前編 ①企み
2016年6月10日 金曜日
「彼女、可愛かったな。」
大学構内でぼんやりしているところにミキが話し掛けた。
「はっきり覚えてない。あの時は、そんな事考えてる暇無かった。」
彼女としか言いようがない人物が他に思い当たらなかったので、誰の話かはすぐわかったが、何で今、急にその話かと思っていると、ミキがケータイで画像を出した。
「ほれ。似てない?ロシア人だって。」
「誰それ。」
「世界一の美女、クリスティーナ・ピメノヴァ。10歳だって。これなんか、特に雰囲気似てね?この、ちょっと嫌そうなこの目付き!」
アリスシステムは業績を伸ばし続け、社名をアリステックコーポレーションと改名し、関連するセキュリティシステムもパソコンを使う人にとっては知らない人は居ない程までに普及していた。
「あの記事が一年前で、13で作ったって言ってたから、本当なら多分、14かそこらだったよな。」
「おそロシア。彼女、今どうしてるかね。」
「さあね……。会えるなら会いたいけど。」
窓の外の遠くを見つめながらルカが言った。ミキは窓辺にもたれ掛かりながら話を続けた。
「世界一長いプログラムってどのくらい長いんだろうな。」
「……年積に聞いた。OSのカーネル部分だけでも1500万行は越えるって。」
「システムとしては複数の実行ファイルを用意して必要な時に呼び出す形だろうから、ファイルが幾つあるかも考えると、わかんねぇな。スパゲッティとしての最大だから意外と短いのかな。」
ミキが何か企んでいそうな雰囲気を感じたが、ルカもそのまま話を続けた。
「年積、アリスの事知ってた。送ってもらったんだ……あのあと、割りとすぐに。」
「まじか。」
「アクセスには成功したけど、カーネルクラッシュ食らったヤツがいるって話だった。ダウンロード中に遮断されたみたいだから、全体ではないかもしれないって言ってたけど。」
ルカの話にミキが食いついた。
「それどうした?エグゼファイルだって、中身のソースを完全に復元する事は不可能だろ。実際に運用されてるなら難読化もしてるだろうから、バイナリを逆アセンブラしても、変数、関数、クラスなんかが欠ける。構文の雰囲気がちょっとわかったところで、可読性を著しく欠いたスパゲッティがほどけるとは思えないし。」
考えることは大体同じかと思いながらルカが答えた。
「そんなことしない。動作してるプログラムから仕様を書き起こした方がはるかに楽だと思うし。それでも一人で出来るかっつったら、出来ないと思うけどね。」
「作るときは楽だったかも知れないよな。どっかから引っ張ってきたコピペフランケンをあとから繋いだり修正した可能性もある。情報技術の葉月に聞いてみる?あいつ通信事業に就職したんだろ?」
葉月の名前が出ると、ルカが露骨に嫌な顔をした。
「あいつが絡むと良いこと無い。見返りに何集られるかわからん。」
「仲良かったじゃない。」
「いいわけあるか。愛想がないだの、優しくないだの、言いたい放題!顔見りゃ奢れしか言わないし。」
ミキは何か言いたげな顔をしたが、言うのをやめた。
「なぁ、お前、
「無い。お前ある?」
「まず、ちょっと検索エンジンで試してみたら?」
ルカは言われるままにケータイで自分の名前を検索してみると、同名の会社や名前の画数等のページの他に、いつかの自分の行動や、覚えのある画像がピックアップされた。
「誤報、情報流出、炎上、企業なんかは特に重宝しそうだよね。データ管理システムとしてもあればかなり便利だ。まだ持ってる?」
「アリス?あるよ。動作しなかったって聞いてるけど……。」
「それ、開いてみない?」
ミキの考えは解らなかったが、ルカは今日の終業時間を伝えて家に来るよう言った。
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