第12話 乱戦
「砲撃部隊! 打て! 打てぇぇーー!!」
第三騎馬部隊隊長兼一個中隊隊長マルドゥクは、空より迫り来る赤い女帝竜に向けての砲撃を命じた。これまでの威勢の良さはすっかり影を潜め、今は顔を真っ赤にして叫んでいる。
さすがに今まで相手にしてきた
ドンッ、ドドンッ、と次々に大砲の射出口から鉄球が発射される。しかし、暗闇の空を縦横無尽に飛び回る女帝竜に一向に命中する気配は無い。
そして女帝竜と一個中隊との距離が徐々に縮まっていき、遂に一キロメートルを切った。
「くそっ! 総員、抜刀ぉ!! 歩兵部隊は火矢の準備を急げ!!」
マルドゥクは半分自棄になりながら、次々に各部隊へ指示を下す。歩兵部隊は剣と火矢を、騎馬部隊は槍をそれぞれ準備し、迫り来る女帝竜に備えた。
「砲撃部隊は
「「おおぉぉーー!!」」
そして騎馬部隊を先頭に、人族の集団は目の前まで迫っている女帝竜へと襲いかかるのであった。
—— — — —
女帝竜は少し驚いていた。
まさか人族が、弓矢以外の長距離攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったからである。
ただ、自分にいくら砲撃が来ようとも避けることは容易である。それ故に、この砲撃は脅威ではないと女帝竜は判断した。しかし、この判断が後々に大きな誤算へと繋がってしまうことは、今の彼女には知る由もない。
砲撃が止まり、少しずつ人族との距離が縮まる。不本意ではあるが、降り掛かる火の粉は払わなければならない。子ども達の命がかかっているとなれば尚更である。
兵士達との距離が、残り百メートルにまで肉薄する。
女帝竜は飛びながら
「ブレスが来るぞ! 総員、左右に退避! そのまま挟めぇ!!」
マルドゥクの一声で、兵士の人垣が中央から割れる。そして、そのまま雄叫びをあげ、女帝竜の左右に陣を展開する。
「火矢! 放てぇー!!」
左右から雨のような火矢が降り注ぐ。
女帝竜は火矢を無視し、自身から見て左側の集団に向けて豪炎を吹いた。
火矢のほとんどが強固な鱗に弾かれる。しかし、その内の十本ほどが鱗の割れ目、つまり過去の大戦時の傷跡に深く突き刺さる。
それと同時に、女帝竜が吹いた豪炎により、兵士の約百人が骨も残らぬ塵と化した。
その周囲の何とか逃げ切った多数の兵士も重度の火傷を負い、これ以上の戦闘行為はとてもできない状態になる。
「ぐうッ……!」
過去の傷跡に深々と矢を刺され、女帝竜は苦痛に顔を歪ませてしまう。
痛みに耐えて飛行高度を上昇させ、再びブレスによる攻撃を仕掛けるために
「次弾、装填完了しました!」
砲撃部隊の兵士長がマルドゥクに情報を送る。
「いつでも打てるように、照準を常に合わせておけ!」
「隊長!! ブレス第二波、来ます!」
「総員! 避けろぉー!!」
マルドゥク側近の兵士が、女帝竜の動きを逐一報告する。
マルドゥクはその都度指示を出す。しかし緊張感からか、はたまた緊迫感からか。その指示が早くも精彩を欠き始めているのを、兵士の誰もが感じ取っていた。
その影響もあってか、最初は左右に綺麗に割れた兵士の陣形も徐々に崩れてきている。
好機とみた女帝竜は、崩れかけた陣形の中心部を目掛けて、今度は雷を伴った風を吹いた。
雷がバチバチ音を立て、風とともに水紋のように広がっていく。感電した兵士達の呻き叫ぶ声が、不協和音となって聞こえてくる。
これで戦死者含め、戦闘行為不能者は約五百人。残りは約千五百人。
「砲撃、放てぇぇー!!」
人族もただ黙ってやられているだけではない。マルドゥクの指示を待たず、砲撃部隊の兵士長が合図を送る。
兵士達の掛け声と共に、ブレスを吹いた直後の女帝竜へ百発近くの砲弾が迫る。
至近距離からの砲撃にはさすがの女帝竜も回避できず、約三分の一が直撃する。
「ぐあぁぁっっ!! ……うっ、うぅぅ……」
体長六メートルの左半身に余すところなく鉄球を打ち込まれ、呼吸をする度に喉の奥から変な音がする。
どうやら傷口はほぼ開き、さらには呼吸器官が損傷したようである。
(くっ、このままでは……! ラドとハクが起きる前に片付けなくてはいけない!)
鱗の隙間から少なくない量の血が流れていく。流れる血も痛みも無視し、女帝竜は血走った目を見開く。
そして翼で突風を生み出し兵士達を吹き飛ばすと、その中心地に女帝竜は舞い降りる。
しかし、その隙を兵士達が見逃す訳が無い。
「怯んだぞ! 叩めぇぇーー!!」
四方八方から剣と槍が迫り、女帝竜は息つく間も無く三たびブレスを吹くため
女帝竜はまず正面の兵士を見据え、猛々しい炎を吹く。そしてそのまま首を横にスライドさせ、骨どころか草木も残らぬ、三角形状の焼け野原を作った。
それと同時に、兵士達は後方と両側面から夥しい量の剣と槍を浴びせる。
鱗の隙間に彼らの武器が突き刺さったまま、女帝竜は身体を反転させる。そしてその鉤爪と
次々と兵士達は無惨な死体と化していく。まさに血みどろの乱戦模様となった。
人族の残存兵士、残り九百人。
—— — — —
(くそっ! 間に合うか!?)
乱戦模様の女帝山の麓。ここに人知れず近づく、一つの影があった。
焦りの形相で早馬に乗り、暗闇の草原を疾駆する。
この影の正体であるライアスは、逸る思いのまま己の信念を貫こうと戦場へと向かっていく。
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