第4話 膝下5cm、黒縁眼鏡の秘密①


 地味子。面と向かって言われたことはたぶん、ない。だけど陰でみんなが私の事をそう思って鼻で笑っていることくらい分かっている。制服のスカート丈は校則で「膝丈程度」と指定されている。つまり極端に短すぎたり長すぎたりしなければ、別に少しくらい膝が見えていたって良いわけだ。そういう私のスカート丈は膝下5cm。野暮ったいったりゃありゃしない。


「学生の癖に、おしゃれなんて考えてはいけません」


 それが篠田家の教え。そんな暇があったら勉強しろ、とのことらしい。厳しい両親に育てられ、そこそこ優秀な中高一貫校に入学し、今だってかなり良い成績をキープしている。端から見れば順風満帆な学生生活。――なのに、私の毎日はどこかどんよりとしていて薄暗い。


「透子、眼鏡やめてコンタクトにすればいいのに」


 クラス一の美人・沙羅はそういう。


「私に似合うはずがないでしょ、起きて」

「似合うもなにも、裸眼みたいなもんでしょ?あと、髪の毛の先、整えたりしないの」

「美容院行くのめんどい」


 別にめんどくさくはないのだけれど、母的には美容院に行っている時間も「無駄」みたいで、稀に髪を切りにに行くとまるで男子のように短くカットしてもらうように、と指示される。――そうすれば頻繁に髪の毛を切ってもらわなくても良くなるから。


「透子とさ、メイクとか、スキンケアの話とかもいつかしてみたいんだよねー」

「そういう話は興味ない」


 女子校あるある、「おしゃれ度の高い順にスクールカーストが形成される」。そういう意味では沙羅が私にやたらと絡んでくるのは不思議な話だった。彼女が本当に興味があるのは、メイクだとかファッションだとか、そういう話。どうしてそんな子が私なんかと会話しようとするのか甚だ疑問なのだ。


「そっかー、まだ興味ないか」


 沙羅はいつもそうやって残念そうに肩を落とす。それでも飽きずに、毎日一回はその手の話題を振ってくる。その度に私は興味がない、と返事をする。


 私は私に地味子のレッテルを自分で貼る。


 私は私に、自分みたいなブスにおしゃれは似合わないと言い聞かせる。


 そうでもしないと、つらいのだ。




 キラキラ、ふわふわ。そういうものへの憧れが、抑えきれなくなってしまうから。

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