第23話

「……そうなんですか?」

ドキッとして聞き返した

すると先輩は

「そりゃそうだろ

今まで見向きもされなかったんだろ?

愛想笑いくらいする子なら、

何度か目が合っててもおかしくないだろ」

それもそうだ

ガラスケースに入ってる印象を抱くほど

彼女は周りを排除してる様子だった

「それが何かの間違いっつーか、偶然っつーか

たまたま体調悪くてどうしようもなかったからだろうけど、今まで避けてた隙間からお前を覗いたんだよ」

わかるか?という風に先輩は話す

「ただの気紛れかもしれんけどな

その子にとっちゃ大きな事なんじゃねーの?

そのきっかけを大事にしろって言ってんの」

……まさか先輩からこんな風に気付かされるとは思ってもみなかった

確かにそうだ

千載一遇のチャンスか?

「次 大事ってのはそういう事なんすね」

自分で確認するように呟いた

「……先輩、」

「なんだよ?」

「伊達に先輩じゃないっすね」

「はぁ?」

「褒め言葉です」

「ならいい」

先輩は笑って煙草を消した

「戻るぞー」

「はい」

休憩を終えてホールに戻る

……浮かれてちゃダメだ

インカムを耳に付けながらそう思った

さっきの先輩の言葉が頭に張り付いていた

隙間から覗いてくれたのか

なら、次はどう出たらいい?

次にまた会えた時、彼女はまたこちらを覗いてくれるのだろうか

覗いてくれたら、手を伸ばしてもいいのだろうか

今までの経験を振り返ってみたけど

……役に立ちそうにないな

ダメだこりゃ わっかんねぇ

だとしたら、余計なこと考えない方がいいのかな


いつも通りホールの業務をこなしながら、モヤモヤと考えていた

何も意識しなくても身体は動いていた

連チャン引いてるあの台、そろそろまた箱換えるのに呼ばれそう

あの人はひと箱飲ませたら止めるから、終了の合図が来そうだ

今日はこのレーンのあの台が調子悪いな

また玉詰まりか

休憩から帰って来ない台の呼び出しをカウンターに頼みに行って

この台番の呼び出し?

……ああ、あのおばあちゃんだな コーヒー飲む時間か

思えば学生の頃最初にこのバイトに入った時は、

目が回りそうだと思ったっけ

慣れるもんだよな

慣れると自然に動く

……そうか 彼女にも慣れてもらえばいいのかも

とりあえず、僕という存在に

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