第5話 膝下5cm、黒縁眼鏡の秘密②


 最近、うちのクラスの桜井さんがやたらと絡んでくる。桜井さんと言うと、スクールカースト的には中くらいかちょっと上の方って感じの女の子。そのくらいの中途半端な位置にいる子って簡単にカーストが上下しちゃうから、それなりに自分の行動には気を付けていると思う。


 桜井さんはいつも見た目が小綺麗で、だけど派手ではない。友だちと話すときは基本聞き役。だけど軽い冗談を言ったりすることもある。人間関係をそつなくこなすタイプとはこの事だ。まあ、なんか頑張ってますよねー、とか思ったりする。


 そんな子が私みたいな地味女に話しかけるなんて、ちょっと変だなと思うのだ。確か、先生から押し付けられた面倒な仕事を手伝ってくれたのがきっかけだったっけ。


「私、篠田さんに興味があるの」


 彼女はそう言った。分かっている。彼女は私の唯一の友達に興味があるのだ。その証拠に、彼女はいつも沙羅の名前を出してくる。とりあえず沙羅に気に入られておけば学校生活を上手くやっていける、そう思ってる?――それなら、ちょっと甘いかな。桜井さんっていつも冷静に人間関係を俯瞰しているようなイメージがあったけれど、意外と薄っぺらいところしか見えていないんだな、なーんて。


 だから、ズバッと言ってやったの。


「桜井さんが興味があるのって、私じゃなくて沙羅でしょ」




 最近美緒ちゃんとよくしゃべってるじゃん、と沙羅が中休みに購買部のクリームパンを頬張りながら言ってきた(完全に早弁である)。


「なんだか、妬けちゃうな」


 可愛らしい笑顔でそんなことを言われたら、期待しちゃうじゃないか。


「知らない。どうせ、私じゃなくて沙羅に近づきたいんでしょ」


 思わず卑屈な発言が口をつく。期待してはダメだ。沙羅が私と仲良くしているのだって――


「本気でそんなこと思ってるの」


 沙羅が悲しそうな顔をしたから、ギクリとした。


「そんなことって?」

「美緒ちゃんが、私に近づきたくてわざと透子に……って」

「……そ、それは当たり前でしょ」


 心の中を読まれたのではないと分かり、胸を撫で下ろす。


「……そんなの許さない」


 沙羅は私にだけ聞こえるようにそうつぶやき、私の頭をぎゅっと抱き締めた。顔に柔らかいものが当たり、妙にドキドキする。こんな気持ちになるのって、変なのだろうか。




 昼休み、沙羅が桜井さんを呼び出しているのを見て、正直焦った。彼女、一体何を言う気?ただでさえ要らないことを言ってしまってかなり心証が悪いのに、沙羅にチクったみたいに思われたら何をされるか分かったものじゃない。ムカついたら即行動。そんな彼女の生き方は憧れると同時に、見ていてとても怖いのだ。

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