第32話ハロウィン編裏話 メイリン

 テイラーはドラゴンバスターオンラインの生産職の中でもなかなかの人気を誇っている。人気生産職の双璧は、ウェポンスミスとアーマースミスで、前者は武器の作成を。後者は金属防具と鱗防具の作成ができる。

 テイラーはこの次に人気の生産職となるのだが、実用品は皮鎧しか作成できない。それが何故ここまで人気なのかというと、カスタマイズの自由度だろう。カーペンター(大工)と並び、テイラーのカスタマイズ自由度は非常に高い。


 服はベースとなる形自体は決まっており、それぞれレシピが存在する。ロングスカート、ミニスカート、フレアスカートといった感じだ。

 オーソドックスな素材は色付きの糸になるが、モンスターの髭といった変わった素材もものによっては服になる。

 毛皮なども素材として使うことができ、ファーコートやファーブーツ、マントといった服レシピに使うことができる。レシピ自体非常に多岐に渡っているが、テイラーの真骨頂は、作成後である。

 もちろん服はそのままでも着ることが出来るのだが、テイラーは作成後にデコレーションアイテムというカスタマイズができるアイテムを使用し、柄を付けたり、ワンポイントを付けたりすることができる。


 先ほどリベールのうさぎへメッセージを送ったメイリンは、彼女が依頼を受けてくれてもくれなくても、彼女のための服を作ろうと素材を自宅の机の上に並べていた。


「姉さん、ちょっと地味過ぎない?」


 さあ作成だと構えたところ、横から口を出してきたのは妹ことイチゴだった。イチゴはどうも勘違いしているようで、「リベールさんは可愛いものが好き!」と誤解してる節がある。

 実際リベールに確かめたわけではないので、メイリン自身の考えも誤解かもしれないが、普段の少女風騎士スタイルを見る限り、きっとシンプルかつ胸が気にならないものがいいはずだ。

 胸の件は、以前水着をリベールに売った際に彼女がいい顔をしなかったからそう推測している。


「きっとリベールたん、ピンクより今から私が作る服を気に入ってくれるわよ」


 自信たっぷりにメイリンはフフンと言いながら、服の製作に入る。作成したのは三点。シンプルな黒のワンピースと、濃紺のハイソックス、麦わらブーツだ。

 ワンピースには、レースをカスタマイズで取り付け、ハイソックスにはワンポイントに三日月マークを入れた。ブーツには紐素材にこだわってみた。

 きっとこれならリベールたんは気に入ってくれる!メイリンは完成品を見つつ笑みを浮かべる。隣で、不満を漏らす妹は無視だ無視。



 リベールからの反応を待つものの、一行にお手紙が来ない。ドラゴンバスターオンラインではポスト機能というシステムが導入されていて、家に取り付けたポストに手紙を投函することができる。

 やり方は簡単で、ポストが設置されている家の看板をクリックして「手紙を投函する」というメニューを選びメッセージを書くだけだ。

 返事を書くときは、ポストで手紙を受け取った後、手紙の内容がゲーム内メールと同じように表示されるので、メッセージを書き「返信」ボタンをクリックするだけだ。


 「返信」メッセージは、投函した人のゲーム内メールボックスにメッセージが届く。このシステムは、フレンド同士やギルドメンバー同士でないプレイヤー同士でも通信可能なので、特にお店を営業している人の家にはよく使われる。

 「木材200切れてます。補充していただけませんか?」といった形で家主に手紙を投函しておくと、家主が確認すれば、商品を補充するなり、投函者自身に木材200を直接取引したり......といった形で利用できる。


 投函してから三日が過ぎる頃、ついに我慢できなくなりメイリンこと木下梢は竜二にスマートフォンでメールを送ることにする。


<リベールたんから返事がないのー>


<分かりました。先輩。俺からゲーム内メッセージ送っときますよ>


<ありがとう!メッセージ見てねと伝えてね!>


 竜二から返信のメールが来ると、即メールを返す梢。彼女は、待ちきれなくてソワソワソワソワしていた。

 ダメだ。紅茶でも飲んで落ち着こう。梢はキッチンまで行きお湯を沸かし始める。


 お湯が沸騰し、ティーパックをマグカップにセット。いざお湯を注ごうとした時にスマートフォンが振動する。


<リベールさんと連絡取れました。30分後にリベールさんの家でよいですか?>


 梢は余りに勢いよくスマートフォンを手に取ってしまったため、ポットからお湯が零れ足に少しかかってしまったので、熱さで飛び跳ねてしまう。

 しかし、スマートフォンは手から離さず、さらにはメッセージまで打ち込んでいた。無駄なところで執念深い梢であった。


<やったー!ありがとう竜二くん>


 「熱!」と叫びながらも、しっかり竜二へ返信する梢の素晴らしい根性......



 30分かあ。ま、いいや先に行っておこう!ちょうど妹もログインしていたので、妹もリベールの家に誘いリベールがログインしてくるのを二人で待つことにした。

 妹にも手伝ってもらうことがあるしね!


 二人でリベール談義をしていると、リベールがリビングにログインして来る。相変わらずの少女騎士風の衣装だ。


「やっほー。リベールたん」


 メイリンはリベールへ手を挙げ挨拶をする。


「こんにちは。メイリンさん」


 リベールはいつもの落ち着いた雰囲気でメイリンに応じる。

 さあ、いよいよだ。リベールたん気に入ってくれるかなあ。メイリンはギュッと手を握り締めた後、プレゼントボックスを床に置く。


「リベールたん!普段着つくったんだ、見て見て」


 シンプルな黒のワンピースと、濃紺のハイソックス、麦わらブーツをひとしきり眺めたリベールは、ワンピース一式を手に取り装備をそれに変更してくれた!

 くるりと一回転したリベールはメイリンに「どうかな?」と無言で言っているようだ。「似合う!似合う!」と声には出さないが態度で示すメイリン。


「ありがたくいただくよ」


「気に入ってくれてよかった!リベールたん、騎士だしシンプルなのが好きかなと思ってさ」


 よかった!気に入ってくれたんだ。やっぱりシンプルなほうがいいんじゃない。メイリンはリベールの好みに合っていたことに万歳して喜びを表したいほどだった。


「えー、リベールさんは可愛いのが似合うよー」


 妹が不満を口にするが、まだ分からないのかこの娘は......はあとため息をつくメイリン。


「あ、リベールたん、ちょっとこっちへ」


 メイリンは「調整」スキルを使用すると、彼女の手元が光り始める。すると、ワンピースに少し変化が生じる。リベールの着ているワンピースの肩にコウモリが三匹装飾され、足元のレースの上に同じくコウモリがあしらわれ、ハロウィンカボチャも一匹顔を出していた。


「ハロウィンバージョンだよ」


 ニコっとメイリンはリベールのワンピースに指を向ける。


「ありがとう。メイリンさん」


 リベールはペコリとお辞儀をするのだった。

 その後、リベールはメイリンの依頼を快く受けてくれたので、イチゴと待ち合わせの約束をしてもらってその日はログアウトしていった。



 リベールと一緒に「月見草」と取りに行ってくれたイチゴが戻ると、三色全て集めて来てくれていたのでメイリンは何度もありがとう!とイチゴにお礼を言うのだった。

 何やらイチゴはそれどころではなく、ニヤニヤしている......


「イチゴ、どうしたの......?」


 不信なものを見る目でメイリンが問うとイチゴはニヤニヤを崩さず。


「リベールさん、蜘蛛怖がって逃げちゃった!可愛い!」


 リベールは意外にも蜘蛛が苦手との話を熱弁され、蜘蛛は使わないようにしようと誓うメイリンであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る