘へ持ち込むための物だ。


「楯が保たぬな」


 初老の男が呟いた。


「・・キリンジも、いよいよ使わざるを得ないでしょうな」


 老魔導師が苦々しく応じた。

 まだ世間には伏せておきたい武装である。だが、そうも言っていられない状況になっていた。

 キリンジが踏み込みながら斬り下ろした長剣が、ほぼ同時に振り下ろされた金鎚によって斜めに打ち払われ、ガラ空きの頭めがけて金鎚が襲いかかった。キリンジは咄嗟に剣を捨て、地面に膝を着きながら斜めに背負うように楯を担いで金鎚を受けた。

 破砕音が鳴って、ひしゃげた大楯が宙へ舞う。

 シンノは、地面を強かに打ちつけた大金鎚をそのまま横へ、蹲るキリンジめがけて払い打った。

 直後に、シンノが真横へ跳んだ。

 だが遅い。

 シンノの剥き出しの二の腕と脇腹に裂傷が生まれて鮮血が流れていた。

 やや遅れて、切断された大金鎚が重々しい地響きを立てて地面に転がった。

 黒衣の脇を押さえつつ、シンノが初めて距離を取った。

 何に斬られたのか見えていなかった。

 危険を感じて回避しただけだ。

 肌身を傷つけられたのも、本当に久しぶりの事だった。

 シンノの双眸が注意深く、キリンジの手元を見つめた。キリンジは地面に膝を着いたまま腰元に手をやって上体を斜め前に倒すようにして構えている。

 何らかの武器を隠し持っている。

 斬られたのだ。

 刃物だろう。

 風の魔法では無かった。

 シンノは、身軽くステップを踏みながら踏み込む機会を窺おうとした。

 しかし、キリンジがそれを許さなかった。

 地面に片膝を着いた体勢から右腕が霞むほどの速さで腕を振ってきた。その手に武器は見えない。

 いや、何か短い棒を握っていた。

 剣の柄のようでもある。だが、剣身が無い。

 動きから横薙ぎだと判断してシンノは斜めに前に出て振るわれた腕の逆側へ身を入れた。


「何と、二度目で完全にかわしおったぞ」


「獣の勘・・ですかな」


 老魔導師も驚きで眼を見張っている。一度目に切断を免れただけでなく、二度目には完全に回避している。

 シンノは素早く自分の周囲へ視線を向けた。

 地面を抉る傷跡を見る限り、そう遠くまで届く攻撃では無い。少し長い剣を持っていると想定して戦えば問題無さそうだった。

 シンノが分身を始めた。

 しかし、キリンジの手が翻って、すべてが斬られて消えて行く。

 シンノも風刃を放った。

 風刃までがキリンジの攻撃に斬られて霧散する。

 どうやら、魔法で生み出したものは斬られることで消し去られるようだった。

 シンノは足下に魔法をぶつけて砂塵を巻き上げた。同時に分身を展開すると、風と火の魔法を立て続けに放った。


「二属性の魔法を、詠唱もせずに撃つか」


 カイナードの老魔導師が冷え冷えとした視線を注いでいる。


「む・・」


 紫雷が地を走ってキリンジを捉えた。

 寸前で雷を斬り払ったようだが、雷というのは光ったときには命中しているほどに速い。キリンジの速度だからこそ防げた魔法だった。


「三属性を無詠唱だったぞ?」


 隣で初老の男が笑った。


「・・再生が終わったようですな」


 老魔導師が安堵の息をついて背もたれへ背中を戻した。

 大金鎚の衝撃で筋骨を粉砕されて動けなかったキリンジが、ゆっくりと立ち上がっていた。

 右手だけでなく、左手にも剣の柄のような魔道具を握っていた。


「躾の悪い犬っころには鞭をくれてやるべきだな」


 初老の男が老魔導師を見る。


「そうですとも・・身を裂き、骨を砕くほどに打ち据えてやらねばなりますまい」


 老魔導師が余裕を持った口調で応じた。

 唐突に、シンノの立っていた場所を中心にして扇状に地面が三つに裂けていた。

 桜花の幻体が散って、わずかだがキリンジの動きが止まった。その間に、シンノが大きく横へと回り込んでいる。

 今の一撃は、闘技場の地面のほぼ半分近くまで斬り割っていた。

 続いて襲った見えない攻撃が、シンノの幻体ごと闘技場の壁を直撃した。魔導結界が霧散して消え去ってしまった。どんなに強力な魔法を放っても、びくともしなかった結界がキリンジの一撃で消え去ったのだ。

 気づいた者達が恐慌状態に陥り待避を開始した。


「ヂンンノオォォォォ~!」


 銀狐親衛隊の絶叫が響き渡る。ここぞとばかり銀色の応援旗が振り回された。

 シンノの両手から不可視の魔法弾が無数に撃ち放たれキリンジを襲った。どんな剣の達人でも、同時に着弾する無数の魔法弾を斬り払うことなど出来ない。

 目に見えない斬撃を放ちながらも、キリンジが走って逃れる。

 シンノが不可視の魔法弾に、雷撃を混ぜながら追い討った。

 転瞬、キリンジが一気に距離を詰めてきた。魔法弾を放ちながらも、シンノは見えない斬撃から逃れ出るようにして位置を移す。


「よく躱すものだ」


「さて・・いよいよ、九鞭に増えますが躱せますかな?」


「無理だな。躱したくとも隙間が無い。あれほど正確に、同時に到達すると回避も受けることも出来ぬよ。技量や身のこなしの問題では無いからな。さて・・・結末も見えたところで退散と行くか」


 初老の男と老魔導師が申し合わせたように席を立った。警護の者達が周囲へ視線を配りながら壁を作る。


「フージャは?」


「あの犬っころを拾ってくるよう命じてあります。肉片でも実験の材料にはなりましょう」


「商館の連中は?」


「飛空艦に収容済みです」


「では、我々も退散するとしよう。うるさいのが集まって来そうだ」


 初老の男を護って一団が通路へ向かって観覧席の後方へと移動し始めた。

 場内ではシンノが巻き起こした砂煙によって一時的に視界が失われている。委細構わずにキリンジが攻撃をしてそこかしこに亀裂を生み出し続けていた。

 闘技場のほぼ中央で、再び、両者は対峙した。

 どちらも呼吸一つ乱していない。

 ただ、シンノ方が左手の二の腕と、脇腹の傷から血を流し続けていた。


「その傷は癒えぬ。おれに斬られると、いかなる治癒魔法も治癒薬も効果が消える」


 キリンジが言葉を発した。


「よくぞ、ここまで我が攻撃を躱した。見事と言っておこうか」


 シンノの方は、キリンジの声が聞こえているのかいないのか、開始当初と変わらぬ無気力な瞳のまま立っている。


「来世では人に生まれてくることだ・・・哀れな獣よ」


 キリンジが両手に握った魔導の武器を地面に向けた。無数の穴が地面に穿たれる。左右に九つずつ。人の拳ほどの太さの穴が地面に空いていた。


「子鼠にでもならんと、躱す隙間すら無いぞ」


 嘯いて、キリンジが両手を頭上高くに振り上げた。

 その時、シンノの銀毛の尻尾が逆立つように膨らんでピンッと伸びた。双眸が大きく見開かれ、三角の耳が忙しく左右して周囲の音を拾う。


「・・む?」


 相手の急変ぶりに、キリンジが攻撃の動きを止めて注意を払った。

 その目の前で、くるりとシンノが後ろを向いて背中を見せた。

 背伸びするように観客席を見回し、きょろきょろと視線を左右させる。


「貴様・・」


 キリンジが改めて攻撃しようとした、その頬をシンノの尻尾が打ち払った。届くような距離では無かった。しかし、確かに銀毛の尾で叩かれたのだ。兜が吹き飛び、上体を揺らして倒れそうになりながらキリンジが何とか踏みとどまった。

 すぐさま、逆側から顎を叩かれた。

 キリンジには見えなかった。

 だが、打ち叩かれた直後だけ、視界の隅に銀毛の尻尾が見えるのだ。

 あんな、ふわふわしたもので、なぜか体の芯がへし折られるような痛打を浴びている。 もっとも、その銀毛の尻尾の持ち主が、キリンジをまったく見ていない。すでに存在を忘れ去ったかのように、あからさまに何かを探して上空を見上げたり、観客席を見回したり、控え室に続く出入り口に眼を凝らしたりと、落ち着きを失ってしまっている。


「げひゅっ・・」


 キリンジの喉が嫌な音を鳴らした。

 信じられないほどに長さを伸ばした銀毛の尻尾がキリンジの喉に巻き付いて絞り上げていた。それだけで、鍛え上げてあるキリンジの首が半分ほどに絞られ、頸骨がきしみ音を立てている。

 キリンジの両手から魔導武器が落ちて地面に転がった。


「あっ・・」


 シンノが声をあげた。

 あれほど無気力だった紅瞳が眩いほどに生き生きと輝き、ちぎれんばかりに手を振り始める。

 ほぼ同時に、キリンジの喉首を締め上げた銀毛の尻尾が右へ左へもの凄い勢いで振り回され、地面に、壁にキリンジが頭から叩きつけられ、打ちつけられ、体の骨という骨が粉々になってゆく。その眼から口から様々な液体が噴出する。


「師匠ぉ~!」


 シンノが両手を振りながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 今度は、尻尾が上下に振り回された。

 喜色満面、溢れんばかりの感情を発露させて全身で弾むシンノの様子に、一時は騒然となっていた観客達が動きを止めて、銀毛の狐人の少女から、その視線を追うようにして観客席の一角へと注目が集まった。

 そこに、少年が立っていた。

 歳は、十七、八くらいだろうか。

 すらりと背丈がある、艶やかな黒髪をした少年だった。

 端正に整った容貌ながら、双眸が厳しく、鷹や鷲のような猛禽類を想わせる鋭さがある。長袖長ズボン、足首ほどのブーツといったよく見る格好だが、着衣の色はシンノと同様、上から下まで黒色だった。

 闘技場から跳ねるようにして手を振っているシンノに向かって、仄かな笑みを浮かべつつ軽く手をあげている。

 シンノが手を振るだけでは物足りなくなったらしく、もの凄い勢いで場内を走ってきた。可哀相なのは引きずられるキリンジである。


「師匠っ!」


 場内から観客席の少年を見上げてシンノが笑顔になった。

 花が咲いたようなとは、こういう笑顔を言うのだろう。つい先ほどまでは、感動の失せた死人のような顔をしていた少女とは別人のような変貌ぶりで、白磁の頬に血色を昇らせて紅瞳を輝かせている。


「久しぶりだ。元気そうだな」


 少年--トリアンが場内のシンノを見下ろしながら声を掛けた。


「うん、元気よ!」


 シンノが両手で拳を握って、元気をアピールする。後ろでもの凄い勢いで尻尾が振り回されている。


「尻尾、伸びるようになったのか?」


 トリアンが銀毛の尻尾を見ながら訊ねた。


「えへへ、ちょっとね」


 銀毛の尻尾から、ぽいっとキリンジが放り捨てられた。するすると尻尾が元の長さに戻る。ふさふさとした銀毛の尻尾を手で叩いて埃を払うと、シンノは改めてトリアンの様子を見回した。

 その間も、銀毛の尻尾はふりふりと忙しく動いている。


「少し用事が残ってるが、夕方には終わる。どこかで会えるか?」


 トリアンが声を掛けると、


「どこへでも行きます!」


 シンノが即応する。


「どこの学校だ?」


「西校」


「寄宿舎か?」


「うん、女子寮があるの」


「なら寮に迎えに行く」


「分かりました!何時でも良いです・・待ってますからね?」


「ああ・・」


 トリアンはちらと西の空を見た。


「まあ、夕暮れには終わる」


「やった!夕食を一緒にどうでしょう?」


「ついでに、町の案内も頼もうか」


「お任せください!」


 シンノが満面の笑顔で敬礼して見せた。


「よし、後で会おう」


 そう言ったかと思うと、いきなり少年の姿が消えていた。

 高速で移動したのでは無い。

 文字通りに消えたのだ。

 会場が騒然となったのは言うまでも無い。


「むふふ、さすが師匠です」


 シンノの尻尾がいよいよ激しい。

 その一方で、悲鳴のような耳障りな嗚咽が聞こえた。観客席の一角を陣取っていた銀狐親衛隊が崩れ伏して男泣きに泣いていた。泣きながら、それでも応援旗を支えている若者は天晴れだろう。

 誰が、どう見ても、トリアンという少年に対して、シンノがただならぬ感情を抱いているのは明白だった。なにしろ、まるっきり隠す気が無いらしく、ほっそりとした少女の全身から幸せの香気を立ち上らせ、ほんのりと顔を紅潮させている。

 シンノは至極上機嫌で、鼻歌でも歌い出しそうな顔で足取りも軽やかに選手控え室の方へと帰りかけ、ふと思い出したようにキリンジを振り返った。

 半死半生と言えば聞こえが良いが、すでに人の姿かどうかも怪しいくらいに、ぼろぼろになって転がっていた。


「ん・・まだ?」


 シンノは、観覧席脇にある審判団の陣取った辺りを見上げた。


「ふうん?」


 シンノはキリンジを指さした。

 重く腹腔に響くような衝撃音が鳴って、キリンジを大火炎柱が包み込んで上空高くに渦を巻いて噴き上がっていた。シンノが指さす先で、火炎柱が紅蓮色から青白い炎へと変じてゆく。熱気は周囲の大気を灼いて拡がり、観客席では慌てて避難する学生達が折り重なるように倒れたり、周囲の人間を押しのけたりと大混乱となった。

 ちらとそちらを見たシンノが魔法の防壁を張って熱を封じ込める。

 シンノは左手を頭上へ掲げた。

 天空からシンノへ、轟音一閃、雷が駈け降りた。全身に雷を纏いながらシンノの左手がキリンジへと向けられる。


『待てっ・・それまで!』


 審判の制止の声があがった。

 危うく雷を握りしめるようにして押しとどめ、シンノは審判席を恨めしげに振り返った。


『・・あ』


 審判が妙な声を漏らした。拡声器越しに漏れ聞こえた声に、会場中が視線を巡らせる。

 火炎柱を突き破るようにして何かの魔道具がシンノめがけて飛来していた。

 いや、飛来しかけて不可視の壁に押し戻されるようにして、火炎柱の中へと弾き返って行った。

 直後に、準決勝でレイ・メンが使ったのと同様、凄まじい爆発が起きた。今度は、シンノの生み出した魔法防壁によって小さく押し込められて、ほぼキリンジのみを対象とした爆発となった。


『それまでだ!・・勝者っ、ルナリア学園、西校代表、シンノ!』


 審判が声を張り上げた。

 今度こそ、闘技会場中からシンノを祝福する声があがった。会場を揺るがさんばかりの拍手喝采が聞こえているのかどうか、シンノはご機嫌な顔ですたすたと早足に壁際の階段に向かって歩いて行く。

 その時、救護班が飛び出すようにして場内に駆け込んできた。

 一人がすれ違いざまに、シンノに眼を向けた。


 バシンッ・・


 膨大な電流が爆ぜるように包み込み、救護班の一人が炭化した人形のようになって崩れ伏した。


『し・・シンノ?』


「これ、救護の人じゃ無い。準決勝の人」


『なに?』


「あっちの人と戦うはずだった、もう一人の・・なんとかさん」


『カイナードの・・フージャか!?なんで、こんな所に・・』


「知りません」


 答えて、シンノは軽い足取りで通路へ駈け降りていった。

 ほどなく、恒例となった自爆が起こった。


 ほぼ時を同じくして、西方の上空で大惨事が起きていた。

 カイナード法国の飛空戦艦内で、生きとし生けるもの全てが死骸となっていたのだ。

 かろうじて命を残しているのは、観覧席に居た老魔導師だった。


「おまえ達の国が人形を生み出す薬を製造していると聞いたが、真実か?」


 世間話のような口調で訊ねたのは、トリアンである。手にしているのは、細身の短刀一本のみ。


「お、おまえは・・」


「なに、おまえ達の会話が少し聞こえてな。知り合いの事をずいぶんと蔑んでくれた。その礼に来ただけだ。人形薬のことは前に商人から聞いた話だ」


「・・・あの雌犬の・・知り合いか?」


 薄笑いを浮かべようとした老人の両目が真一文字に斬り割られた。


「上にいた全権大使とやらは色々と喋ってくれたが・・まあ良い。欲張っても良いことが無いからな」


 トリアンは独白するように呟くと、手にした細身の短刀を見つめた。


「おまえには、エフィールの下水路で会った。おれの連れていた女達を化け物に変えられた恨みがある」


「・・エ、エフィール?・・・まさか、魔神薬の・・あの時の魔導銃を撃ったガキか!?」


 老魔導師が潰れた眼を見開くようにして震えた声をあげた。

 エフィールの教会地下で、掠った女達に怪しげな薬を飲ませ、化け物の依り代にする実験をやっていた。あの一団の中に、この老魔導師は居たのだ。そして生き延びていた。魔導銃で撃たれながら、転移か何かで逃れていたということだ。


「魔神にでも祈ると良い。今度は逃さん」


 初老の男が何かを話そうと口を開いた。その口中へ短刀が突き込まれた。

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