第33話トレハン編 しかし料理だ

 唐突だが、ドラゴンバスターオンラインには、トレジャーハントというシステムがある。

 プレイヤー間では、トレハンと呼ばれるこのシステムは、宝の地図を入手し、地図を見ながら宝箱を探すというものだ。

 宝箱は様々な場所に隠されており、フィールドはもちろん、山脈、海底、洞窟など多岐に渡る。

 これらトレジャーハントに必要なスキルを全て持つのがトレジャーハンターだ。


 しかし現在トレジャーハントは不人気を極めていた。まず地図の入手が大変だ。地図は難易度8以上のボスから低確率で出すか、地面や鉱石を掘ったときに稀に出るものか、釣りで引き上げるかと、トレジャーハンターでは難しい作業だった。

 追い討ちをかけるように、宝箱の中身がしょっぱい。もうこれでもかというほどしょっぱい。

 具体的には、難易度4相当の素材しか入っていない。これではせっかく作り込んだシステムでもやるものは皆無となるのも仕方ないことであった。

 ダメだダメだと言われているトレジャーハントは、システムとしてはよくできていたので本当に勿体無いと言われていたが、運営はついにトレジャーハントの全面改装に乗り出したのだ。



 竜二はハロウィンイベントが終わってからも、ゴルキチでログインし、ジルコニアの厨房にこもり料理に勤しんでいた。世紀末風の衣装も気に入っていたし、作り始めるとそれぞれの料理ごとにグラフィックが違い、収集癖に火がつき癖になって来た様子。

 さあ次の料理を作るかと血濡れの包丁を構えたところ、メッセージが届く。


<ゴルキチ、トレハンアップデート来るみたいだぞ>


 メッセージはジャッカルからだった。ジャッカルが言うにはトレジャーハント、通称トレハンのシステムが大幅に変わるらしい。ゴルキチの記憶では、トレジャーハントは出るアイテムがまるでダメという印象だったが。

 せっかくジャッカルから情報をもらったので、竜二はさっそくドラゴンバスターオンライン公式サイトを見てみることにする。


 来月トレハンが変わる!


 皆様お待たせいたしました。いよいよトレジャーハントが全面リニューアルされます。主な要素はこちら。


1.宝の地図の出現率が上がります。

2.宝の地図にランクが記載されるようになります。宝箱の報酬はランクに応じた内容になります。

3.高ランクの宝箱については、必ずボスモンスターが出現し強制戦闘となります。ボスモンスターの強さはランクによって変わります。また、ボスモンスターは事前に練習モードに実装いたします。

4.トレジャーハンターの装備が改善され、ボス戦もそれなりに戦えるようになります。


 ほう。これは楽しいかもしれない。必ずボスとの戦闘になるのか。なら宝箱とボス素材の両方が手に入るのか!ボスがどんな相手なのか楽しみだな。

 最近の運営は気合が入ってるから、同じボスの攻撃力をいじるだけじゃなく、ちゃんと別のグラフィックでボスを準備するかもしれない。

 しばしトレジャーハントに思いを馳せ、トレジャーハントの大型アップデートに惹かれたものの、しばらくは料理でゆっくりしようと竜二は考え、料理の材料調達のため、一旦ジルコニアの街を離れることにする。


 今日は農場・農家の村トロンで麦わら帽子のファーマー――ルパーンと会う予定だったゴルキチは、街からトロンの村へ向かう途中、ジャッカルに<公式サイトを見た。俺は、しばらく様子見でコック続けるよ>と返信しておく。

 料理には様々なレシピがあり、様々な材料を使う。そのため、農作物や肉を手に入れるのに農場や牧場にもゴルキチは訪れるようになったいた。そのため、しばらく繋がりが切れていたルパーンや羊飼いの少年とも最近また会うようになっているのだった。


 農場・牧場の村トロンについたゴルキチは、時折聞こえる牛の鳴き声や、整備された牧場、農作物でいっぱいになった畑を見ながら水車の音を楽しむ。

 やはり、トロンはよい。あのときは逃げ出してセイラーになってしまったものの、またファーマーをやるのもよいかもしれない。羊飼いでもいいか。

 など益体もないことを考えながら、ノンビリと水車のそばに座っていると、麦わら帽子の人好きをする顔をした男――ルパーンが背に大きなカゴを抱え、やって来る。カゴは農作物でいっぱいになっていた。


「ルパーンさん、ありがとうございます!」


「いやいや、おいしい料理にしてくれよー」


 ルパーンは笑顔で背に抱えたカゴごとゴルキチに手渡す。ゴルキチはルパーンからカゴを受け取ると、自作した料理を十種類ほどルパーンに手渡した。

 彼らが取引した農作物と料理はゲーム的には何らレアなアイテムではない。

 しかし、お互いこれらを生産することが楽しかったし、コックとファーマーという職業に成り切って遊ぶのも同様だった。

 そういったこだわりを持つプレイヤーにとって、ドラゴンバスターオンラインは悪くないゲームと言える。


 何しろ、生活感を出すだけのアイテムだけで数百種類あるのだ。その全ては家のオブジェに使えるし、床に置くこともできる。もちろん、全て立体感のあるグラフィックだ。

 ドラゴンバスターオンラインでは、アイテムは全て床に置くことが出来る。細かいアイテムを組み合わせて、花に見せたり、タンスに見立てたりすることも可能なので、アイテムの組み合わせで家を飾るプレイヤーも多い。


 農作物を受け取ったゴルキチは、羊飼いの少年から、羊肉を買い取り、一旦自宅に戻る。ゴルキチの自宅は運営が準備しているノーマル建築で建てたもので、飾り気の無いシンプルなレンガの家だ。

 家は平家になっており、白のレンガに赤茶色の屋根と色合いと素材もジルコニアの街にある家に近い。

 ゴルキチ自身、家のカスタマイズに興味が無いことは無いが、元よりデザインは苦手で、リベールの家が物凄いのでそれで満足してしまってるところもあった。ただ、リベールの家にある二階は記憶から抹消してはいるが。


 今日は先ほどルパーンや羊飼いの少年から頂いた食材は使わない。というのは、イチゴからドリンク類の作成を頼まれているのだ。

 料理の元となる食材は様々なところから採取する必要がある。ドリンク類は、水桶などから取れる水にくだもの類。発泡するドリンクなら、川や池に自生する空気草が必要になる。ものによっては、ボス素材まで必要なものまであるのだ。


 ゴルキチはイチゴに納品するドリンク類が完成したので、さっそくイチゴにメッセージを送ると、今ジルコニアにいるとのことだったので移動することにしたのだ。


「お待たせ。移動魔法があると早いんだけどなあ」


 すでに待っていた魔女帽子ことイチゴはジャッカルとトレジャーハントの話題で盛り上がってるようだ。


「ジャッカルさんと話していたし、全然大丈夫よ」


 イチゴは隣のジャッカルと顔を見合わせる。お互い笑顔で肩を竦める。ゴルキチはドリンク類の詰まった木箱をイチゴに渡し無事納品を完了する。


「いや、今回のトレハン報酬すごいぞ」


 ジャッカルは興奮気味だ。


「どんなのなんだ?」


 ゴルキチが尋ねるとジャッカルは答える。


「レアな武器防具は全くないな。全て趣味品になる」


「どこかに乗ってるのか?報酬?」


「ああ、公式サイトにさっき発表されたんだ」


「それは楽しみだ。ありがとうジャッカル」


 ゴルキチは情報通のジャッカルに感謝するのだった。この後何があるか見てみることにしよう。


「あ、ゴルキチさん」


 魔女帽子ことイチゴが、ゴルキチの逞しい胸筋を指差している。ゴルキチが今装備しているのは世紀末風衣装で自分ではなかなかカッコイイと思っている。


「ん、この服か?カッコイイよな」


「え、いや、そうだといいわね。そうじゃなくて、その胸につけてるやつ」


 ん、胸にはジャッカルから服をもらった時に一緒についていた蜘蛛のタトゥを付けているのだが。これがなんなのだ。ゴルキチは不思議に思う。


「リベールさんの前では、その刺青外したほうがいいよ」


 イチゴはそうアドバイスをくれたが、リベールと蜘蛛に何の関係があるのか分からなかったゴルキチは、とりあえず曖昧に頷いておいたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る