第30話ハロウィン編 ワンピースとポップコーン

 そろそろ先輩との待ち合わせ時間なので、再度リベールでログインする竜二。

 リベールがログインすると、すでにメイリンと何故か魔女帽子まで一緒にリビングで寛いでいた。


「やっほー。リベールたん」


 赤髪に星マークのメイクをしたメイリンは、いつもの軽い調子でリベールに挨拶してくる。


「こんにちは。メイリンさん」


 リベールが着ている装備は、室内に似つかわしくない少女騎士風装備だ。室内では少し違和感があるが、騎士風衣装は自分で決めたリベール像なので、竜二が特に思うところはない。


「リベールたん!普段着つくったんだ、見て見て」


 床に置かれた真っ白の四角い箱に、赤いリボンが巻かれたプレゼントボックスをリベールが開くと、シンプルな黒のワンピースと、濃紺のハイソックスに、麦わらを編んだようなブーツが入っていた。ワンピースは、裾にレースが施してあり、シンプルながらも凝っている。

 ワンピースと合わせるように、ハイソックスもブーツもシンプルながら細かいところにこだわりが見える。

 これなら着ても悪くない。

 リベールはピンクな服や、ゴシックな服しか今まで渡されたことがなかったので、少し感動していた。

 さっそく、メイリンの目の前でワンピース一式を装備するリベール。

 リベールはその場で一回転し、メイリンに向き直る。


「ありがたくいただくよ」


「気に入ってくれてよかった!リベールたん、騎士だしシンプルなのが好きかなと思ってさ」


 うんうん、リベールは人から与えられる衣装にはじめて感謝していた。

 さすが先輩!分かってる。パソコンの前で竜二はガッツポーズまでしている。


 これに少し不満気なのが、魔女帽子だ。


「えー、リベールさんは可愛いのが似合うよー」


 やかましい!余計なことを言うな。心で魔女帽子を責めるものの、もちろん口には出せない。


「あ、リベールたん、ちょっとこっちへ」


 リベールが近寄るとメイリンは、テイラーのスキル「調整」を発動する。あの憎き水着の時に使ったスキルだ。


 メイリンの手元が光るとワンピースに少し変化があった。


 見るとリベールの着ているワンピースの肩にコウモリが三匹装飾され、足元のレースの上に同じくコウモリがあしらわれ、ハロウィンカボチャも一匹顔を出していた。


「ハロウィンバージョンだよ」


 ニコっとメイリンはリベールのワンピースに指を向ける。


「ありがとう。メイリンさん」


 リベールはペコリとお辞儀をするのだった。皆こういうセンスだったらいいのになーと竜二は遠い目をしていたのだったが。


 その後、リベールはメイリンからの月見草の依頼を受けることを伝えると、メイリンはお礼を言った後、魔女帽子を連れて行ってもらってよいか聞いてくる。


「あたしの移動魔法で、王狼の渓谷まで移動できるのよ」


 魔女帽子は見た目通り、メイジという魔法を使う職業で、メイジのスキルに移動魔法というものがある。移動魔法は予め登録した場所へ移動することが出来る魔法なのだ。

 登録できる限度数はあるが、移動には非常に便利な魔法で、これを使いたいがためにメイジになる者もいるくらい人気のスキルだった。


「明日この時間にイチゴさんが都合つくなら、移動魔法をお願いしていいだろうか?」


 リベールは、魔女帽子の上部に出ているキャラクター名を確認しつつ、名前を呼んだ。魔女帽子の名前はイチゴというみたいだ。

 ゴルキチのフレンドリストに名前があるのだから、いい加減覚えていてもいいものだが、ずっと心の中で魔女帽子と読んでいた手前、竜二はキャラクター名は見てなかった。


「うん、明日この時間なら大丈夫だよ。楽しみー」


「明日は、この服を着ていってもいいだろうか?せっかくいただいたので」


 リベールが上目使いのモーションをし、メイリンを見つめると。メイリンは大喜びで「もちろん」と答えた。その隣で、イチゴが何やら「やーん、やーん」と悶えていたが......見なかったことにしたリベールであった。



 竜二はリベールをログアウトさせると、ゴルキチでログインし、いよいよコックで遊ぼうとまずはジルコニアの街へと向かう。

 ジルコニアの中央広場から西地域はレストラン街になっており、そこで様々なレシピを販売している。料理はもちろん「料理」スキルで行うのだが、一部料理はスキル無しでも作成することができるようだ。

 ほぼ全ての料理にはスタミナ回復効果がある。一部エンチャント料理と言われるものは微妙に攻撃力が上がったり、体力が回復したり......と効果がある。他に有用な料理としては、環境対策ができる料理だ。


 暑いところや、寒いところ、水中など過酷な環境の影響を少しだけ抑えてくれる料理がある。これらの多くはドリンク類となっており作成にはモンスターの素材が必要になってくる。

 例えば、水中での活動時間を伸ばしてくれる酸素ドリンクを作るには、難易度6「水中花」の素材が必要になる。


 しかし、運営の料理にかける情熱が半端ないな......ゴルキチは各料理屋で販売しているレシピを覗きつつ戦慄している。各料理屋には、レシピが10枚ほど売っており、一つのレシピにはそれぞれ五個ほどの料理が記載されている。

 ジルコニアだけでもレシピを販売している店は10を超える。さらに、他の街でもレシピは販売しているのだ。

 ざっと計算しただけでも、その数500!他の街を含めるとおそらく1000近くにはなるんじゃないだろうか。


 ゴルキチは、さすがにこの量のレシピを片っ端から試す気にもなれずに、幾つかのレシピとハロウィン特設のレシピを数枚買うことにしたのだった。

 レシピを買ったゴルキチはさっそく料理を行おうと、ジルコニアの厨房に向かうことにした。料理はレシピによって必要な調理器具が違う。

 単純に肉の丸焼きならば、野外での焚き火で事足りるのだがケーキを作るとなると、ボウルやホイッパーと呼ばれる泡立て器などの調理器具に加え、オーブンなどの調理施設も必要となってくる。

 これらは厨房に全て設置してあるため、誰でも手軽に利用することができる。また、厨房にあるアイテム類は全て自分の家に設置可能である。

 そのため自宅に厨房を設置し、ケーキ屋さん、パン屋さんを開店しているプレイヤーもいるほどだ。


 まずはポップコーンを作ってみよう。ゴルキチはフライパンを手に取り、材料の「ポップの種」を使用すると料理のモーションが始まり、ポップコーンが完成する。このままでは味が付いてないので次に「塩」使うと「ポップコーン(塩味)」が完成した。

 作り込みが細かい!運営の本気を見た気がする......ゴルキチは細かい作りに素直に感心するのだった。

 残念なのは、ゲームなので味わえないことだがせっかく作ったので「ポップコーン(塩味)」を使用する。

 しかし、スタミナが満タンだったので、「ポップコーン(塩味)」が消費されたのみでゴルキチには何の変化もなかった......


 料理アイテムは消費アイテムなのでもちろん消費すると無くなる。様々な種類があるのは、運営こだわりの雰囲気作りなのだろう。

 こういう細かいところにこだわってくれるのが好ましいと思うプレイヤーは多数いるため、ドラゴンバスターの料理は概ね好評だ。

 次は何を作ろうかと手持ちのレシピを物色するゴルキチにメッセージ着信のお知らせが届く。


<服できたぞ!ジルコニアの広場でいいか?>


 なんとジャッカルがもう服を作ってくれたらしい。急ぎ返信するゴルキチ。


<はやいな!ビックリだよ。今ちょうどジルコニアにいるから広場行くよ>


<お、俺もジルコニアにいるから今広場向かう>


 なんというタイミング。生産職人はジルコニアにいることが多いとはいえ、ジャッカルに手間がかからなくてよかった。

 ゴルキチはレシピを仕舞い込み、広場へと向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る