第31話ハロウィン編 蜘蛛!

 ジャッカルから手渡された衣装はゴルキチを大いに満足させる出来栄えで、パソコンの前で竜二はニヤニヤしっぱなしだった。

 ファーの付いた前掛けに、ゴテゴテした鋲入りのベルトと左肩のみの肩当て。鋲入りの袖なしジャケットを羽織り、アンダーウェアは着ない。下は黒の皮でできたシンプルなズボンになっている。

 おまけで血糊付きの肉きり包丁に、胸か背中に装着できる蜘蛛のタトゥーまで付けてくれた。

 これは何かお礼をしないとなあと竜二は思案するもすぐに思い浮かぶようなものは残念ながらなかった。


 ともかく、せっかく衣装まで作ってもらったのだから、ハロウィンお菓子を大量に作るぞー。ヒャッハー。竜二は世紀末にノリノリだった。

 この後、先輩との約束があるから、それが終わってからお菓子作ろう。竜二は一旦ゴルキチをログアウトさせるのであった。



 時間どおりにイチゴがリベールの家を訪ねて来てくれたのでさっそく月見草を取りに「王狼の渓谷」に向かう。

 移動魔法は本当に便利で、家から一瞬で「王狼の渓谷」だ。

 相変わらず、「王狼の渓谷」は美しい。渓谷はドラゴンバスターオンライン屈指の名所と言われるだけの景観を備えている。満月によく合うススキの揺らめきは見るものに感傷を与えてくれる。よけいな狼さえいなければ。


 優美な景色をゆっくり眺めてても進まないのでリベールとイチゴはすぐに渓谷外縁部を目指す。

 外縁部の崖を登りきった先に探していた月見草はあった。

 満月に映える月見草は非常に美しく、可憐な4枚の花びらの中央から出る長いめしべはボンヤリと光っている。風に揺れる月見草は満月もあって幻想的で見るものを魅了する。


「ありがとう、イチゴさん。さっそく月見草を採取しよう」


 リベールが月見草を取った瞬間に、「雷神の王狼」が物凄い勢いで崖を駆け上がり、彼女はボスエリアに飛ばされる。イチゴとはパーティを組んでないのでボスエリアに飛ぶのはリベールのみになる。


 仕様として月見草採取時の「雷神の王狼」襲撃率は100パーセントで必ず襲われるようになっている。これを撃退して初めて月見草が手に入るのだ。


 リベールにとって「雷神の王狼」はたいした相手でもない。グルードは盾を巧みに使い攻撃モーションそのものを塞いでいたがリベールは違う。

 全てのパターンを見極めた半歩単位での精密な動きは、王狼の攻撃を全てすり抜ける。すり抜けつつも攻撃の手は緩めない。


 月見草は白、黄、ピンクと三種類あるので、全種手に入れ二人はジルコニアに帰還する。



 ジルコニアの門を抜け広場に向かう途中のことだ。突然運営より全体放送が入る。


<いつもドラゴンバスターオンラインをお楽しみいただきありがとうございます。運営より、皆様に日頃の感謝を込めまして突発イベントを準備いたしました>


<これより、ジルコニアの広場に難易度9「女王蜘蛛」が出現いたします>


 運営の全体放送が終わるやいなや、ジルコニアの広場に「女王蜘蛛」が数体出現する!

 ハロウィンムードで和気藹々としていたプレイヤー達は阿鼻叫喚と化す。


<また、この時に限り特別な衣装を用意しました。トリックオアトリート!>


次に起こったのはプレイヤーの衣装が突然変わったことだ。


「え、」


 リベールのワンピースについていたコウモリが突然飛び立ち、リベールの周りをクルクルと飛び回り始める!


「リベールさん?」


 不安そうにリベールを見るイチゴも、帽子に着いていたカボチャが飛び跳ねている。


 次の瞬間、コウモリとカボチャが音を立てて爆発し、白い煙が舞う。煙は二人を覆い尽くし、数秒後に霧が晴れると二人の衣装は変化していた。


 イチゴはスカートがカボチャに変わり、上半身も黒のレースがついた袖なしの肩が大きく露出したものに変化する。持っていた杖は箒に変わり、帽子は先端がクルクルと巻いたものに変わっていた。


 一方のリベールは、ワンピースがビキニのようなレースのついた黒のブラジャー、超ミニの黒のスカートに変わっていた。何より、お尻から悪魔の尻尾のような先の尖った尻尾が生え、背中からはコウモリの翼が生えていた。


 うあああ!なにこれー。悪魔スタイル?、ビキニはよくない、よくないぞ。変化を見た竜二は頭を抱える。


「悪魔っ娘!」


 イチゴがじーっとリベールを凝視している。

 ダメだ、目立つぞこれ。竜二はとっさにリベールを操作する。

 リベールは、胸に膝を付け、両腕で膝を抱えこむような姿勢でしゃがみ込む。


「......」


「どうしたの?リベールさん?」


 しゃがみ込まれて少し残念そうなイチゴが尋ねてくる。

 どう答えたらいいものか、まさか「見ちゃいやーん」と答える訳にはいかない。

 リベールは焦る。何かないか何かないかと周囲を見渡し、蜘蛛が目に入る。


「く、蜘蛛......」


 自分でも何言ってるか分からない。「蜘蛛って何だよ!」竜二は自分の発言に突っ込みを入れている。


「蜘蛛?ああ、広場で暴れてるわね」


 広場に向き直り、蜘蛛を確認するイチゴ。


「あ、ああ」


「リベールさん、倒しに行くの?」


 とんでもない!倒しになんて行けばパンサーの二の舞じゃないか!

 リベールはとんでもないことを言い始めたイチゴに突っ込みを入れていた。もちろん口には出さない。


「い、いや......」


「そうなの?まさか」


 イチゴのその先の言葉を聞かず、これ以上間が持たなくなったリベールは、目立つ前にジルコニアを立ち去ってしまった。


**************************************************************

[悪魔娘?]少女騎士リベール その223ぺったん


<スペック>

名前:リベール

性別:女

職業:ベルセルク

特徴:身長低め、茶髪アップに黒目の怜悧な顔、ぺったん

装備:武器 レア度9常闇の斧 レア度2 黒のワンピース、ハイソックス、ブーツ 

出没場所:ゆっくりモード?


10.名無しの魔法少女

リベールさん、悪魔娘になってたよ。


12.名無しのバスター

蜘蛛は悪魔になるのかな?運営が本気出しすぎww種類多すぎで把握できんww


13.ぺったんマスター

悪魔娘。尻尾に羽!ハアハア


15.名無しのジャッカル

>>13

お前はそれしかないのかwww


18.名無しの魔法少女

リベールさん、可愛かったwww


20.名無しのドラゴン

>>18

詳しく!


21.ぺったんマスター

>>18

詳しく!


22.名無しの魔法少女

ジルコニアで蜘蛛出たでしょ。そこで悪魔娘に変わったんだけど、しゃがみ込んじゃったの。


23.ぺったんマスター

隠すなんて勿体無い!


25.名無しのバスター

それでそれで?


26.名無しの魔法少女

「く、蜘蛛......」って言って逃げちゃった。


28.名無しのドラゴン

それはwww


29.名無しのジャッカル

リベールたん、蜘蛛怖いのかwww


24.ぺったんマスター

可愛いwwwハアハア

**************************************************************


 最後が逃げるようになってしまったものの、蜘蛛と戦闘することなく目立たぬままリベールをログアウトさせることができた竜二は、一定の満足感を得ていた。

 あのまま、「王命だ」とか言って、あの衣装で戦闘することを想像するとゾッとする......逃げてしまったがまあ正解だろう。


 掲示板の盛り上がりも知らぬまま、竜二はゴルキチでログインし、ハロウィンお菓子でヒャッハーしていたという。知らぬが仏がまさにここにあった......

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る