第5話おーい雲!

(仙人)「ふーむ、残念じゃのう。もうちょっとなんじゃが」

(トラ)「なにが?」

(仙人)「二人に愛が芽生えるのがじゃ。しっ、これは内緒じゃぞ」


洞窟、水の雫の音が響いている。


(アキ)「またカズが撃たれた。いつも真っ先に死ぬのはカズだ」

(ヒデ)「姫、それはカズがいつも姫を命がけで守っておる証です」

(トラ)「そうです。その思いはとても我々二人には遠く及びません」


(アキ)「そ、そうか。そうむきになるな二人とも。カズ、いつもすまんな」

(カズ)「はっ、恐れ入りましてござりまする」

(仙人)「(ごほん)あー、いよいよあと百年をきってしもうた。

最後、これ一回限りじゃ」

(アキ)「最後はどこへ?」

(仙人)「神風特別攻撃隊!」


電源スイッチの入る音。

大画面起動の音。


(仙人)「ここが鹿児島にある海軍神風特攻基地国分飛行場じゃ。

ここからは九九式艦爆と言う二人乗りの特攻機が三七○キロ爆弾

を抱えて、超低空から米艦に突っ込んでいった。非常に高い確率の


特攻で有名な所じゃ。もう米軍主力部隊はこの沖縄まで来ておる。

一刻の猶予もならん。玉水隊出撃に間に合いそうじゃ。そっと

11番機と12番機の前にたて」


プロペラの回転音が聞こえてくる。


(隊長)「以上のように早めに下降し超低空にて海面すれすれ

まっすぐに飛行せよ。もし前席絶命したとしても、後部偵視員

操縦桿を確保し必中せしむること。以上!司令官殿に敬礼!」


プロペラの音高まる。


(司令官)「米軍主力部隊は沖縄の北方50キロに来ておる。

神州不滅!敵艦に体当たりし見事神風とならんことを、ここに

切に願うておる。それでは杯をもて、かんぱい!」


杯を叩き割る音。


(カズ)「行くぞ!アキ姫!」

(アキ)「カズ」

(カズ)「どうした姫?11番機に二人乗るのだ」

(アキ)「(小声で)カズ、とてもかっこいいよ」

(カズ)「姫、お急ぎ召されよ。しっかりと帽子振りの

皆に敬礼してくだされよ」

プロペラの音高鳴る。

(司令官)「第28神風特別攻撃隊玉水隊、一番機発進!」


爆音と共に飛行機の飛び立つ音。

(声)「必殺必中!がんばれよ!」


プロペラの音高鳴る。

(司令官)「玉水隊二番機発進!」


爆音と共に飛び立つ音。

爆音と共に飛び立つ音。

爆音と共に飛び立つ音。

プロペラの音高鳴る。


(司令官)「玉水隊11番機発進!」


爆音と共に飛び立つ音。


(カズ)「姫、風防を開けて凛々しく敬礼をしてください!」

(アキ)「わかってる。敬礼」

(遠くの声)「がんばれよー」


飛行機の音遠のいていく。

飛行中の爆音が続く。


(カズ)「敵艦が見えたらすぐ超低空飛行に入る。

よく見張っててくれ。敵機にも注意」

(アキ)「分かったわ、カズ。あんたと心中ね」


(カズ)「ヒデとトラの12番機は付いて来てるか?」

(アキ)「ぴったり。ヒデが手を振ってる。あっ、雲。

海面が見えなくなったわ」

(カズ)「少し高度を下げよう。雲が切れる」


対空砲火の炸裂音。


(アキ)「わっ、真下にすごい数の船!」

(カズ)「よし!一番でかいのを狙おう。あれだ!」


急降下の爆音。対空砲火の炸裂音。


(カズ)「海面すれすれに飛行し、そのまま

体当たりをする。姫、お覚悟を!」


急降下の爆音。対空砲火音。


(アキ)「大丈夫よ。覚悟はできてる。

思いっきり体当たりして」


爆音高鳴る。弾丸の音。ビシッ。


(カズ)「うっ」

(アキ)「カズ、大丈夫?しっかりして。

体当たりするまで死なないで!お願い!」


大爆発音。


(アキ)「カズーッ!オーイクモー!」


声、大きくエコーして消えていく。



遠くから奇妙な音が聞こえてくる。ワウンワウンワウン。

音、次第に近づいてくる。

大型宇宙船がホーバリングしながら下りてくる音。


ピポパピポパワウンワウン。音高まる。

(アキ)「みてみて。皆見て!何か空から降りてきたわ」

(カズ)「おおつ、すげえ!」


(ヒデ)「わっ、まぶしい。なにこれ?大型UFOの母艦

じゃないか。ホンまもの見るの初めて。すごーい!」

(トラ)「見て。湖の底。小型宇宙船が輝きながら浮上してきた」


3Sが浮上する音。ウィーン。

ピポパワウンピポパワウンの音はずっとつづいている。


(アキ)「すごい。ドラマチック。光のトンネル!」

(ヒデ)「かぐや姫とおんなじだ。小型宇宙船が、

湖面から空中へ、母艦に吸い込まれていく」


電磁波の音。ビリビリビビビ。

リズミカルなピポパピポパピポパの音が

ワウンワウンワウンの音に吸い込まれていく。


(全員)「わあ!すごい!」


ワウンワウンワウンワウンという母艦の音が急速に高まり、

最高潮に達してバッと音がして、いきなり、

ウィーンと遠ざかっていく。


(ヒデ)「ワープしたんだ!」

(トラ)「一瞬だね」

(カズ)「500年後か」


小鳥のさえずり。鶯の声。

(アキ)「あ、夜が明けてる」

(カズ)「オーイクモって誰か叫ばなかった?」

(アキ)「わたし、夢の中で叫んでた」

(カズ)「やっぱりそうか。ここは女神湖」


(トラ)「おれ、トイレ行きたい」

(ヒデ)「トイレはボート乗り場の所だ。とにかく皆で行こう」


車のドアを開ける音。下りる音。ドアを閉める音。

(ヒデ)「あっちだ!」


砂利をふむ音。

(アキ)「あれ、昨日のおじいさんだ」


庭を掃く音。

(ヒデ)「あ、千人に似てる」

(トラ)「おはようございます。すみません」

(老人)「ああ、おはよう」

(トラ)「ト、トイレはどこでしょうか?」

(老人)「トイレは向こうのあの建物じゃ」

(皆)「ありがとうございます」

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